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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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200/251

デルボラ(15)

 

「役立たず、と言われるだろうとは思っていました」

 エイオークニの顔は、晴れやかだった。

「いまは、ただ、連れて来てくれたダーに感謝しています。あとは、私の責任ですから」

「まあ、何だ、ちょっと言い過ぎた」

 最初の激情が薄れ、ジムドナルドは、だいぶ落ち着きを取り戻していた。

「こっちも、いろいろあって、八つ当たりだ…、すまん」

 いま、爆発したことで、ジムドナルドは、いろんなものが吹っ切れた気がした。

 そうして冷静に考えると、早急に解決しなければならない問題が1つある。

 ジムドナルドは、ジルフーコに尋ねた。

胞障壁(セルレス)の突破開始まで、どれくらいある?」

「きっかり2時間後だ」ジルフーコは操縦席のコンソールから目を離さずに答えた「順調だよ。いつもと違うのは、…そうだな。最初から最後までボクが操縦する、ってことぐらいだ」

「できるのか?」

 ジルフーコはコンソールから視線をはずし、振り向くと、メガネ越しにジムドナルドの瞳を見据えた。

「正直に言うと、そう何度もやれる方法じゃないんだ。でも、一回なら、なんとかなる」

「そうか」ジムドナルドは荒々しくジルフーコの肩をつかんだ「たのんだぞ」

「こっちにも、たのみがある」

 ジルフーコはジムドナルドから目を逸らさずに言った。

「きちんと、ボクが何を(丶丶丶丶丶)しているか(丶丶丶丶丶)、見ていてくれ。たぶん、2度は無理だからね」

「わかってる」

 ジムドナルドは、ジルフーコの肩に置いた手に力を込めた。

「俺は、ずっと見てきた。だから、今度も、絶対に見逃さない」

 

 ジムドナルドが治療室に入ると、ボゥシューの他に、ダーとサイカーラクラがいた。

 3人の女性たちは、黙って、エネルギーポッドに浮かぶ、ミウラヒノを見つめていた。

 ミウラヒノの損傷部位は、外見だけなら、もう塞がっていた。

 中身のことはわからない。ジムドナルドも興味はなかった。

「よう、おっさん」

 ジムドナルドは、ポッドの中に声をかけた。

「あと1時間ちょっとで胞障壁(セルレス)に入る。そうなったら、あんまり、あんたの面倒は見てられないから、自前で頑張れ」

 ダー、サイカーラクラ、それにボゥシューは、はっとして、一斉にジムドナルドに顔を向けた。

「それでいい」ミウラヒノはポッドの中から答えた「わたしのことは、気にしないでくれ。…そうだ、ジムドナルド。質問がある」

「何だ?」

「デルボラを撃った、アレは、何だ?」

「次元変換駆動機関の軌道レールだ」

 ジムドナルドはこともなげに答えた。

「10億分の2秒という短時間だが、射線上に、突然、別次元から物質が現れる。中性子と言えども素粒子、物質には違いない。同一空間を2つの物質が占めることは許されないから、両方共エネルギーとなって消滅する。次元変換駆動が、真空中でしか使えない理由だが、逆に使えば武器になる」

「やはり、そうか」ミウラヒノの顔に諦念の色が浮かんだ「理論上は兵器として利用可能なのは知っていたが、普通は、当てることができないはずだが…」

「俺たちには、イリナイワノフがいるからな。軌道レールは直線だが、別次元の直線で、通常空間の重力測地線には一致しない。コンピュータで計算することは不可能だ。たとえ、ダーであってもだ」

「では、デルボラは、もう…」

「そんな簡単なモンかよ」

 諦め口調のミウラヒノに、ジムドナルドは、真っ向から反論した。

「次元変換砲、とでも言っておくか。あれが破壊できるのは、原理上、物質だけだ。情報(リーンファン)を消し去ることはできん。時間稼ぎにはなったが、まだ、デルボラは健在だろう」

 

 ビルワンジル、と、ジルフーコが声をかけてきた。

 何だ? と、返す、ビルワンジルに、ジルフーコが気まずそうに話しを続ける。

「キミに作った槍なんだけどさ」

「ああ、ありがとう、とても役に立ってる」

「いや、いまさら言うのも何だとは思うけど、あれ、実は、胞障壁(セルレス)を壊せるようには作ってない」

 え? と、戸惑う、ビルワンジル。

「だって、胞障壁(セルレス)、壊れたぜ」

「そうだよ、だからね」

 ジルフーコの顔に、いつものいたずらっ子の笑みが浮かんだ。これは、ジルフーコにとっても、すごく面白いことだったのだ。

胞障壁(セルレス)を壊したのは、槍じゃなくて、キミだから」

「何を言ってるのか、わからないんだが…」

「いまは、わからなくていいんだ」

 ジルフーコは、なおも食い下がり、説明を続けた。

「きっと、わかる。キミは胞障壁(セルレス)を破壊したんだから、きっと、いつかは、わかる。だから覚えてて、槍じゃなくて、キミが壊したんだと言うことを」

 困惑するビルワンジルに、かまわず、ジルフーコは話し続ける。

「もうすぐ、ボクらは、胞障壁(セルレス)を超える。もちろん、これが最後じゃない。でも、その後だと、ボクは、キミに説明できないかもしれない。だから、いましかないんだ。わからなくてもいい。でも、覚えていて欲しい。ビルワンジル、キミは、タケルヒノを除けば、ボクらの中で、いちばん真実に近い」

 


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