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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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201/251

デルボラ(16)

 

 皆、管 制 (オペレ―ティング)(ルーム)に集まってきたが、どことなく、いつもとは雰囲気が違う。

 イリナイワノフはビルワンジルの傍らにいた。

 ジルフーコが操縦席にいるのは普段通りとしても、隣りの副操縦席にはサイカーラクラが座っている。

 ジムドナルドは中央やや左後ろに、1人で立って、虚空を見つめていた。

 ヒューリューリーは、ザワディに巻き付いている。互いに落ち着くらしい。

 ミウラヒノをポッドに残して、ボゥシューが管制室に入ってきた。

 ダーの隣で話している、エイオークニの側に移動する。

「まさか、本当に来るとは思わなかったな」

「お嬢さん」

 と、以前、会った時と同じように、エイオークニはボゥシューに呼びかける。

「私が、いちばん、驚いていますよ。ああは言ったものの、また会えるという確信以外は、何もかも、ほんとうに、見当もつかなかったのです」

「そのわりには」横からダーが口をはさんだ「わたしが声をかけたら、迷いも見せずに、すぐさま、宇宙船に乗りましたね」

「時が来たのが、わかったからですよ」エイオークニは答えたが、幾分、不満気な響きがあった「万全とは言いませんが、それなりの警護はしていたのです。それらをすべて無視して、いきなり、あなたは、執務室まで来られたのですから。そんな迎えが来たのですから、もう、くだらない事務仕事はしなくてすむのだと、すぐに、わかりました」

「執務室?」ボゥシューが言葉尻をとらえた「何、やってたんだ?」

「太陽系防衛評議会の主任(チーフ)執行官(エクゼキューター)」エイオークニの代わりにダーが答えた「で、良いのでしたよね」

「まあ、そうです」エイオークニは追認したが、あまり愉快そうではなかった「航宙宇宙船までは、なんとか造りましたが、胞障壁(セルレス)を超える方法がわからなかったので、太陽系防衛、としました」

「こんな短期間で、次元変換駆動機関まで造ったのか?」

「目標があれば、地球人はそれなりに頑張りますからね。情報キューブの解析に若干手間取りましたが、理論は完全に解明できなくても、モノだけなら、なんとか造れますし…。もっとも、次元変換駆動機関については、航宙機関としてより、新エネルギーとしての、需要のほうが大きかったですが」

「へぇ、じゃあ、地球も少しは過ごしやすくなったのか?」

「いえ、エネルギーの偏在と富の偏在には関係がないことがわかって、かえって揉めてます」

「ああ…、そう…」

 ふと、ボゥシューはジムドナルドの背中に視線を向けた。

「そういうの、得意そうなヤツがいるが…」

「いや、それは、そうですが」エイオークニは声をひそめた「世の中には、解決しないほうが良い問題、というのも、多々あるわけでして、ある種の問題解決のためだけに生きているような人は、問題がなくなってしまうと、生きる意味すら見失ってしまうので…」

 ここで、エイオークニは、ダーに同意を求めるように視線を送ったが、ダーは反応しない。柔和な表情のまま、硬直している。

 ダー? とエイオークニは呼びかけたが、返事はない。

胞障壁(セルレス)に入ったんだ」

 ボゥシューがエイオークニに言う。

胞障壁(セルレス)は数学障壁で、ダーは自分で解けるタイプの胞障壁(セルレス)しか認識できない。認識できないタイプの胞障壁(セルレス)の中では、ダーの時間は止まってしまう」

 なるほど、と、肯いてから、エイオークニは、あわてて自分の言葉を打ち消した。

「お嬢さん、あなたの言葉を理解できたわけでは、ないんです」エイオークニは、とても不思議な言い訳をした「私は、あなたたちが、情報キューブ内の情報を遥かに凌ぐ体験をしてきたこと、そのことに納得した、それだけのことです」

 

「いつもと違う」

 イリナイワノフが言った。

「ああ、そうだな」

 ビルワンジルが応じた。

 実際、壁スクリーンを通してみる胞障壁(セルレス)は、いつもの胞障壁(セルレス)とは大違いだった。

 いや、違う。

 いつもの宇宙空間と、まるで同じだった。

 暗く、落ち着いた闇。

 遠くに瞬く、星のきらめきすら、いつもと同じ。

 いつも見ている、深淵。

 ダーが、機能停止しなかったら、どこからが胞障壁(セルレス)なのか、まるでわからなかったろう。

 デルボラから出る胞障壁(セルレス)だから、なのか。

 それとも。

「ジルフーコ?」

 イリナイワノフが声に出した名に、ビルワンジルは、是とも否とも言わなかった。

――キミがいちばん真実に近い、タケルヒノを除けば

 ビルワンジルの頭の中に、ジルフーコの言葉が響く。

 でも、それは、違うんだ。

 ビルワンジルは、もちろん、声には出さなかった。誰であっても、それが、たとえジルフーコでも、自分のことは、見えないのだ。

 

「やあ、あなたがサイユルの人ですね」

 エイオークニが話しかけた。

「サイユルをご存知ですか?」

「ええ、ダーに聞きました。いま、止まってしまったようなんですが」

 なるほど、と、ヒューリューリーは見得を切るように上半身をぐるりと回した。

「ヒューリューリーです、あなたに会えて…」 

 そこまで言って、ヒューリューリーは千載一遇の機会を逃したことに気づいた。

 いかにも、拙者、ヒューリューリーでござる

 と言うべきだったではないか。

 ヒューリューリーは、内心、がっかりしたが、表には出さずに、努めて平静を保った。

「…エイオークニ、あなたは、サムライですね?」

「え? いや、確かに剣道は嗜みますが、サムライというほどでは…」

「あなたは、サムライです」ヒューリューリーは、エイオークニの謙遜などには目もくれない「なんとなれば、あなたは、約束を果たすために、胞障壁(セルレス)を超えたではないですか」

「ああ、そうです」何かに打たれたように、エイオークニが応じた「私はタケルヒノとの約束を果たすために、ここまで来ました」

「タケルヒノとの約束?」ヒューリューリーの体は、無重量、天地無用の空間で、それでも、あからさまに何かに向かって傾いた「人は他人との約束など守らぬものですよ。それが、たとえ、タケルヒノ相手であっても」

「でも、私は」エイオークニは、ささやかな抗弁を試みた「ここまで来る理由に、約束を守る、以外のことを思いつけません」

「もちろんそうです」ヒューリューリーは、大きく伸び、天井にすらつきそうな勢いだった「人が守るのは、他人との約束ではなく、自分との約束です。あなたは自分との約束を果たした。だから、あなたはサムライなのです」

 

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