虚実の果て(3)
「どうやって、次元変換駆動機関を止める?」
ジムドナルドがジルフーコに尋ねる。
「後のことを考えなければ、壊すのがいちばん簡単だ。デルボラが怒らないといいけど」
「怒らんさ」ジムドナルドが返した「デルボラは、もう自分で無限大のエネルギーを生み出せる。デルボラ=ゼルは、デルボラには、もう、必要ないもんだ。面倒が減って喜ぶんじゃないか?」
「スタンバイの変換球を、使用中のものにぶつけるのが手軽でいいね」
ジルフーコが、壁面ディスプレイに、次元変換駆動機関のモデルを表示する。
「この中心部分で、変換球が次元変換されて変換差分がエネルギーとして供給される。変換球は次元変換のたびに少しずつ劣化するから、ある程度使用すると交換になる。通常、交換時は、駆動機関を停止する。それからスタンバイの変換球を射出して、劣化した変換球と玉突きみたいに交換するんだ」
「要は、それを、駆動機関を停止せずにやればいいってことだろ?」
「その通り」ジルフーコは、上出来だよ、という顔で笑った「やるのはボクだけどね」
はっとしてサイカーラクラが顔を上げたが、ジルフーコは無言で微笑みかけると、サイカーラクラの開きかけた口を封じた。
「ボクがやるんだ。機関を破壊すると、隣に大穴が開くだろうから、そこから入って。主駆動機関が停止すると、予備動力で、最低限の防御システムが稼働しだすから、そっちはよろしくね」
「ああ、まかせとけ」ジムドナルドは、こん、と操縦室のドアを叩いた「もう、操縦は慣れた。どうせこの機体じゃ、デカすぎて開いた入り口につける程度だろ。そこから先は、降りて進むさ」
ジルフーコが機内から出た後は、誰も何も言わず、ただ、モニターを黙って見つめていた。
ジムドナルドは、多目的機をデルボラ=ゼルの外殻に沿って移動させ、衝撃に備えた。
ある意味、それは、あっけなかった。
何の衝撃も、前触れもなく、まばゆいばかりの光が、突然消え、デルボラ=ゼルは漆黒の塊へと戻った。
すぐさま、ジムドナルドは、微速で多目的機を進めると、デルボラ=ゼルの中央、直径200メートルほどの裂け目から、中に機体を滑り込ませる。
「みんな降りろ。あまり時間がない」
ジムドナルドの言葉に、皆、ハッチから飛び出した。破壊されて露出した通路の入り口に向かう。
「ジルフーコは大丈夫でしょうか?」
ジムドナルドに並走したサイカーラクラが尋ねた。
「大丈夫だろ」ジムドナルドの声は、いつもより大げさに聞こえた「だってジルフーコだぞ。俺じゃないんだから。だから、心配することなんか何もないさ」
主電源が切れているので、通路は真っ暗だ。ヘルメットのサーチライトが、人数分の光源となって照らすので不自由はないが、やはり心細い。
通路は一本道で、前回とは違って中央部から乗り込んでいるので、目的地までは、それほど距離はないはずだった。
先頭を行く、エイオークニの木刀が一閃した。
「何だ?」
ジムドナルドに問われたエイオークニは、自分が壁に叩きつけたものの残骸を見つめる。
「さあ、よくわかりませんが…、何かの機械のようですね」
そう言いつつ、また、一閃、いや二閃。
木刀を振るって、叩き壊す。
「この程度なら、どうということはありませんが、数が増えたら厄介ですね」
「小型のケミコさんみたいだな」
エイオークニの破壊した残骸を調べながら、ジムドナルドが言う。
「主駆動機関が停止したから、修理に来たってところかな」
「あんな大穴をこの程度のロボットで直せるものですか?」
「いや、無理だろう。自動で出てくるクラスじゃ、あんな致命的な損害修復は無理だ」
「害がないなら、次に出てきても無視しますか?」
「手間じゃなけりゃ、叩き潰して欲しいな」
ジムドナルドは部品の一部を取って、前方に投げた。
「こいつは、たまたま無害だったが、次に来るやつもそうとは限らんしな」
「それもそうですね」
エイオークニは、木刀を持ち直すと、油断なく身構えた。
しばらく行くとゲートにぶち当たった。
電源があるなら扉だが、開かないなら、行き止まりだ。
周囲を見回したが、横道のようなものは見つからなかった。
「おっと、そいつは、もったいない」
背中の槍に手を掛けたビルワンジルを、ジムドナルドが止めた。
「それは、胞障壁用のトラの子だろ?」
そして、皆に向かって、言う。
「みんな、少しさがってくれないか。そうだな、あそこの角のくぼみがいい。あそこに隠れて」
皆を下げさせると、ジムドナルドはゲートに張り付いて、何かの作業をはじめた。ゲートの四隅に同じような作業を繰り返している。
やがて、作業を終えたジムドナルドは、皆と同じ位置まで下がって、壁のでっぱりに体を隠すと、皆に言った。
「爆薬、量はたいしたことないけど。ま、いちおう、用心してくれ」
手の中のスイッチを押すと、ゲートの四隅に閃光が瞬き、通路を遮る板がひしゃげた。
ジムドナルドは、ゲートまで戻ると、爆破の残骸を蹴とばして向こう側に倒した。
「それ、あと何回使える?」
ビルワンジルが聞いてきた。
「まあ、いいとこ、あと2回かな」ジムドナルドは答えた「こんなもん、そう大量に持ち歩くもんじゃないからな」




