表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

205/251

7-1(2)

 

 サイカーラクラは、エネルギーポッドに眠る、ジルフーコをじっと見つめていた。

 目を覚ます、までにもいかぬ、顔や手指、首筋の動きなど、わずかな変化も見逃さないように、ずっと見続けていた。

 ボゥシューには、すべてモニターしているから、そこまでする必要はない、と言われていたが、他にしたいこともないので、ずっと、そうしていた。

「まだ、しばらくは、目を覚ましませんよ」

 いつのまに、隣りに立ったダーが、優しく声をかけた。

 そうして、2人並ぶと、髪の毛の色を除けば、本当によく似ている。

 ダーが、そのようにボディを設計したのだから、当たり前、と言えば、当たり前だが、ちょっとした仕草や、顔の表情、この母娘には、ただ単に似ているという以上の何かがあった。

「まさか、自分がしっかりしていなかったから、ジルフーコが、こうなったなんて思ってないでしょうね?」

 サイカーラクラは、ダーの言葉に、静かに首を振った。

「ジルフーコが、ジルフーコの形のまま、胞障壁(セルレス)を超えたのだから、これ以上の成功はありません。ただ、無限の情報操作に無限のエネルギーが必要だっただけ。ゼロを通り越してマイナス無限大になって枯渇してしまった、励起子体(パウフラニア)の活動エネルギーを呼び戻すのに、普通のやり方では、無限の時間がかかります」

「だいたいはあってますけどね」ダーは、先生が生徒の答案を採点するように指摘した「情報操作には、本来、エネルギーは必須ではないのです。コストゼロで情報操作できる素子がいまだ存在していない、というだけの話しで、ジルフーコも途中でそれに気づいたでしょうから、無限大のエネルギーが必要だったわけでは、ありませんよ」

「では、何故、ジルフーコは目を覚まさないのでしょう?」

励起子体(パウフラニア)の問題、というか限界なのです」

 ダーはここでいったん言葉を切った。励起子体(パウフラニア)である、サイカーラクラに少し遠慮してのことだったが、そんなことを言い始めたら、何も議論など出来はしない。

 ダーは、決心して、話しを続けた。

「ジルフーコのやり方では、生身の体ではとてももたない、そう彼は判断して励起子体(パウフラニア)になったのですが、実際には、励起子体(パウフラニア)だって、無限の情報操作などできないのです。励起子(パウフラン)という実体がありますからね」

「でも、ジルフーコは、胞障壁(セルレス)を超えましたよ?」

「ええ、そうです。だから、その時点で、励起子体(パウフラニア)から、完全()情報体(リーンファノア)に進化していないと辻褄があわない…」

完全()情報体(リーンファノア)?」サイカーラクラが叫んだ「そんなこと可能なんですか?」

「可能かどうかなんて知りませんよ」ダーは特別に困った顔をした「わたしは第2類量子コンピュータという、ちょっと変わったコンピュータですが、それだってコンピュータには変わりないわけで…。サイカーラクラ、あなたは情報体(リーンファノア)なのだから、直接、交信できるはずでしょう?」

「直接、交信、って…、まさか…、ずっと、あの…、頭の中の…、…」

 そのまま、言葉を失くした、サイカーラクラの顔に、押し寄せるように歓喜の表情が浮かぶ。

 ときどき、はい、はい、と誰に対するでもない返事をひとりでしながら、両眼からあふれる涙に、くしゃくしゃになった顔で、笑っている。

 ダーは、やれやれ、という顔で、サイカーラクラの様子を眺めていたが、彼女が自分から話しかけてくるまで、辛抱強く待った。

「そうです。ジルフーコ、でした」サイカーラクラは、やっと、ダーに報告した「…ずっと、私に話しかけてくれていたのに…、私、頭がおかしくなったのだと思って…、ずっと、無視していたから…。でも、やっと、ジルフーコも、話しが通じて安心したみたい」

「そう、それは良かった」

 ダーは言ったが、無視とか、それ本当に頭がおかしいじゃない、このオバカ娘、とは、サイカーラクラがあまりに哀れで、口にはできなかった。

 

完全()情報体(リーンファノア)?」

 ボゥシューが聞き返して、サイカーラクラが、こくこくと肯く。

「…なるほど、そういうわけか、ま、無事で何よりだ」

 無事かどうかは微妙な気もするが、それをサイカーラクラに言っても、話しがややこしくなりそうな気がするので、ボゥシューは黙っていることにした。

「それで、ボゥシューに頼みがあるのです」

「何だ?」

「ジルフーコが元の体に戻るには矮小化(ダウングレード)が必要で、これにはしばらく時間がかかるそうです。その間、励起子体(パウフラニア)のほうの維持を頼むと。ジルフーコが言うには、ポッドの供給エネルギーが多すぎて、太ってしまうそうです」

「ガス欠だと思ってたから、めいっぱい、エネルギー突っ込んでたからな。調整しとくよ」

「それから、宇宙船(ボード)の通信ラインにジルフーコが、直接、割り込める受け口を作って欲しい、と」

 え? と、ボゥシューは困惑の表情を浮かべた。

「そういうの、苦手なんだが…」

「あ、別にボゥシューでなくても、いいらしいのですが、私はジルフーコの指示を聞き取るのがやっとなので、作業は他の人にやっていただかないと…」

「そういうのは、ジルフーコとタケルヒノだったからな…。ダーは?」

「細かい作業は苦手だそうです」

 コンピュータのくせに、と、ボゥシューは思ったが、まあ、得手不得手ってのはあるんだろう。

「ジムドナルド、ビルワンジル、イリナイワノフ、みんな、ちょっと違う感じだな」

 強いてあげればジムドナルドだが…、

 ジムドナルドに頼むぐらいなら、ボゥシューが自分でやったほうがマシな気がした。

「ヒューヒューさんは…、無理そう…、ですね」

「…だな」

 2人とも考えあぐねて、互いの顔を見つめ合っていたが、そこで、ボゥシューがひらめいた。

「1人いた」

 え? と驚く、サイカーラクラ「誰です?」

「本人に聞いてみないとわからないけどな」

 ボゥシューは立ち上がって、実験室の出口に向かった。

「意外と器用そうにも見えるから、頼んでみよう。もしかしたら、やってくれるかもしれん」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ