表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/251

虚実の果て(5)

 

 通路は、もともと人間のために造られたものだ。

 それを言うなら、デルボラ=ゼルも航宙宇宙船として設計されたわけで、これもまた人間の仕様に引きずられている部分がある。

 情報体(リーンファノア)には、本来、宇宙船は必要ない。皮肉なことに、宇宙船を必要としたのは、第一光子体(ピスリーニア)宇宙皇帝(デルボラ)だけだった。

 それぞれの理由で。

 そしていま、通路(丶丶)は、デルボラ=ゼルが建造されてから初めて、本来の使われ方をしている。

 ジムドナルドを先頭に、ビルワンジル、ボゥシュー、サイカーラクラ、そして殿(しんがり)をエイオークニがつとめた。

 エイオークニは、先程から、背後に何かの気配を感じている。

 何をするでもなく。

 つかず離れず、ずっと、エイオークニの後を忍んで来る。

 エイオークニは、振り向かなかった。

 やがて、気配は、エイオークニの背に張り付き、そのまま浸透するように、包み込みはじめた。

 エイオークニは正眼に構えていた木刀を降ろし、前を行く4人に言った。

「どうやら、後ろのもの(丶丶丶丶丶)は、私に用があるようです。みなさん、先に行ってください」

 エイオークニの言葉が終わるのを待っていたかのように、瞬時に視界が暗転した。

 

 気がつくと、そこは薄暮の空間で、ひとりの男がエイオークニの目の前にいる。

 タキシード姿の男は、服以外は、その長い髪も含めて銀白色で、だから、顔色(丶丶)というのはわからなかったが、とても寂しげに見えた。

「私に、ご用ですか?」

 エイオークニは男にむかって言った。

「用と言うほどでもありませんが」デルボラは言った「太陽系統一政府の主席が、こんなところに何しに来たのか、気になっただけですよ」

「そういうものができていたなら、確かに、そういう話しもありましたが」ヘルメットがなければ頭をかいていた、そんな口ぶりのエイオークニだった「方便というか、手段にすぎません。胞障壁(セルレス)を超えるためには何でもするつもりでした。結果的に、ダーに連れてきてもらったわけですから、無駄と言えば無駄でしたが」

「あなたに、胞障壁(セルレス)を超えなければならない理由は、なかったと思いますが?」

 デルボラの問いは、以前、誰かに聞かれたものと同じだ。確かにダーの言うとおり、2人は似ているのかもしれない。

「そうしなければ、タケルヒノに会えませんから」エイオークニは、至極、当然、という顔で答えた「もう一度、会おう、と約束したのです」

「あなた、まさか…」デルボラの顔に、はじめて狼狽の色が浮かんだ「タケルヒノに会うために、それだけのために、胞障壁(セルレス)を超えたのですか?」

「そうですが…」エイオークニも、また、ヘルメットの中で、気まずさに顔を歪めた「そんなに意外でしょうか?」

「いや、その…」

 デルボラの顔から、はからずも笑みがこぼれた。

 エイオークニには悪いと思うが、

 デルボラは、とても可笑しかったのだ。

「でも、あなたは、タケルヒノには会えませんよ?」

「どうしてですか?」

 エイオークニの、真っ直ぐな問いに、デルボラの顔から笑みが消えた。

「なるほど」

 デルボラは何かを納得したように独り言ちた。

「あなたは、そういう人なのですね」

 しばし、視線を落として、何かを考えているようだったデルボラは、不意に顔を上げた。その顔には再び笑みが浮かんでいたが、それは、さっきとは違う、挑みかけるような不敵な笑いだった。

「賭けをしましょう」

 デルボラは、言った。

「あなたが、タケルヒノに会うことができたら、あなたの勝ちです。あなたの望みをひとつ、叶えてあげましょう」

 エイオークニは、面くらった。

「あの…、それは…、いいんですか? ずいぶん、あなたに分の悪い賭けのようだが…」

 デルボラは、笑った。

 デルボラは、とても楽しそうに見えた。

「分が悪い。確かにそうかもしれません。でも、賭け(丶丶)などというのは、そもそも、誰にとっても分が悪いものです。わたし(丶丶丶)にも、そして、あなた(丶丶丶)にもね」

 それ(丶丶)を最後に、デルボラの声も姿も、薄暮の中へと、溶け去った。

 エイオークニは、木刀を上げ、正眼の構えを取る。

「その賭け、お受けしよう」

 エイオークニのヘルメットのバイザーに映りこんでいた、彼の現在地を示す位置マーカーは、すでに消えている。

 あるいは、ここは、デルボラ=ゼルですらなく、どこか別の空間なのかもしれなかった。

 エイオークニは、構えを解いて、木刀をおさめた。

 そして、気の抜けた声で、呟く。

「受けるには、受けますが、どう考えても私のほうが有利だし、本当に、いいんですか?」

 虚空からの返答はなかったが、エイオークニは、デルボラが聞いていることを確信していた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ