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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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デルボラ(11)

 


 管 制 (オペレ―ティング)(ルーム)左隅、3つある副操縦席のうちのひとつに、ボゥシューが陣取っている。

 ジルフーコは当然、メインの操縦席に座っていて、あとはイリナイワノフ。その3人の間を、いそがしくサイカーラクラが行き来している。

 ごめんなさい、と、足下に侍るザワディをまたいで、サイカーラクラは、ボゥシューの耳元でささやいた。

「イリナイワノフは、大丈夫でしょうか?」

 ボゥシューは、コンソールを切り替えて、イリナイワノフの生体情報(バイタル)を表示する。

「特に問題はないが」ボゥシューは、そう言いつつ、次々とグラフを切り替えていく「だいぶ時間もたったからな、疲労が心配だ。コクピットには過酸素ジェルカプセルを勧めたんだが、あれなら、もう少し体への負担が少ない」

 イリナイワノフは、流体カプセルは遅延が大きすぎてダメだと言う。

 ジルフーコも、こればかりは改善の余地がなく。結局、ボゥシューが折れた。

「休憩を取るわけには、いかないんでしょうか?」

「イリナイワノフの性格から言って、無理だろうな」

 ボゥシューは、中央の丸い檻に、一瞬、視線を投げた。

「それに、いま、あそこから離れたら、全てが無駄になるかもしれない」

「私が代われれば良いんですが…」

「…そうだな」

 もともと宇宙船(ボード)の基本設計は、情報体(リーンファノア)向けになっている。

 ジルフーコが手を入れているとはいえ、いまだ基幹部分は情報体(リーンファノア)のほうが操作性は良い。

 サイカーラクラが言うのも、その部分だが。

 即時反応性、フィードバック特性、慢性疲労耐性、そのすべてにおいて、実は、サイカラークラのほうが、イリナイワノフよりシステム親和度は高い。

 だが、いくらそれらの数値が高くても、当たらないのでは、どうしようもない。

 その一点で、イリナイワノフは代えがきかないのだった。

「ボゥシュー」

 サイカーラクラは、ますますボゥシューに顔を近づけ、ほとんど頬がくっつくくらいになった。

「どうした?」

「ジルフーコが最近、ヘンです」

「え? そうかな」

 もちろん、ボゥシューにだって、思い当たる節はあったのだが、サイカーラクラには言いづらかった。

「ええ、私の思い過ごしかもしれませんけど」

「デルボラに来て、みんな、気が立ってるからな。八つ当たりでもされたか?」

 ボゥシューは、わざと見当はずれのことを言ってみたが、こういうことは苦手だった。悔しいが、タケルヒノやジムドナルドは凄いんだな、とヘンなところで感心した。

 いえ、とサイカーラクラは首を振る。ボゥシューの言葉を真に受けたらしい。

「八つ当たりとか、そういうことは、ジルフーコはしません。以前より、優しいくらいです」

「そ、そうか…」

「ジルフーコは…」

 サイカーラクラの表情は沈んでいた。

「話しが先へと先へとすべるのです。私の考えが、声に出すより先に漏れ聞こえているみたいです…。お父さんと同じみたい…」

 サイカーラクラは、とまどい、一度は飲み込んだ言葉を、結局は、口にした。

「ジルフーコは、もう、人間ではないのですね?」

「まあ、そうだけど」

 ボゥシューは軽い感じで答えた。声は少し震えていたかもしれない。

「誰もそんなこと、気にしない。ジルフーコもだ」

 サイカーラクラは、微笑もうとして失敗した。泣きそうな顔になった。

「私の時もそうでした。誰も気にしなかったけど、私だけ気にしてました。気にしなければ良いのでしょうが…」

「ジルフーコが励起子体(パウフラニア)になったのは、タケルヒノのためでも、サイカーラクラのためでもない」

 え? と、顔を上げたサイカーラクラは、ボゥシューの目をのぞき込んだ。ボゥシューは、その眼差しを受け止めた。

「ジルフーコが言ってた、と、タケルヒノが言ってた」

「そうですか」

 サイカーラクラの表情から険が取れ、柔和なものに変わった。

「私、少し自惚れても良いでしょうか?」

「そんなこと知らん、ジルフーコに聞け」

 ボゥシューは、前方の操縦席に座るジルフーコの背中を見やった。

「…と言いたいところだが、無理そうだな」

「ですね」

 サイカーラクラは、やっと笑った。

「だな」

 ボゥシューも笑った。

 

 サイカーラクラが席を離れた後。

 ボゥシューはコンソールを切り替えて、デルボラ=ゼルの遠景を映し出す。

 漠然とデルボラ=ゼルの様子を眺めているうち、ふと、得体のしれない不安がボゥシューを襲った。

「ポッドの用意でもしておくか」

 ボゥシューは副操縦席の端を蹴ると、出口の方向へと飛んだ。

「杞憂なら、それでかまわないが、あまり、まともには、おさまりそうにないな」

 


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