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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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原点回帰(7)

 

「これ、何?」

 先生が取り出したのは、直径1センチほどの小球だった。

「指弾というものだ」

 先生は手のひらに指弾を包み込み、親指で弾いた。小球は、ひょうと鳴って、5メートル先の的の真ん中に当たった。

「思ったより軽い」

 イリナイワノフは先生を真似て指弾を撃った。これも当たった。

「アルミとプラスチックだからな」

「鉄とか鉛にしないの? そっちのほうが威力ありそうだけど」

「確かにそうだが、たかがしれている。本来、中にいろいろ仕込んで使おうということで、この重さにしている。重さが変わると扱いも変わるからな」

「何を仕込む?」

「現状では目つぶしがいいところだな。お前の用途には役立たない。だが、爆薬が仕込めれば」

 先生は言いながら指弾を放つ、的が爆裂し、破片が飛び散る。

「すごいじゃない」

「爆薬の性能は威力よりも安全性だ」先生は首を振りながら話す「爆発させたくない時には絶対に爆発しないという安全性が必要なのだ、そうでないととても持ち運びできないからな。ターゲットに当てた衝撃で爆指弾は爆発しなければならないが、その程度の衝撃で爆発されたのでは、危険すぎて使えない。だが…」

 先生はイリナイワノフのラバースーツを指で押した。

「ダイラタント素材を使えば、衝撃力をコントロールできる。お前の知り合いにそういうことが出来そうなのはいるか?」

 イリナイワノフは、タケルヒノとジルフーコを思い浮かべた。

「いるよ」

「それは頼もしいな」先生は笑った「帰ったら相談してみるといい。もしかしたら、ものになるかもしれん」

 

 昼食の時は話がはずんだ。イリナイワノフは、さっきタケルヒノとジルフーコのことを思い出したので、そこから、新しい友達(丶丶)のことを先生に聞かせた。

「それがさあ、まだトマトがちっちゃいうちに食べちゃったんだよ、ジムドナルドが…」

「ジムドナルド? ニューヨーク州立大のジムドナルド博士か?」

「知ってるの?」

「まあな、退役したとはいえ、昔の仕事がらみで、いろんな話が耳に入ってくる。それに彼は、ちょっといろいろ(丶丶丶丶)やっているからな」

 いろいろ(丶丶丶丶)、の内容については、先生は教えてくれなかった。先生はジルフーコの名前も知っていた。

「なかなかの人選だ。他の子たちのことはよくわからないが、きっとすごい能力の持ち主だろう」

「ほんっと、すごいんだよ。みんな化け物みたいに頭がいいんだ。モンスターだよ」

 うれしそうに語るイリナイワノフを、先生は目を細めて見つめていた。

 

「もう、行くのか?」

「うん」

 訓練場の前、イリナイワノフはきちんとヘルメットをかぶって、先生の前に立っていた。

「どうやって帰る?」

「さっき呼んだから、もうすぐ迎えが来ると思う」

「そうか」

「うん」

「あ、そうだ」

「うん?」

「そのヘルメット、頭を守るには十分だが、格闘時に首に負担がかかる。スーツのほうからサポートを伸ばして、支えるようにするといい」

「うん、わかった、宇宙船(ふね)に帰ったら相談してみる」

「そうだ、それがいい。それから…」

 山の麓から、迷彩を施した二台の軍用トラックが登ってくる。

 訓練所の前で止まると、乗っていた兵士たちが、イリナイワノフと先生の前に展開した。

「おい、お前ら」先に口火を切ったのは先生だ「この間も、この子にコテンパンにされた挙句に、儂のところに泣き落としにきたっていうのに、また、性懲りもなく一戦交える気か」

「うるさいっ」正面の将校が叫んだ「今度は準備万端だ。この前のようにはならんっ」

――ダメだ、こりゃぁ。準備万端とか言いながら、人数を5人から20人に増やしただけじゃないか。なにも考えとらん。最近の若いものは、などとは言いたくないが、それにしたって酷すぎる。

 先生が、軍の惨状に嘆息している間、イリナイワノフは、ずっと空を見つめていた。

 それは、最初、わずかな光点で、しかし、みるみる光を増して燃えさかる火の玉になった。やっと、皆が気づいてうろたえ出した時には、火球はまっしぐらにここに落ちてきているのがわかった。

 凄まじい轟音と振動、墜落か着陸かも判然としない状態で、着陸艇(ランダー)は地表につっこんだ。

――あたしも、たいがいだけど、ここまで荒っぽくはないよなあ。

 イリナイワノフがぼんやりとそんなことを考えていると、着陸艇(ランダー)のハッチが開いた。

 現れたのは、イリナイワノフと瓜二つのヘルメットとスーツを着けた少女。

「サイカーラクラ」

 サイカーラクラは、眼前の兵士たちに向かって針銃(ニードルガン)を乱射した。

 兵士たちはその場にうずくまり、各々、わけのわからない声をあげている。

 サイカーラクラは、兵士たちの間をすり抜け、すたすたと近づいてくる。

「タケルヒノが、ジムドナルドのほうに行ってしまったので、私が代わりに来ました」

 ここまで原語(セルレス)で話していたサイカーラクラは、傍らの初老の男性に配慮してか、英語に切り替えた。

「何か揉め事のようでしたので、とりあえず、問題らしきものを排除したのですが、いけなかったでしょうか?」

「彼らに何をしたのかな?」

 先生も英語でサイカーラクラに尋ねた。

「神経毒の一種です」サイカーラクラは答えた「運動神経系、自律神経系には影響を与えず、知覚神経だけを麻痺させます。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。触覚がなくなるのが、いちばん気持ち悪いらしいですが。あと、自分の声も聞こえなくなるので、叫び声がどんどんうるさくなるのが、たいへんと言えば、たいへんです」

 先生は、サイカーラクラの説明を、いちいち頷きながら聞いている。

 イリナイワノフは、サイカーラクラを怒らせるようなマネは絶対しない、と心に固く誓った。

 

 

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