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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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212/251

壁の中の夢(3)

 

 白濁した闇の奔流が治まるにつれ、視界を取り戻したボゥシューは、見たことのない周囲の景色に戸惑った。

 中庭、ではないかと思う。

 高層建築物が四方を囲んでいる。ただ、各々の建築物はかなり離れており、逆に言えば、(にわ)はかなり広い。大きな公園、といった方が近い。

 建築物は、皆、多くの円形窓を側面にびっしりと並べていた。窓の並びも大きさも、一見、バラバラに見えるが、何かの規則性があるようにも見える。建物には角がなく、全体が優美な曲面で包まれていた。

 そこここに見える人影は、ライメン人(ライメニアン)の特徴を持つ者が多いが、毛色の違う種族も混じっている。

 ボゥシューは、彼らの横を通り過ぎるが、宇宙服姿のボゥシューに興味を示すものはない。むこうには見えていないのかもしれない。

 ここで、やっと、ボゥシューは思い出した。

――ここは胞障壁(セルレス)だった

 ボゥシューは、空間を滑るように飛び、景色の中を進む。

 夢の中に良く似ていた、あいかわらず、誰の夢なのかは定かではないが…

 夢?

 まわりの景色が見えるのなら、音だって聞こえるはずだ。

 ボゥシューは、耳をそばだててみた。

 

――この間のお店おいしかったね

――だね。また行こう

――嫌になるなあ。休み明け早々、レポート再提出とか

――装置のタイマー切れてたけど、いいの?

――やばい、1時間、間違ってた。行ってくる

――だいたいさ、あんなこと、やらないよね、普通

――完全、徹夜なっちゃたなあ。ああ、腹減った

――自転車、貸してー

――レポート出したって、単位出るかどうかわかんないだろ、お前の場合

――言うなぁぁあ。

 

 ボゥシューは、あらためて周囲を見回した。

 大学かな? と思った。

 最近は、宇宙船(ボード)から出ることはほとんどないが、それ以外の記憶では、大学が一番近い気がした。

 遠くで人の言い争う声が聞こえた。

 普段のボゥシューなら、そんなものが聞こえてきた時点で、避けるのが常だが、どうしたわけか、そっちのほうに行ってみたい、と思った。

 そうは、思ったが、言い争いの渦中に飛び込む気も、また、なかった。

 ボゥシューは、飛ぶスピードを調整しながら、争いがやむのを期待しつつ、ゆっくりと空間を滑っていった。

 

 建物と建物の間をくぐりぬけ、別の広場に出る。

 池があった。

 まばらに、人が行きかっているが、

 1人だけ、おかしなのがいる。

 池のほとりに這いつくばって、四つんばいで移動している。それだけなら、落し物かなにかだろうと、気にも留めなかっただろうが、

 宇宙服を着ている。

 見覚えのあるヘルメットもかぶっていた。

「おい」ボゥシューは近寄って声をかけた「何してるんだ?」

 宇宙服は顔を上げて、バイザー越しにボゥシューの顔をまじまじと見つめる。

「ボゥシュー」タケルヒノはとっびきりの笑顔で言った「よく来たね。会えてうれしいよ」

 コノヤロウ、と思わないわけでもなかったが、あまりに素直な笑顔だったので、ボゥシューは、つい、負けてしまった。

「他はともかく」ボゥシューは言った「元気そうで、なによりだ」

 タケルヒノは起き上がると、その場で胡坐をかいた。ボゥシューも隣りに腰掛けた。

「ジムドナルドが操縦してるの?」

 タケルヒノの質問の意味を理解するのに、ボゥシューは少しだけ、時間がかかった。

「ああ、そうだよ。デルボラから、ファライトライメンへはジルフーコの操縦で抜けた。そこでミウラヒノを降ろして、いま、デルボラに帰る途中だよ」

「ジルフーコの操縦じゃ、胞障壁(セルレス)の交叉なんて起こりようがないからなあ」と、笑うタケルヒノ「それで、胞障壁(セルレス)を超えた後のジルフーコはどうだった?」

「一時的に、完全()情報体(リーンファノア)になったけど、ジムドナルドとレウインデに手伝ってもらって、励起子体(パウフラニア)に戻った」

 なるほど、とタケルヒノは肯く。

「レウインデを呼び出したのは卓見だな。思ったより、うまくいってるみたいで良かったよ」

 コイツ、いったい、どんなふうに(丶丶丶丶丶丶)うまくいってない(丶丶丶丶丶丶丶丶)想定してたんだ、タケルヒノの頭をかち割って中身を確かめたいという衝動を、ボゥシューは辛うじて押さえ込んだ。

「で」と、ボゥシューは最初に戻って問いただした「いったい、オマエは何をしてるんだ?」

「それなんだけどね」ここに来て、やっと、タケルヒノは困り顔だ「なかなかうまくいかなくてさ。ほんと、どうしようかな、って…、あ、そうだ」

 タケルヒノは、破顔一笑、馴れ馴れしくボゥシューに頼みこんだ。

「いそがしいところ悪いんだけど、ちょっと手伝ってくれないかな?」

 

 

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