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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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210/251

壁の中の夢(1)

 

「やっぱり違う」

 極彩色の闇と光が混じりあう中、イリナイワノフが呟いた。

「どこが違う?」

 ビルワンジルの問いに、わずかに首を傾けたイリナイワノフは、一瞬、ジムドナルドに目をやるが、また、ビルワンジルに視線を戻し、首を振る。

「わからない」

 そうか、と応じたビルワンジルは、イリナイワノフの頭を優しく撫でた。

 

「世界の変わる瞬間は、何度通り過ぎても、やはり、慣れないものです」

「世界が変わる?」

 ヒューリューリーの声がしたような気がして、エイオークニは振り返った。

 が、そこには誰もいない。

胞宇宙(セルベル)から胞宇宙(セルベル)へ、それは、世界が変わること」

 ヒューリューリーでは、なかったかもしれない。とにかく、サイユルは不思議だ。

「変わるのは、世界、だけですか?」

「私が変わる」

「私も変わる?」

「あなたは変わらない。みんな変わってしまったら、変わったことに誰も気づかない。変わったのだから、あなたは変わらない」

 誰だろう?

「私も変わりたい」

「無理です」

「どうして?」

「世界は、思い通りにはならず、思ったようにしかならないから」

「でも、私も変わる」

「そう、あなたは変わる。変わらないのは、胞障壁(セルレス)

胞障壁(セルレス)?」

胞障壁(セルレス)は変わらない」

「何故?」

「虚は移ろいをもって流されてゆく、とどまることを知らない変遷は、それ自体、変わることができない唯一のもの」

「それが真実ですか?」

「真実か、と問われれば、それは、真実。曰く、真実など瞬く数多の星ほどもある。唯一無二は、真実ではなく事実」

「真実は事実と違う?」

「真実は、解釈なしには生まれない。事実を解釈したのが真実で、だから、人の数ほどの解釈があって、人の数ほどの真実がある」

 音のないはずの空間で、耳をつんざくような轟音がした。

 

「私はもともと本を読むのが好きで、小さいころは、ずっと、本ばかり読んで一日を過ごしていました」

 いつの間に、ボゥシューの傍らにサイカーラクラがいた。

 いつものことだ。

「でも、それは、私の記憶違いで、接続された情報キューブからの情報を吸い上げていたのでした」

「でも、それも、また、嘘で、私は、やっぱり本を読むのが好きだったのです」

「お姉さん」と、サイカーラクラがボゥシューを呼んだ「あの頃は、いつもお姉さんが、本を読んでくれていたのです。私は、お姉さんの読んでくれる本のお話しが、本当に好きで…」

「ああ、そうだったな」

 ボゥシューは、意図せず、相槌を打っていた。

「本はよく読んだ。ひとりで読んでいたけど」

「もともと、お姉さんが、最初にいたのです。お母さんとお父さんは、そのあとにできました」

胞障壁(セルレス)のように?」

「そう、胞障壁(セルレス)のように」

 まだらな暗光が、ボゥシューとサイカーラクラをさえぎり、サイカーラクラの顔に極彩色の影を落とした。

「それから、お友達ができました。たくさん、6人も、でも、お姉さんもいた。お姉さんも友達。でも、喧嘩した。私が顔を隠したから。怖かったのです。いろんなものが。幸せでした。幸せになったから、とても怖かった」

「ワタシも怖かった。幸せで気が狂いそうになった。もしかしたら、その時、狂ったのかもしれないけど」

「お姉さんも怖かったのですか?」

 ボゥシューは、それには答えず。逆巻く闇の中心を指した。

「ジルフーコが呼んでるよ」

「ジルフーコは、私の友達」

 サイカーラクラが微笑むと、彼女の身体が霞んだ。

「はじめは、お姉さんの友達なのだと思っていました。でも、ジルフーコは私の友達でした」

「そうだよ、サイカーラクラ」霞むサイカーラクラの笑顔に、ボゥシューは、言葉を重ねた「オマエの友達だ。永遠の」

あの人(丶丶丶)を捜しに行くのですね」

「ああ」

「お姉さんと同じ髪の色の、お姉さんと同じ瞳の、お姉さんと同じ気難し屋の、お姉さんと同じで、なんでも頼みを聞いてくれる、あの人(丶丶丶)を捜しに」

「そうだ」

「はじめ、私は、あの人(丶丶丶)を好きなのだと思っていました。でも、違いました。それほど、あの人(丶丶丶)は、お姉さんに似ていたのです」

「聞きたいことがあるんだ」

 荒れ狂う極彩色の闇に圧し潰されそうになりつつ、ボゥシューが叫んだ。

「見つけたからって、聞けるかどうかはわからない。それでも、聞くには、まず、アイツを見つけなくちゃいけないんだ」

 


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