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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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デルボラ(10)

 

――では、また後ほど

 一礼すると、デルボラは振り返って、通路の奥へと姿を消した。

 遠ざかるデルボラの後ろ姿を見守っていたタケルヒノは、彼の燕尾のたなびきが、闇へと溶けたのを確認して、暗号回線(スクランブルチャネル)を開いた。

「面白がって、デルボラを挑発しないでくれ」

 タケルヒノはジムドナルドに言った。

「君とデルボラが共倒れ、なんてことになったら、目も当てられない。仕事が増えすぎて、ボゥシューが爆発するぞ」

暗号化(スクランブルド)なんて、意味ないだろ。デルボラには筒抜けだ」

「声を小さくする、っていうのが、最低限のマナーだ。実際に聞こえているかどうかなんてのは関係ない。配慮している、っていう姿勢が大事なんだ」

 はいはい、とジムドナルドは気のない返事をした。

「デルボラだって、そう簡単にはキレたりしないだろ。お前の叔父さんなんかとは、程度が違う」

 それはどうかな、とタケルヒノ。

「家来、っていうのは、主人に似るものだからね。タルトレーフェンにしろ、ルミザウにしろ、はじめこそ礼儀正しく振る舞おうとするが、痛いところをつかれると、すぐに逆上した。器の小ささから、彼らは真似しきれずに、すぐに馬脚を現しただけなんだが、根っこの部分はデルボラも同じだろう」

「まるっきり、無視してたから、覚えてないのかと思ってたぞ」

「無視はしてた」タケルヒノは、その部分だけは認めた「あの場には彼らしかいなかったから、無視しても問題はない。でも、デルボラに対峙するときには彼らのデータは必要だ。だから覚えている。必要なことだから」

「お前、本当に、自分のしたいこと以外は、無駄なことしないよな」

「性分だから、仕方ない」

「鳥が飛ぶように、魚が泳ぐように…、か。まあいい。だが、レウインデとゴーガイヤはどうだ? あいつらは、そんなことしないぞ」

「レウインデとゴーガイヤは、デルボラの別の面の影響を受けている。デルボラだって、会う相手ごとに態度ぐらい変えるさ」

「レウインデは、わかりやすいが、そうか…、ゴーガイヤもか…」

 ジムドナルドは顔を上げ、タケルヒノを見つめた。

「だから、お前、ここまで来たのか?」

「はじまりには、どんなことにも意味がある」

 タケルヒノは言った。

小宇宙船(ダート)に乗ったのが、あの人(丶丶丶)とのはじまりだ。その前にごちゃごちゃあっても、あれが始点だ。デルボラとのはじまりは木星。エウロパにいたのはゴーガイヤで、君と僕とイリナイワノフがいた。さっきまでと、まったく同じ状況だ」

 ふと、タケルヒノは視線を上げた。空間の一点をにらむ。

「これは…」

 真球の極彩色の闇が、小刻みに脈動する。タケルヒノは触れるか触れないかのギリギリまで、指先を伸ばした。闇は反応して、わずかに歪む。

胞障壁(セルレス)だよ」ジムドナルドが笑いながら言う「お前が来る前に、デルボラが造った」

 なおも、タケルヒノは胞障壁(セルレス)を見つめる。極彩色の闇を透かし、何かを探しているようにも見えた。

 どれくらい、そうして、闇の中を探っていたろうか、

 我慢しきれなくなったジムドナルドが、声をかけようとした、その時。

 そうか、とタケルヒノが独り言ち、ジムドナルドを向いた。

「ちょっと、用ができた」

 タケルヒノは、微笑んだ。

「少し、遠出するんだけど、後のこと、頼めるかな?」

 ああ、いいよ、とジムドナルドが言うと、タケルヒノは自分のライフワイヤーを外して、その先端をジムドナルドに差し出す。

「蜘蛛の糸だよ」と、タケルヒノ「迷いの森のパンくずかな。多目的機(マルチロール)につながってる」

 ああ、わかった、と、ジムドナルドが受け取ったのを確認して、タケルヒノは、胞障壁(セルレス)に近づき、右腕を闇に差し入れた。

 左腕も差し込み、何かを確かめるように両腕を動かしていたが、やがて、体をひねって回転させると、ゆっくりと頭から、胞障壁(セルレス)に潜り込んでいく。

 宇宙服のブーツの爪先まで飲み込まれ、すっかり胞障壁(セルレス)に入り込んだ後、ぬっ、と、ヘルメットだけ再び外に出したタケルヒノは、ジムドナルドに言った。

「ボゥシューには、あまり心配しないように言っておいてくれ。すぐには無理そうだけど、ちゃんと帰るよ」

 それだけ言うと、ジムドナルドの返事も待たずに、また、頭を引っ込める。

 部屋には、ジムドナルドと、極彩色の闇を放って揺れる、胞障壁(セルレス)だけが、残った。

 

 部屋の中。

 ジムドナルドは、しばらく闇を見つめていたが、やがて、通路側に向きを変えると、おーい、と呼びながら手を振った。

「よお、ジムドナルド」

 ビルワンジルも応じて、手を振り返した。

「1人か?」

「うーん、まあな。さっきまで、タケルヒノもいたけど」

「タケルヒノは、どこ行った?」

 ビルワンジルの問いに、ジムドナルドは目の前の闇を指して言う。

「これ、胞障壁(セルレス)なんだけどな。デルボラが造ったんだ。タケルヒノは、この中だ」

「デルボラに閉じ込められたのか?」

「いや、自分で入った。ちゃんと帰ってくるから心配するな、と言ってた」

「ほぅ」ビルワンジルは思案げに腕を組んだ「で、どうする?」

「いったん帰ったほうが良さそうだな」ジムドナルドが答えた「タケルヒノが帰るまでには、全員そろえたい」

「と、なると、まず、ヒューリューリーを…、お?」

 ビルワンジルが目を凝らすと、反対側の通路から紐みたいなものが流れてきた。

 2人のそばまで来ると、黙ってジムドナルドの脚に巻き付く。

「あとは、おっさん(丶丶丶丶)か」

 ジムドナルドは、珍しく、ヒューリューリーを脚に巻きつかせたまま、放っておいた。

「置いていってもいいが、それはそれで面倒のもと(丶丶)だな、回収しに行こう」

 スラスターを起動して進みだしたジムドナルドに、ビルワンジルも並行してついた。



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