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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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220/251

虚実の果て(6)

 

 エイオークニがいなくなったので、ビルワンジルが最後尾に下がった。

 ボゥシューとサイカーラクラを、ジムドナルドとビルワンジルではさむ形だ。

 だからといって、どうということはない。

 紳士的、と見る向きもあるかもしれないが、デルボラに対しては、何か意味があるわけではない。

 前とか後ろとか、あるいは真ん中とか、

 そんなことはデルボラには関係ないのだ。

 そして、それは、突然だった。

 気配も何の前兆もなく、

 例の()すら現れることもなく、

 ボゥシューとサイカーラクラは、忽然と消えた。

「さて、どうする?」

 ジムドナルドに近寄ったビルワンジルが言う。

「どう、って、言われてもなあ」

 ジムドナルドはのんきそうな声で、言った。

「俺たちにすら、扱いは丁寧だったからな。彼女らと、話しがしたいだけだろう、デルボラは。まあ、俺たちは、黙って進めってことだろうな」

 そう言って、ジムドナルドは前方を指さす。

 目の前の通路の真ん中に、極彩色の胞障壁(セルレス)が蠢いている。

 ビルワンジルは、無言で背中の槍に手をまわした。

 

 ヘルメットのバイザーに表示される位置情報。

 ボゥシューの現在位置を示す赤い位置マーカーが、目的地である緑の四角に重なっている。

 故障でなければ、ここが終点ということだ。

「ようこそ、いらっしゃい」

 デルボラは、ボゥシューとサイカーラクラ、それぞれに視線を投げ、満足そうに笑んだ。

「あなたたちに会えて、とてもうれしい」

「そうだな、会えてうれしいよ」

 ボゥシューは言った。

「いろいろ話したいこともあるしな」

「私もです」

 サイカーラクラは言って、自分の手を伸ばし、ボゥシューの手を握りしめた。

「サイカーラクラ」と、デルボラは名を呼んだ「わたしは、あなたが小さかった頃のことを憶えています。わたしは、あなたにひどい事をしました。ずっと、謝りたかった」

 いいえ、とサイカーラクラは首を振った。

「あなたは、私がお父さんの中にいるのを知らなかったのだから、しかたありません」

「ありがとう」

 デルボラは言った。

「あのとき、あなたが崩壊してしまわなくて、本当に良かった」

「ま、昔のことは、あれこれ言ってもしょうがない」ボゥシューはサイカーラクラの手を握り返した「それより、何故、ワタシたちだけ(丶丶)を呼んだ? 何か用でもあるのか?」

「でも、彼らが、ジムドナルドが、ここに来てしまったら、終わりでしょう?」デルボラは少しおどけた口調で言った「その前に、あなたたちと話したかった」

 デルボラは、笑いながら言ったのだが、サイカーラクラは、こんな寂しげに笑う人を見るのは、初めてだった。

「終わりかどうかまでは知らない」ボゥシューは言った「ジムドナルドがいたら、いろいろ話しがしずらかったのは認める」

「何の話しをしましょうか?」

胞障壁(セルレス)の」デルボラの問いかけに、ボゥシューは迷わず口に出した「胞障壁(セルレス)の話しをしよう」

 デルボラの面持ちが変わる。

「よろしい、胞障壁(セルレス)の話しをしましょう」

 デルボラは虚空を見上げて目を閉じた。

「思うに、わたしは、ずっと、胞障壁(セルレス)の話しをしたかったのです。誰とでも話せることではない。わたしは胞障壁(セルレス)について話しができる人を、ずっと待っていました」

 

胞障壁(セルレス)とは何だ?」

胞障壁(セルレス)は謎、胞障壁(セルレス)は解かれるべき問題」

 ボゥシューの問いに、デルボラは両手を捧げる。その掌の間に極彩色の闇が生まれた。その異様に蠢く様を間近にして、サイカーラクラが息を飲む。

胞障壁(セルレス)は謎、だから、わたしが生み出せる。本当は解かれなければならない謎、わたしは解く(すべ)を知らない。だから、わたしは胞障壁(セルレス)を生み出せる。でも解けない。生み出すだけ」

「問題を見つけるのも才能のひとつだよ」

「そう、それは、知っている。たいていの人間は問題を認識できない。問題と知って、はじめて立ち止まる。そしてそこから動けない。問題を認識できなければ、動いているのか止まっているのかすらわからない。立ち止まっているのはわかる。でも、そこから動けない」

「ジルフーコとは話したんだろ?」

「ええ、まあ…、彼のやり方はお勧めではないそうです」

「それを言ったら、タケルヒノのやり方は、もっと勧められない。反則くさいしな」

「それについては、どう思っているのですか? わたしには、とても信じられませんが…」

「信じるとか信じないとかいう類の話しじゃない。実際、そうでなければ胞障壁(セルレス)は超えられなかったし、他のこともうまくはいかなかったろう。サイユルもベルガーも、他の胞宇宙(セルベル)のことも…」

「そうは言われても、わたしには無理です。そんな人間が存在するのは、ある意味、科学への冒涜ですよ」

「そりゃあ、そうだろうし、ワタシだって、イヤだけど…」

 ボゥシューは、もう、うんざり、という口調で付け加えた。

「実際、そうなんだからしょうがない。タケルヒノは、常に正しい(丶丶丶丶丶)選択をする(丶丶丶丶丶)。アイツは絶対に間違わない。いまいましい話しだけど、それがアイツが胞障壁(セルレス)を超えられる理由だ」

 


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