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ワンダー7  作者: 二月三月
始まりの終わり

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204/251

7-1(1)

 

「だから、いったい、何が、どうなってるんだ?」

 ラクトゥーナルが吼えた。

「どうなってるも、こうなってるも」ジムドナルドがやり返す。エネルギーポッドに浮かぶミウラヒノに、人差し指を突きつけた「あんたの見たまんまだ。この役立たず連れて、さっさと帰れ」

 ファライトライメンに出て、すぐ現れたラクトゥーナルは、登場と同時にまくし立てた。と言っても、何がどうなってるのか説明してくれ、の繰り返しなわけで、興奮しすぎて、ジムドナルドがいくら説明しても理解が追いつかない。めんどくさくなったジムドナルドが、治療室までラクトゥーナルを引っ張ってきたが、状況はまるで変わらなかった。

 まだ頭から血の気は引かないものの、ミウラヒノのポッドの隣り、もうひとつ並んで設置されているエネルギーポッドの中身に気づいたラクトゥーナルは、さすがに声をひそめた。

「彼は…、大丈夫なのか?」

「大丈夫なわけないだろうが」

 ポッドの中に浮いたまま、ぴくりともしない、ジルフーコをちら見しつつ、ジムドナルドがぶっきらぼうに答えた。

胞障壁(セルレス)の無限障壁を力ずく(ブルートフォース)で解いたんだ。タケルヒノでもなけりゃ、たとえ励起子体(パウフラニア)であっても、こうなって当たり前だ」

胞障壁(セルレス)を…、超えた…?」

 あらためて、ポッド内のジルフーコを見つめていたラクトゥーナルは、あることに気づいて、ハッとした。

「タケルヒノ…、は…?」

「デルボラの造り出した胞障壁(セルレス)の中だ」

「…閉じこめられたのか?」

「いや、自分で入った」

「何故?」

「そんなことは知らん」

 けんもほろろなジムドナルドの答えに、消沈しつつも、ラクトゥーナルは、まだあきらめない。

「デルボラは?」

「次元変換駆動レールでイリナイワノフが打ち抜いた。ティムナーで宇宙船をぶち抜いたアレだ」

「死んだのか?」

「あの程度で死ぬようなタマか? それでも、だいぶ力をそいだから、時間は稼げる」

「時間を稼ぐ、って、それで、どうする気だ?」

「もう一度、デルボラに行く」

「何だって?」

「もう一度、行くんだよ。あのまま(丶丶丶丶)にしておけるわけないだろう?」

 ラクトゥーナルは、恐る恐るジルフーコを見つめ、それから、あらぬ虚空に視線をおよがせた。

「どうやって?」

「そんなことは、あんたには、関係ない」ジムドナルドは顎でミウラヒノの浮かぶポッドをしゃくった「いいから早く、この親父を連れてけ」

 そうして、ジムドナルドは、ミウラヒノを見つめると、付け足した。

「おっさん、何か言うことはあるか?」

 ミウラヒノの傷はすでにふさがっていた。石のように固まった表情のまま、唇だけが動いた。

「何もない」

 ジムドナルドは、ミウラヒノの返事を聞くと、コンソールを操作しだす。

 ジョイントの外れる金属音、どこからともなく数体のケミコさんがあらわれて、エネルギーポッドを台座から外すと、そのまま支えて運んでいく。

多目的機(マルチロール)を1機貸してやる」振り向いたジムドナルドがラクトゥーナルに言った「操縦くらいはできるだろ? それで、このおっさん(丶丶丶丶)を連れてけ。ああ、多目的機(マルチロール)は返さなくていいぞ。面倒だからな」

 

 実験室のボゥシューは、ふと、背後に気配を感じた。

「来てどうなるものでもないけれど、来てしまいました」

 アグリアータだった。

「まあ、別にかまわんさ」振り向かずにボゥシューが答える「アンタが来るぶんにはかまわない。さっきまでフラインディルも来てたみたいだし」

 ボゥシューは、わざわざ、ラクトゥーナルではなく、フラインディルと呼んだ。

「迷惑かけてすみません、あの人、…ダメなんです」

「連れてってもらえたから、送り返す手間ははぶけたしな」ボゥシューは椅子を回してアグリアータの方を向いた「でも、リーボゥディルは、ダメだ。宇宙船(ボード)には来させるな」

「それは、もちろん…」

「デルボラにもだ」

 アグリアータは、すぐには答えなかった。

 じっと、ボゥシューを見つめたまま、無言の時を過ごしたアグリアータは、それでも、最後には問わずにいられなかった。

「やっぱり、行くの?」

 ああ、と答えるボゥシューに、アグリアータは言葉を継いだ。

「どうして? あなたたちには、何の義務もないのよ? デルボラは、あたしたち、光子体(リーニア)の不始末なのに…」

「不始末、っていうのは、デルボラに酷すぎやしないか?」

 ボゥシューは、笑った。

「それに、光子体(リーニア)のせい、と言っても、悪いのはあの男(丶丶丶)だろ。本人は、ちゃっかり、励起子体(パウフラニア)になってるしな。ワタシたちのせい(丶丶丶丶丶丶丶丶)なんて考えは、やめといたほうが無難だ」

「でも…」

「それに、向こうにタケルヒノがいるんだ」

 ボゥシューの顔が、ほんの少し、強張った。

「そのまま、ほっといても、帰ってくるのかもしれないが、それならそれで、また、でかけるんだろう。そんなことするぐらいなら、向こうで合流したほうが早い」

 アグリアータは、反論もできず、黙ってボゥシューを見つめていたが、やがて、ふっ、と笑った。

「あなたたち、とても良く似ているのね」

「え?」

「あなたと、タケルヒノ、とても良く似ている」

 なにげなく、思ったままを口に出した言葉だったが、意外にも、ボゥシューの顔色が変わった。

「どうしたの? ボゥシュー」

 驚いて尋ねるアグリアータ。ボゥシューは、しばし言いあぐねていたが、椅子をずらして、コンソールの前を空け、アグリアータに見えるように体をそらした。

「これが、タケルヒノの細胞のデータ」ボゥシューはコンソールを操作しながら言う「無理言って取らせてもらった。そして、これが、ワタシ」

 最初、意味もわからずにコンソールを眺めるだけのアグリアータだったが、ボゥシューの操作で出現する指数の羅列に、ついには驚愕の表情が浮かんだ。

 リーボゥディルの遺伝子を1から設計したアグリアータでなければ、到底、理解し得ない情報だった。

「これは…、いったい?」

「だろう? ありえないんだ」

 ボゥシューは言ったが、それは、必ずしもアグリアータに向けた言葉ではなかったかもしれない。

「理由と言えば、これが理由だ。でも、何故、こんなことになっているのかはわからない。だから、ワタシはタケルヒノを迎えにいかなければならないんだ」

 

 

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