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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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残心(3)

 

 ファライトライメン第8惑星スナート。

 氷の惑星として有名なスナートは6つの氷上基地を持つが、どちらかと言えば衛星、4つの衛星のうちの最外殻衛星であるファルメが有名である。直径100キロメートルに満たないファルメは、なんの変哲もない岩のかたまりだが、最初の光子体(ピスリーニア)の私有地ということで、光子体(リーニア)の関心度は非常に高い。

 もちろん、一般人の立ち入りは禁止だが、好奇心旺盛な光子体(リーニア)がときどき侵入を試みては、追い返されている。

 タケルヒノとしては、こんな騒々しい場所に来たくはなかったのだが、宇宙船(ボード)クラスの航宙船が直接接続できる宇宙基地が、ここしかなかった。

 もともと航宙船を必要としていたのが、最初の光子体(ピスリーニア)だけだったので、当然と言えば当然だ。おまけを言えば、2隻同時に接続できるような設備は現在知られている近接胞宇宙(セルパッハベル)の中には存在しない。宇宙船(ダー)宇宙船(ボード)の隣に浮かばせておくしか手がなかった。

 

 ファルメに着いてシールドを部分解除すると、すぐにラクトゥーナルが現れた。

「良かった。みんな無事か」

「まあ、だいたいは」タケルヒノが答える「ボゥシューとサイカーラクラは胞障壁(セルレス)の中だけど」

 え? と困惑するラクトゥーナルに、タケルヒノが手短かに説明する。

「そうか、デルボラの干渉波が消えたから、最悪の事態は免れたとは思っていたが…、そんなことに…」

「早速だけど、あの人(丶丶丶)に会いたい」タケルヒノは単刀直入に言った「都合つけてもらえますか?」

「もちろん、そのつもりだが、その…」

 ラクトゥーナルは管制室の中を見渡した。1人づつ目を合わせてみたが、あまり色よい返事はもらえなかった。

「キミひとりで、いいのかな?」

「僕ひとりで」タケルヒノは言った「みんな疲れてますからね」

 

「…今回の貴君らの忍耐、努力、奮闘は、まさに宇宙の中庸性が発揮された稀有の事象である。その果を持ってして、光子体(リーニア)はもとより、近接胞宇宙(セルパッハベル)が本来の姿を取り戻したことは驚嘆に値する。貴君らの行動が、全宇宙に及ぼした影響を鑑みるに、まさしく、摂理の妙、真理の波動があまねく知性を覆って…」

「いつまで、その長広告を聞いてなきゃいけないんですか?」

 ミウラヒノは記録を一時停止して、小声で付け加えた。

「ファライトライメンの執政官もやってるんだ。後で修正は入れるが、生の部分が長いほうが編集が楽だ」

「僕の話しが聞きたいのか、聞きたくないのか、はっきりしてください」

 ミウラヒノは記録媒体の頭を押し込んで、デスクに収納した。

「まあ、こんなものは、全部、でっち上げたって、たいした手間じゃない」ミウラヒノは椅子に深々と腰をおろし、胸の前で手を組んだ「話しを聞こう。ゆっくりで頼む」

「話しの前にひとつ聞きたいことがあります」

「何だ?」

「あなたが最後にデルボラと会ったとき、何の話しをしていたのです?」

ある(丶丶)提案をして、デルボラに拒絶された」

「一緒に死んでくれ、なんて言ったら、デルボラでなくたって、拒絶しますよ」

「こっちは、そういう言い方はしなかったし、デルボラにはお前たちとの話しが終わってからにしてくれと言われたんだ」

「言い方で内容は変わったりしませんよ」

「デルボラは、けっきょく、どうなった?」

「自分の本当にしたいことを探すのだそうです。そう言って胞障壁(セルレス)の中に入りました」

胞障壁(セルレス)が、彼の夢か…」

 ミウラヒノは言ったが、まだ何か納得はしきれていないようだった。

「そう、ずっと昔からそうだったのかもしれない。胞障壁(セルレス)が彼の夢なら、彼をずっと閉じ込めていたのも、その夢だった」

胞障壁(セルレス)はこの世界の半分ですよ」

 タケルヒノは言った。

胞障壁(セルレス)が夢の世界なら、世界の半分は夢で出来ている。デルボラが夢の世界に自らを閉じ込めたのだとしたら、僕らは現実の中に閉じ込められているだけ、たいした違いはありません」

 タケルヒノは、ポケットからペンダントを取り出した。

「デルボラからあなたに返してくれと言われました」

「デルボラが?」

 にわかにミウラヒノの顔つきが険しくなった。

「彼がこれを持っていたのか」

「いいえ」ペンダントをミウラヒノに渡しながら、タケルヒノは言った「僕がデルボラの胞障壁(セルレス)の中で探して、ボゥシューが見つけた。デルボラのものだと思って渡したのですが、あなたのだから返して欲しいと」

「中を見たのか?」

「他人の夢をのぞき込むほど無粋じゃないですよ」

「お前じゃなくて、デルボラが見たのかと聞いている」

「見てましたよ。そのためにわざわざ胞障壁(セルレス)から持ち帰ったのだから、見てもらわないと困ります」

 ミウラヒノは深く嘆息した。

「誰もかれもが余計なことをする。誰にも見られないように池に投げ込んだのに」

「余計なことを始めたのはあなたですからね。もとに戻すことはできないにしても、軌道修正には余計なことが必要です」

「これで、みんな幸せになるのか?」

「そんなこと知りませんよ」

 うんざりだ、という顔でタケルヒノが言う。

「これから僕とジルフーコは、ボゥシューとサイカーラクラを探しにいかなきゃならないし、他のみんなも、あれこれ忙しいんです。こう言ったらなんですが、もう僕らは十二分に仕事はしました。義務は果たしたんです。後はもう、勝手にやらせてもらいます」

「そうだな」

 ミウラヒノは、意外とあっさり認めた。

「まあ…、その…、なんだ、…いろいろ、ありがとう」

 

 帰りしな、ドアスイッチに手を伸ばしたタケルヒノは、ふと思いついて振り返った。

「すぐには無理でしょうが、落ち着いたら、叔父さんも探しに行くといいですよ」

「探すって、何をだ?」

「デルボラを」そう言ってタケルヒノは、この部屋に入って初めて笑った「まあ、彼ひとりでも大丈夫とは思いますけど。手助けがあれば、時間の節約ぐらいにはなると思います」

 


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