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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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虚実の果て(2)

 

 ジムドナルドは、多目的機(マルチロール)の壁面半分を使い、デルボラ=ゼルの見取り図を表示した。

「目的の部屋はここだ」

 見取り図の中央が赤く点滅する。

「前回、デルボラがミウラヒノといた部屋だ。途中ではぐれたら、ここを目指してくれ」

「はぐれる、か」

 ボゥシューのつぶやきに、ジムドナルドが答えた。

「前回も、一度、バラバラにされた。デルボラが言うには、1人ずつ話しがしたかったらしい。今回は、新しい顔もいるしな、似たようなことをしてくる可能性はある」

「素直に分離されるのも、どんなものかな」

「まあ、そのへんは臨機応変にやってくれ、本当に、やばそうになったら、何とかする」

「デルボラは、何の話しがしたいんだ?」

「よもやま話だろ? 前回もそんなもんだった」

「よもやま話?」

「だって、初対面で、そんな、立ち入った話しとかできないだろ」

「それもそうか」

 ジルフーコが操縦室から出てきた。自動操縦に切り替えたようだ。

「ボクは、多目的機(マルチロール)に残って待ってるよ」壁面ディスプレイの見取り図を見ると、ジルフーコは、皆に向かって言った「帰りのこと考えたら、1人は残ってたほうがいいんじゃない? 何かあったら迎えに行けるしね」

「それは、そのほうがありがたいけど」意外だな、という顔でボゥシューが尋ねる「ジルフーコは、デルボラには興味ないのか?」

 いや、と、ジルフーコは首を振った。

完全()情報体(リーンファノア)だったとき、デルボラとは、ちょっと話ししたから。もう少し、落ち着いたら、また話しするのもいいけど、今回はパスかな」

「…あ、そ」

「デルボラ、って、どんな人でした?」

 サイカーラクラの質問に、ジルフーコは、少し考えてから答えた。

「わりと、普通の人だったよ」

「普通…、ですか」

完全()情報体(リーンファノア)には、がっかりしてたみたいだったけどね」

「がっかり…、ですか」

「まあ、できること、限られてるしね。ボクもそれで戻したぐらいだから」

「だいたいが、夢見すぎなんだよ」

 ジムドナルドが割り込んで論評した。

完全()情報体(リーンファノア)なんざ、いわゆる完全観測者みたいなもんだろ? 全事象を観測できるが何も影響を与えない。宇宙の全てが知りたい、なんていうマゾっ気のあるやつには人気だろうが、何かしたいことがあるやつには、不便以外の何者でもない。歌わない吟遊詩人ってやつだ」

「ま、ジムドナルド向きじゃないのは、確かだね」

 ジルフーコは、くく、と笑った。

 

「や、ザワディ、これは、あなたのおもちゃではない。やめてください」

 エイオークニは、たしなめるのだが、ザワディは木刀に御執心らしく、前肢でさかんにちょっかいをかけてくる。

「へえ、ザワディ、木刀は好きなんだな。俺の槍には見向きもしないのに」

 そう言うビルワンジルに、ヒューリューリーは異論を申し立てた。

「木刀ではなくて、ジムドナルドの(ぼう)だと思っているんでしょう」

「ジムドナルドの(ぼう)? なんだそりゃ?」

「ザワディとジムドナルドの遊びなんですよ」

 ヒューリューリーは説明した。

「最初は、ジムドナルドが、棒を投げてですね。それをザワディが取ってくる。そうやって、遊んでいたわけですが、そのうち、ザワディが飽きてしまって。それで、ジムドナルドが棒を投げても取りに行かなくなったんですが、それでも、ジムドナルドは投げる。ザワディは行かない。で、ジムドナルドは自分で投げた棒を自分で取りに行って、ほら、ザワディ、こうだ、とかやるんですけど。それがザワディには面白いらしく。ジムドナルドが投げて、自分で取りに行くのを、じっと見てるんです。たぶん、それをやって欲しいんじゃないかと…」

 ビルワンジルとエイオークニは顔を見合わせた。

「ザワディ、さすがに、それはできませんねぇ」

 エイオークニが言うと、ザワディは、あおん、と悲しそうに哭いた。

「狭いからな、ここは」

 ビルワンジルが慰めた。

「いまは忙しいからな。暇になったら、きっと、ジムドナルドが遊んでくれるよ。それまで我慢だ。ザワディ」

 

「そろそろ、らしいよ。ダーから連絡があった」

 ジルフーコの言葉を、背中でやり過したジムドナルドは、生き物のように脈動する胞障壁(セルレス)の群体を一心に見つめていた。

 ゆっくりとではあるが、膨張するそれ(丶丶)の中心には、デルボラ=ゼルがあるはずだった。

 不定形に蠢くそれ(丶丶)、しかし、その変化を、ジムドナルドは見逃さなかった。

「さすがだな、イリナイワノフ」

 胞障壁(セルレス)の群体に、網目のように亀裂が走り、その裂け目から、光条がほとばしる。

 漏れ出る光条に位置を合わせ、スペクトル分析をしたジムドナルドが、舌打ちした。

「波数依存のないフラットな高エネルギーだね」

 ジルフーコの言葉に肯いたジムドナルドは、そのまま質問を投げ返した。

「次元変換駆動機関の暴走か?」

「暴走、とまでは言えないかな」ジルフーコは答えた「デルボラ=ゼルの設計では、制御の半分以上をデルボラ自身がこなしている。デルボラも情報体(リーンファノア)だから、そのほうが効率がいいんだ。普段の状態なら問題ないが、いまのデルボラでは、次元変換駆動機関を抑えつけるのは、ちょっと荷が重いのかもね」

「どうすればいい?」

「次元変換駆動機関を、デルボラから切り離して、止める」

 覆う胞障壁(セルレス)が引きちぎられ、輝く光球があらわになった。

 その光球の中心に、ジルフーコは多目的機(マルチロール)の船首を向けた。

「と言うわけで、予定変更だ」

 ジムドナルドは、皆に向かって言った。

「先に、デルボラ=ゼルの次元変換駆動機関を停止する。暗いのも困るが、まぶしすぎるのも、厄介だからな」

 


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