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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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215/251

虚実の果て(1)

 

「イリナイワノフ、いいか。これから説明するが、わからないことがあったら、何度でも聞いてくれ」

 いつになく真面目な顔のジムドナルドを真っ直ぐ見つめて、イリナイワノフは、こくこく、と肯く。

「これが、いまの、デルボラ=ゼルだ」

 ジムドナルドは壁スクリーンいっぱいに、デルボラ=ゼルを映し出す。

 極彩色の闇に包まれた、それ(丶丶)は、暗色の生き物のように脈動していた。

「デルボラが、デルボラ=ゼルの周りに胞障壁(セルレス)を張っている。これを撃ってくれ」

「どこを撃てばいいの?」

「どこでもいい」

 ジムドナルドは本当にそう言った。

「好きなところを撃ってくれ」

「本当に、どこでもいいの?」

「いや、ちょっと、説明をはしょりすぎたか」

 ジムドナルドは、デルボラ=ゼルを囲む胞障壁(セルレス)を、ぐるり、とひと回りで指した。

これ(丶丶)が全部、消えるように撃ってくれ。そうしたら、胞障壁(セルレス)の外で待機している俺たちが、中に乗りこむ」

 さも、簡単そうに言うのだが、言っていることは、めちゃくちゃだ。なにより、ジムドナルド自身が、めちゃくちゃなことを自覚している。

 イリナイワノフは、しばし、目玉をぐるぐる回して考えていた。そうして、もう一度、ジムドナルドの目を真っすぐ見つめると、口を開いた。

「わかった」

 イリナイワノフは言った。

「で、その後は? 撃った後はどうする?」

「この前と同じように待機しててくれ、用心のためだ」

「また、デルボラを撃つの?」

「いや、撃たなくていい」

 そこだけは、しっかりと、ジムドナルドが請け負った。

「撃たなくてすむように、俺たちが何とかする。もう、イリナイワノフはデルボラを撃たなくていい」

 

 無重量状態の最中、エイオークニが木刀を上段に構え、そこから、ゆっくりと振り下ろしていく。

 そうやって下段まで達すると、下ろした木刀の切っ先を返し、さっき下ろした速度よりゆっくりと逆袈裟に切り上げる。

 演武の一種なのだろうが、無重量で足腰の踏ん張りが利かない中、よくこんなマネができるものだ。

「おい、まさか、デルボラ=ゼルの中で、そんなモン振り回す気じゃないだろうな?」

 笑いながら、ちゃかす、ジムドナルドに、正眼に構えなおしたエイオークニが真顔で問うた。

「いけませんか?」

「行くのか? 本気かよ」

「なるべく邪魔にならないように気をつけますよ」

 いつのまにか笑いをおさめたジムドナルドは、低い声で言った。

「あんたには、そこまで義理立てする理由はないはずだが…」

「義理はありませんが、約束があります」

「約束か」

 ジムドナルドは、言葉を切り、しばしエイオークニの顔を見つめていたが、一言だけ、付け足した。

「死ぬなよ」

「もちろんです」エイオークには微笑んだ「それも約束のうち(丶丶)ですから」

 

「2人とも行くの?」

 尋ねる、と言うより、確認のため、イリナイワノフは、ボゥシューとサイカーラクラに言った。

「まあ、タケルヒノを迎えに行かなきゃならんしな」ボゥシューはめんどくさそうに言った「あれで、けっこう頼りないところがある。ちゃんと帰って来れるかどうか心配だ」

「私は、デルボラに会わなければいけないので…」サイカーラクラは言うが、自信はなさげだった「理由はわからないのですが、そんな気がするのです」

「あたしもデルボラに会ったほうがいいのかなあ?」

 そう言って、宙を見上げるイリナイワノフに、ボゥシューが言った。

「もう、会ってるだろ」

「え?」

「イリナイワノフは、デルボラを撃ちぬいた。もう、会っているのと同じだ」

「仕留め損ねたから、あたしの負け、ってこと?」

「勝ち負けの話しじゃないよ。対話っていうのは、言葉のやりとりだけじゃない。次に、イリナイワノフが胞障壁(セルレス)を消したら、それで、デルボラは、イリナイワノフのことがわかる、と思う」

「それじゃ、あたし、物凄く粗暴だって思われるじゃない」

 ふくれっ面のイリナイワノフに、ボゥシューは、そうじゃないんだ、と繰り返した。

「いままで誰も、デルボラに全力を出してこなかった。ミウラヒノですらそうだ。いろいろ理由はあるんだろうが、単純に言えば、消えたくなかった(丶丶丶丶丶丶丶丶)ってのが本音だろう。だから、ワタシたちは、デルボラに全力をつくさなけりゃならない」

消える(丶丶丶)って、どうして?」

 なおも問うイリナイワノフに、サイカーラクラが答えた。

「何故、と言っても、本質的なものらしいですよ。自分より力が上の者に対峙すると、消されてしまう、と思うらしいのです。思うに、デルボラが光子体(リーニア)を消してしまう、という伝説も、その辺りが原因かもしれません」

 

「何の真似だよ、それは?」

 多目的機(マルチロール)の前に、ザワディの胴体に巻きついて現れたヒューリューリーに、さすがのジムドナルドも呆れ果て、それだけ言うのがやっとだった。

「何、と言われても。この間の件で、つくづく思い知らされたのですが、ジムドナルドの脚は、巻きつくのにそれほど良い太さとは言えないので、やはり、ザワディがいちばん、と思い至ったわけです」

 ヒューリューリーの上半身が、しなやかに回転し、ザワディが、あおん、と哭いた。

「好きにしろ」

 ジムドナルドがのくと、ザワディに巻きついたヒューリューリーは、悠然と多目的機(マルチロール)に乗り込んだ。

「あはは、ザワディも来るんだ」

 操縦席でジルフーコが笑っている。

 

「残るは2本か」

 自分に言い聞かせるように呟いたビルワンジルは、2本の槍を背に担いだ。

 なんとも落ち着かない。

 理由が本数ではないことは、わかっていた。

 ビルワンジルは手を伸ばし、もう一本の槍を取った。

 矢尻に朱房のついた槍、手に持つと、宇宙服のグローブごしですら、しっとりと馴染む。

 モランの成人の儀に使った槍だ。

「使う、ってことはないな。お守りみたいなもんだ。無駄な荷物と言えば、無駄なんだが…」

 自分に言い訳しつつ、その(丶丶)槍を、ビルワンジルは、すでに担いだ2本の槍の間に割り込ませた。

「かっこいいね、ビルワンジル」

 イリナイワノフに言われたビルワンジルは、笑顔で片手を上げ、そのまま背を向けると、多目的機(マルチロール)へと滑るように飛翔した。

「さあ、わたしたちも準備をしましょう」

 険しい表情で、多目的機(マルチロール)を見守るイリナイワノフに、ダーが声をかけた。

「イリナイワノフ、辛いのはわかります。でも、がんばらなくてはね」

 イリナイワノフは、黙ってうなずき、ダーの後ろをついて管制室へと向かった。

 


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