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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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207/251

7-1(4)

 

 対話室から出てきたジムドナルドは、疲れ切った顔で、自分のソファに身を投げ出す。

「ジンジャーエールは、いかが?」

 ダーの差し出したカップに、礼を言い、いっきに飲みほす。

「いったい、あの部屋で、何やってんだ?」

 ソファに突っ伏して、顔だけ上げたジムドナルドが、ボゥシューの問いかけに返す。

「言葉遊びだ」

「言葉遊び?」

「ジルフーコが情報をそぎ落として、部分的に矮小化(ダウングレード)した新しいジルフーコになる。それに対してこっちから問いかけをする。するとジルフーコが、新しいジルフーコで答えるから、それにこっちが対応して、問いかける内容を変える。それをジルフーコが分析して、さらに情報を削る。その繰り返しだ」

「目隠しして、彫像を、他人のアドバイスだけで刻むような感じか?」

「他人の彫像じゃなくて、自分のだけどな。自分のことは、なかなか自分じゃわからないし、骨の折れる作業だ。サイカーラクラとレウインデは、こういうことで疲れることはないから、俺だけちょっと不利だ」

「サイカーラクラはともかく、レウインデは、まるっきりの他人事だから、けっこう、楽しんでるんじゃないか?」

「さあ、どうだかな」ボゥシューのくすぐりに、ジムドナルドは、あまり乗ってこなかった「適当にやると、ジルフーコが元の体に戻ったときに露骨にわかる。励起子体(パウフラニア)は、情報(リーンファン)(アール)が相互に引きずられるからな、いいかげんにやると、励起子体(パウフラニア)のジルフーコがいびつになって、すぐバレる。そんなことは、レウインデに我慢できないだろ?」

「プライド高そうだからな」言いながら、ボゥシューはジムドナルドをのぞきこむ「オマエもそうだろ?」

「俺が?」ジムドナルドは、フン、と鼻を鳴らした「俺はそんなヘマはしない。それより、サイカーラクラが、ジルフーコのこと、自分の理想のジルフーコに変えちまわないか心配しとけ」

「あの子は、そんなことしませんよ」

 ダーが言った。

「しない、と言うより、できないのですけど。そういうときは、何故か、わたしの部分集合としての性質が、あの子の中で優位になってしまう。非常にコンピュータチックになるの。もう少し、羽目を外しても良いと思うのだけれど」

「なんか、あの2人だけにやらせておくのが不安になってきた」

 ジムドナルドは笑った。

「ダー、ジンジャーエール、うまかったよ。もう休憩は十分だ。もうひと頑張りしてくるさ」

 そう言い残して去っていった、ジムドナルドの背中に向かって、ボゥシューが呟いた。

「何だかんだ言って、アイツが、いちばん張り切ってるじゃないか」

「良いことです」

 ダーが言った。

「ここで頑張らないようでは、ぜんぜん、ジムドナルドらしくないですからね」

 

 エネルギーポッドの前で、

 ボゥシューとサイカーラクラが、ジルフーコの様子を窺っている。

 サイカーラクラとジルフーコは直接つながっているので、サイカーラクラは、別にどこにいてもかまわない。

 レウインデも情報体(リーンファノア)だから、音声で会話しなくても良さそうなものだが、光子体(リーニア)励起子体(パウフラニア)では、情報の流れが違うらしく、うまくいかないらしい。

 ボゥシューは、さっき少し、対話室に入ってみたのだが、ジムドナルドもレウインデも、確かに、ジルフーコの声と会話しているが、それ以外にも2人で余計なことを言い合っていた。ジルフーコの声も含めて、話している内容は雑談に近く、いったい、どこをどう調整しているのかわからなかった。

 そんなわけで、ボゥシューは、自分がわかりやすい、励起子体(パウフラニア)の体をモニタリングするほうを選んだ。

 サイカーラクラも、ジムドナルドとレウインデの2連弾は、荷が重いらしく、ボゥシューのほうについてきた。何より、まだ、中身が(丶丶丶)入ってない(丶丶丶丶丶)とはいえ、ジルフーコの体を眺めているほうが、サイカーラクラも、ずっと落ち着く。

「いま、動きました?」

「ああ、そうだな」

 サイカーラクラは、一度、目を閉じ、静かに聞き耳をたてる表情になった。しばらくすると、目を開く。

「やっぱり」サイカーラクラは、ボゥシューに顔を向けた「いま、ジルフーコ、試しに入ってみたそうです。まだ、ちょっときつい、と」

「そんな感じだな」

 ボゥシューはコンソール出力を何重にも切り替えながら、ジルフーコの状態を把握していく。

「各神経節の動きがバラバラだ。もっとも、動かせるようになってきたんだから、あと、もう少しだろう」

「ほんとですか? あ?」

 ジルフーコのまぶたが、ひく、と、動くと、そのまま両目が開いた。サイカーラクラが声を引っ込め、息を飲む。

 2つの金の虹彩が、サイカーラクラを見つめて、

 サイカーラクラは、かなしばりになって、その場を動けない。

 ジルフーコは微笑んだが、サイカーラクラのおびえようを見て気づいたらしい。

 目を閉じた。

 ほっとした表情のサイカーラクラに、ジルフーコが再び目を開ける。

 鳶色の目の、いつものジルフーコだった。

 ボゥシューがカプセルを開け、台座からジルフーコが飛び下りた。

「やあ、心配かけたね」

 ジルフーコは笑った。

「ボクは、もう、大丈夫だ。準備ができたら、デルボラに行こう」

「準備、って、何の準備だ?」

 ボゥシューの問いに、ジルフーコの声が天井から響いた。

「ジムドナルドの準備だよ。今度はジムドナルドが連れていってくれる。そうだよね?」

「そうなのかい?」

 対話室のレウインデが、ニヤニヤしながら尋ねる。

「ああ、そうだよ」

 ジムドナルドが答えた。

 

 

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