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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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デルボラ(12)

 

 さて、と、通路の真ん中で制止したジムドナルドは、ビルワンジルに言った。

「あそこのゲートをくぐった先にいるはずだ。準備はいいか?」

「何の準備だ?」

 背負った槍の中から、一本を引き抜き、右手に持ち替えたビルワンジルが尋ねる。

「そういう準備だよ」

 ジムドナルドが、言いながら、笑う。

「私は、騒動の最中は、あまり話せないので」

 ヒューリューリーは、ジムドナルドの脚にしがみついたまま、頭部の操作盤を叩いた。

「黙っていますが、気にしないでください。みんなの声は聞こえてますので」

「良い心がけだ」と、ジムドナルドは言った「お前のことは、片時だって忘れたことはないからな。しっかり、しがみついてろよ」

 

 部屋の中では、デルボラとミウラヒノが対峙していた。

 2人は押し黙ったまま、互いに相手を見据えていた。

 ミウラヒノはヘルメットを脱いでいる。

 励起子体(パウフラニア)には、必須という訳ではないが、着けていれば、それなりに有利なこともある。

 素顔を晒しているのには、それなりの理由(わけ)があるのだろう。

 ジムドナルドは無頓着に進み、ミウラヒノに近寄ると、ぽん、と肩を叩いた。

「帰るぞ、おっさん」

 ん? という感じで振り向いたミウラヒノは、1人足りない(丶丶丶丶丶丶)ことを瞬時に見て取った。

 ゆっくりと、デルボラに顔をむけるミウラヒノ。

「じゃあ、また来るよ」ミウラヒノがデルボラに告げた「元気でな」

 ミウラヒノの言葉が終わるより先に、デルボラが右手を上げた。

「そんな、つれないことを言わないでください」

 右手の指の先から、鈍色に吸光する闇がほとばしる。

本当に(丶丶丶)ひさしぶりに会えたのに、帰るなんて、許しませんよ」

 デルボラの指先から発せられた闇は、部屋の壁に沿って、極彩色の胞障壁(セルレス)を形作り、部屋から通路へと続く空間ををじわじわと埋めていく。

「そっちにも、都合はあるだろうけどな」

 ジムドナルドはビルワンジルに目配せした。

「こっちは、こっちで、色々あるんだよ」

 無造作に投げた、ビルワンジルの槍が、脈動する闇に当たる。

 生き物のように拡散しつつあった闇が、その衝撃で四散した。

「馬鹿な」

 デルボラの、声ではない、声が、真空中に伝搬する。

胞障壁(セルレス)だぞ? 壊せるハズがないのに」

 その一瞬の隙をついて。

 ビルワンジルの2投目がデルボラを襲う。

 すんでで躱したデルボラが、狼狽のあまり、思わず上げた左手を見て、ヘルメットの中のジムドナルドの口許が、にやり、と歪んだ。

 その刹那。

 ほんのわずか体をひねったミウラヒノが、

 ジムドナルドとデルボラを結ぶ直線に割って入った。

 ぐぅ、と声ならない唸りを上げ、

 ミウラヒノの左脇腹が無くなったとき、

 デルボラの錯乱は最高潮に達した。

 無重力であるはずの空間で、

 がくがくと操り糸の切れた人形のように瓦解するデルボラ。

 えぐられたミウラヒノの脇腹が、

 得体のしれない蟲がうごめくように塞がって行く様を見つめながら、

 ジムドナルドが、怒鳴った。

「おっさん、つかまれっ」

 死んだような、ミウラヒノの首根っこをひっつかみ、自分の体に密着させたジムドナルド。

 さらに、そのジムドナルドに、ビルワンジルがしがみつく。

 ヘルメットのバイザーに浮かぶボタンを、ジムドナルドは視線入力でオンにした。

 タケルヒノに渡された、ライフワイヤーの先端。

 それは、いま、ジムドナルドに繋がっている。

 その張力の最大限を持って、

 3人と1本を巻き上げるライフワイヤー。

 素晴らしいスピードで、通路を抜けるジムドナルドは、その角、その角で、絶妙にスラスターを吹かす。

「どうだぁ、ヒューリューリー」

 ジムドナルドが叫んだ。

「これで、2度目だろ。たぶん、もう、ないからな」

 ヒューリューリーは応えなかった。

 もう、しゃべらない、と自分で言い出したこともあるが。

 目の前で揺れる、半分胴のないミウラヒノの体が、

 途中でちぎれたら、どうなるのか、

 ジムドナルドが、角を曲がる度に気になって、じっと見つめていたからだ。

 

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