表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

209/251

7-1(6)

 

「あ、いた、いた。ねえ、ダー」

 まだ、そのへんをウロウロしていたレウインデが、ダーを見つけて話しかけてきた。

「今度、ダーが、胞障壁(セルレス)超える時に、一緒に乗せてくれない?」

「それは、かまいませんが…」

 ダーは不思議そうな顔で、レウインデに尋ねた。

「あなた、胞障壁(セルレス)になんか入って、大丈夫ですか?」

「え? だって…」今度はレウインデが面食らう番だ「ダーが操縦したら、大丈夫なんじゃないの?」

「あなたの空間拡散率がゼロで、存在が点であるなら、そうですけど」

 ダーは、レウインデの頭のてっぺんから、つま先まで、しげしげと見まわす。

「あまり、そんな感じには、見えませんね」

「えー、何だよ。話し違うじゃない」レウインデは途端にむくれる「ジルフーコや、ダーの操縦なら、通常空間とほとんど同じだって聞いたのに」

ほとんど(丶丶丶丶)同じ、ですよ。まったく同じじゃありません。数学的には全然違います」

 ちぇ、だまされた、とレウインデが、ぶつぶつ言っている隣りで、ダーが続けて説明する。

「あの子たちは、もう何度も胞障壁(セルレス)を抜けていますからね。それと較べれば、ほとんど普通の空間と同じように感じたのでしょう。だいたい、ジルフーコの操縦でも、わたしは、あの空間を認識できなかったのだから、通常空間と同じわけがないじゃないですか」

「エイオークニも? 彼も、同じだって言ってたよ?」

 駄々をこねるように食い下がるレウインデ。

「あの人、とても我慢強いの」ダーは、ふふ、と笑った「みんなが、通常空間と変わらない、って言ってるのに、自分だけ、いや違うみたいだ、なんて言いませんよ。それに、聞かれたのは、わたしの操縦と同じか? でしょう? どっちも普通の人間にはそれなりに辛いはずですけど、そんなこと、あの人が言うはずないです」

 

最初の光子体(ピスリーニア)の具合はどうだった?」

 突然、実験室に現れたレウインデは、これまた唐突に、ボゥシューに尋ねた。

「どうもこうも、まあ、あんなモンじゃないのか? しばらくは死なないよ。もう最初の光子体(ピスリーニア)じゃないけどな。励起子体(パウフラニア)だ」

「それ、それ」レウインデが嬉しそうに言う「知ってる? あの人が励起子体(パウフラニア)になったの、ラクトゥーナルが、ひた隠しにしてるんだ」

 あ、そう、と気のない返事のボゥシューに、レウインデは嘆息し、落胆を隠さなかった。

「まあね、結局、私ら光子体(リーニア)にしか関係ないことだからね。興味なくて当然だよ。光子体(リーニア)は、彼に見捨てられたんだ」

「そんなの、最初っからだろう」ボゥシューはそっけなく言った「光子体(リーニア)とデルボラのどっちを取るかって話しなら、あの親父は、迷ったあげくにデルボラを取るさ。いまさら、ぐだぐだ言ったってしょうがない」

「まあ、そうだよ。そうなんだけどさあ」

 レウインデは天を仰いだ。正確には実験室の天井だが、それは宇宙にむけての、彼の大きな嘆息だったから。

「ほとんどの光子体(リーニア)は、そんなこと知らないんだ」

 

 管 制 (オペレ―ティング)(ルーム)に、全員が集合する中、光の泡沫を飛ばして、レウインデが現れた。

「そろそろ、危ないところにかかりそうだから、帰るよ」

 すでに操縦席に腰を落ち着けているジムドナルドが、レウインデに背中を向けたまま、言った。

「そう言わずにゆっくりしていけよ。なんなら、このままいていいぞ。どうせデルボラに行くんだろ?」

「いやあ、やめとくよ」レウインデは、くすっ、と笑った「君の操縦、ずいぶん荒っぽいらしいじゃない? 私、繊細だからね。ダメなんだ、そういうの」

 言い切るか言い切らないかのギリギリで、レウインデは忽然と姿を消した。

「本番はもう少し先だけど」

 ジムドナルドの横に滑り込んだジルフーコが声をかけた。

「なんなら、操縦変わろうか? いつも通り、手前までなら、ボクが操縦してもいいよ」

「病み上がりが、偉そうに言うな」ジムドナルドがジルフーコのほうに顔をむける「そこに浮いてるのもやっとだろ。むこうに着いたら、いろいろあるんだから、いまは休んどけ」

 はっとして、顔を上げるサイカーラクラに、ジルフーコは微笑むと、ジムドナルドに軽く手を振ってから、右後方の副操縦席に戻っていった。

 ジルフーコが副操縦席に着いたのを確認してから、ジムドナルドが小声でサイカーラクラに言った。

「心配しなくていい。ジルフーコは、元の身体に戻りたてで不安定なだけだ。すぐに落ち着く。って言うか、落ち着いてもらわなきゃ、こっちが困る、ただでさえ…」

 ジムドナルドはそこで言葉を止めてしまった。

 サイカーラクラは、すぐに、ジムドナルドの言いかけた名を思いついたが、言葉には出さず、黙って肯いた。

 

 壁スクリーンに躍る、極彩色の闇と光に、エイオークニは、圧倒されていた。

 映像、と言うより、空間そのものが、意図をもってエイオークニを威圧してくる。

 体が、ではなく、心が、その奥底が、拒否すべきものを見い出して、震えている。

「大丈夫ですか?」

 心配そうにのぞき込むダーの視線に、エイオークニは、当然のようにやせ我慢で答えた。

「前、2回とは、少し違いますね。これが本当の胞障壁(セルレス)ですか」

 ダーの返事はなかった。

 ダーは停止している。それは、胞障壁(セルレス)に入ったことの証明だったが、それとは別に、エイオークニは、ほっとした。

 あまり長く、ダーの前で平静を装い続けるのは、エイオークニとっても、難しいことだったのだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ