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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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残心(2)

 

 ふーん、と、イリナイワノフはビルワンジルの説明に、いちおう納得した顔を見せた。

「じゃあ、しばらくボゥシューとサイカーラクラには会えないんだね」

「そうだ」

「タケルヒノとジルフーコが迎えに行くの?」

「そうだ」

「あたしたちは?」

「行かない」

 イリナイワノフは、少し考えている風だったが、しばらくすると、そうだね、そのほうがいいね、と独り言ちた。

「デルボラは?」

 イリナイワノフは、また尋ねた。

 ビルワンジルも、今度は即答できず、しばし考えをめぐらせてから答えた。

「タケルヒノは大丈夫だと言っていた」

「どうして?」

「エイオークニが約束したから」

 そしてビルワンジルは、デルボラとエイオークニの賭けの話しをイリナイワノフにした。

「よくわかんない」

「ああ、オレもわからん」

 イリナイワノフは、そこで質問するのをやめた。ビルワンジルにわからないことは、イリナイワノフにもわからない。

「日本人て、へんてこりんだね」

 ああ、そうだな、と、ビルワンジルは肯いた。

 

「お疲れ様でした」

 ダーは湯飲みに入った緑茶をエイオークニに勧める。

「どこで、こんなものを?」

 エイオークニは驚きつつも、久しぶりの香りを鼻腔に楽しんだ。

「地球の動植物の主要遺伝子は、ボゥシューがまとめてくれていたので…」

 ダーは、にっこりと微笑む。レシピ手帳を見たので、ぐらいの言い方だった。

「遺伝子培養してみました。わたしは味見ができませんから、あまり自信はありませんけど…」

「いえ、たいへんけっこうなお手前です」

 一口、茶を口に含んだエイオークニの口許がほころぶ。

「よかった」

 少女のように笑うダーに、何故か、エイオークニの顔が赤くなった。

「これであなたの役目も終わりですね。もう自由になさって良いのです。これから、どうされます?」

 微笑みながら尋ねるダーに、しかし、エイオークニは顔をこわばらせた。

「いや、実は…」

 エイオークニは身を乗り出してダーの耳元でささやく。ダーがボディーのその部分にマイクを埋め込んでいるかどうか、エイオークニは知らないのだが、ダーのことだから、そういうところは手を抜かないだろうと思っていた。

「まあ、あなた」案の定、ダーは驚きの声を上げた「またそんな約束を? タケルヒノほどではないですけど。あなたも大概、安請け合いが多すぎますよ」

「はあ、まあ」ダーに言われると、エイオークニも、さすがに消沈する「自分でも、損な性格だとは思いますが、こういうことは、どうにも断りきれないので…」

「実は、わたしもあなたのことを馬鹿にできないんです」そう言いながら、ダーも嘆息する「わたしもあなたと同じ人から同じことを頼まれているの」

 え? と一瞬ためらうエイオークニだったが、よく考えれば、それは十分ありそうなことだった。

「どうしましょうか?」

「ほんとうに、どうしましょう?」

 2人は見つめあったが、あまり良い考えは浮かんでこなかった。

 

「宇宙船運べって?」

「そうです」

 寝ぼけまなこでソファから半身を起こしたジムドナルドに、ダーが告げた。

「わたしはデルボラを囲む胞障壁(セルレス)を超えられませんから、宇宙船(ダー)をファライトライメンまで運行して欲しいのです」

「別にいいけどさ」と、めんどくさそうなジムドナルド「タケルヒノがいるんだから、タケルヒノに頼めよ」

「もちろんそれでもかまいませんが」ダーは言ったが、いろいろ含みのある言い方だ「タケルヒノが宇宙船(ダー)を操縦したら、こちらの宇宙船(ボード)は、あなたが操縦しないといけませんよ? けっきょく、同じだと思うけど」

「そんなの、デルボラに来たら、当然、そうなるってわかってたろうに。俺が胞障壁(セルレス)を超えられなかったらどうする気だったんだ?」

「だから、この前は、乗り捨てましたけど、よく考えたら、もったいないですからね」

 ソファに胡座をかいて座ったジムドナルドは、あれこれ反論を考えてはみたものの、ちょっと、勝ち目はないようだった。

「わかったよ。操縦する」

「ありがとう、ジムドナルドはやっぱり良い子ね。ジンジャーエール召し上がる?」

 ジムドナルドは、ダーの手からジンジャーエールのはいったカップを奪い取り、一息で飲み干した。

「おかわり」

「はい、少し待っててね」

 ジムドナルドからカップを受け取ったダーは、いそいそと部屋から出て行った。

 

「レウインデが、ありがとう、だってさ」

 ジルフーコの言葉にジムドナルドが顔を上げた。

「俺にか?」

「みんなに、って言ってたから、キミも入ってるだろ?」

 ジムドナルドはいつになく神妙な顔つきになった。

「じゃあ、あいつ、もう来ないのかなあ」

「さびしいのかい?」

 ジルフーコに問われたジムドナルドは、口を尖らせる。

「さびしいとか、そういうんじゃない。だいたい、あいつ、自分で用があるときは勝手に来るくせに、挨拶も他人まかせとか、ようするに人間がなってないんだ」

「人間じゃなくて光子体(リーニア)だよ」

光子体(リーニア)でもだ。とにかくあいつはなってない」

 ぶつぶつレウインデをあげつらうジムドナルドを、ジルフーコは笑いながら見つめていた。

 

「とりあえずファライトライメンには行くんだろ?」

 ジルフーコに聞かれたタケルヒノは、憂鬱を面に貼りつけたまま答えた。

「行きたくないけどなあ。行かなかったら、3倍は面倒なことになりそうだしなあ」

「あきらめが肝心だよ」

「先にボゥシューとサイカーラクラを探しに行ったって、いいわけだよなあ」

「見つけてそのままトンずら出来るんなら、それもいいかもね」

「無理だよなあ。アグリアータは見逃してくれるかもしれないけど、ラクトゥーナルは追っかけて来るよなあ」

「ラクトゥーナルなら、逃げるのはそれほど難しくないよ」

「でも、ずっと、追ってくるし、嫌なんだよ。ああいうタイプ」

「じゃあ、行くしかないね」

 タケルヒノは、いつまでもぼやき続ける。ボゥシューがいれば、タケルヒノはかっこつけて(丶丶丶丶丶丶)あまりぐちぐち言わないのだが、こうなると鬱陶しいだけだ。

 早くサイカーラクラとボゥシューを探さなきゃ、とジルフーコは思った。

 


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