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ボゥシューとサイカーラクラに頼まれたエイオークニは、嬉々としてマイ工具セットを持って、管制室の副操縦席側に現れた。
パネルの固定治具に、ああ規格が違う、などと言いながら、ドライバーを何本か、とっかえひっかえ当てていたが、やがて、パチン、と鳴らしてパネルをはずす。
サイカーラクラに指示を受けながら、ジルフーコの設計で、ボゥシューがオーダーシステムで作った装置を、管制システムに組み込んでいく。
「へえ、慣れたもんだな」
3人の後ろから、ジムドナルドがのぞきこんで、感心している。
最後のソケットをつなぐと、管制室内に、ジルフーコの声が鳴った。
「ありがとう、これで、ボクの声は聞こえるね」
「こっちの声は聞こえてるのか?」
ジムドナルドの問いに、ジルフーコの声はすぐさま答えを返す。
「聞こえてるよ。ずっとね。いま、ボクが読めるのは、情報の流れだけなんだけど、そっちの話しは、すぐに分析できるようになったから、完全情報体になってからのことは、だいたい把握してる。ただ、こっちの意思を伝える方法が、なかなか見つからなくてね」
「ごめんなさい」サイカーラクラが言った「もっと早く気づけば良かったのですが」
「気にしないで」ジルフーコの声はいたわるように響いた「もともと情報体は、雑音が多くて、たいていの情報はやり過ごしてしまうから、思ったより早く、気づいてもらえて助かったよ」
そう言われて、サイカーラクラが嬉しそうに微笑む。それを見たボゥシューは、あいかわらず、ちょろいなあ、と、他人ごとながら心配になる。
「これ、どうやって、声出してるんだ?」
ジムドナルドが尋ねた。
「ケミコさんの情報核を使ってる。かなり単純とは言え、情報核には違いないから、ボクも直接アクセスできるんだ」
「なら、ケミコさんを直接操作したほうが、早いんじゃないのか?」
「ボクは、もともと、コンピュータでもロボットでもないからね。情報の流れが、実はかなり違うんだ。時間をかければできるとは思うけど、ダーみたいには簡単にはいかないよ」
まあ、そうでしょうね、と、ダーもジルフーコに同意した。
「それで、話しが通じたところで、ジムドナルド」
「何だ?」
「矮小化を手伝ってくれ」
「手伝うのはかまわんが」ジムドナルドは周囲を見回す「ここでか?」
「そうだね…。確かに、他の人には退屈だろうから、いつもの対話室にしよう」
「なんなら、レウインデでも呼ぶか? あいつ、そういうの好きそうだしな」
「そうだね。キミと2人でやってくれれば、かなり時間を短縮できる」
ジルフーコの声が最後まで話し終わる前に、管制室の中央に光の点が凝集しだした。
「呼んだ?」と、レウインデ。
「おお、呼んだ、呼んだ」と、ジムドナルド「ここを出てエレベーターの先にある部屋だ。すぐ行くから、先に行っててくれ」
「えー」レウインデは不満そうにふくれっ面をした「あの部屋、閉じ込めらてる感が凄くて、嫌いなんだけどなあ」
「じゃあ、いい、手伝ってくれなくていいから、とっとと帰れ」
「そんなこと言わないでよ。つれないなあ」
そう言うレウインデは、ジムドナルドから視線をはずし、宙を見つめてニヤニヤする。
「せっかく、完全情報体になったのに、もう、やめちゃうの?」
「言われてるほどには、便利じゃないんでね」
「光子体の夢なのになあ。みんな、完全情報体になれないから、光子体になってるようなものなのに」
「なら、なってみればいいんじゃない? レウインデ」
「また、御冗談を、そんなの、まっぴらごめんだよ」
空中をたがいの揶揄が飛び交う中、イリナイワノフがボゥシューの脇腹をつついた。
「ねえ、矮小化って、何するの?」
「あ、ああ」ボゥシューは小声で返す「いま、ジルフーコは、なんて言うかな、情報量が肥大しすぎて、励起子体の体に入りきらない状態になってるんだ。だから、情報をそぎ落として、元に戻れるようにする」
「ジルフーコ、励起子体だったの?」
「ついこの間、なったみたいだ」
ふーん、と、イリナイワノフは、何故か、納得したようだ。
「ジルフーコ、サイカーラクラのこと好きだもんね」
イリナイワノフはサイカーラクラに聞こえぬよう、ボゥシューの耳元でささやいた。
「だから、励起子体体になったんだね。それで、また、励起子体に戻るんだ。サイカーラクラと一緒がいいんだね」
ボゥシューは振り返って、イリナイワノフの顔を、まじまじと見た。
それから、イリナイワノフの隣りにいる、ビルワンジルに視線を移す。
「どうかしたか」
気づいたビルワンジルに、そう問われて、ボゥシューは、あわてて首を左右に振った。
「いや、何でもない」
イリナイワノフ、自分のこと以外は、とてもするどい。




