表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/251

デルボラ(9)

 

「ティムナーの件は、結果が出るには、まだ時間がかかりそうですね」

「あれこそ、やっても、やらなくても、大差ないと思いましたが」

「でも、やりましたよね」

 タケルヒノの言い訳めいた口調に、責めるつもりはなくとも、ついついデルボラは口を出してしまう。

「環境負荷についてはね。確かに何とかしたほうが良いけれど。エネルギーを消費しない、もしくは他のエネルギーで代替するという方法があるわけで、理由のひとつにはなっても、主因になるようなもんじゃ、ありません」

「宇宙船を壊す。あるいは、そこまでしなくても、レーザーを止めるだけで良かったのに、そうしなかった理由は?」

「一度アクセルを踏んでしまったら、戻したり、ましてや、ブレーキを踏むのは、とても危険です。自分でやったのでなく、他からのちょっかいでそうなったのなら、なおさらそうです」

 ああ、と、デルボラは、気まずそうな顔をした。

「暴走、とまでは言いませんが、ルミザウも、もう少し考えてやってくれれば、とは思っていました」

「あんたの処の光子体(リーニア)は」ジムドナルドが横から口をはさむ「いろいろとアレなのが多いな。何故だ?」

「何故と言われても」デルボラは首をすくめてみせた「光子体(リーニア)嫌いのわたしの所に来るくらいですから、まともな神経ではないでしょう」

「レウインデも、そう言ってたよ」

「レウインデ? ああ、彼ならそう言うでしょうね」

 デルボラは、再び、タケルヒノを向き、意味ありげな口調で言った。

「ティムナーのエネルギー消費に制限をかけたというのは、ウソですね?」

「まるっきりのウソではありませんよ」タケルヒノは不満気だ「全消費の20パーセントというのはウソですが、発展阻害が生じるようなエネルギー消費には制限をかけてあります」

「何故、20パーセントなどと言ったのです?」

「そうでも言わないと、ラクトゥーナルが煩くてかないません」

「ああ、ラクトゥーナル、ね」

 その名前を聞いて、デルボラもようやく納得したようだった。

「ようするに、滅亡に突き進む大過剰のエネルギー消費以外は、文化技術レベルにエネルギー消費は関係ないと?」

「エネルギー消費の全量、というか、平均値にも最頻値にも意味はありません。限界突破に必要なのは、個人というか、突破小集団にどれだけエネルギーを偏在させることができるかです」

「選択と集中ですか?」

「いいえ、情熱と暴挙です」

 なるほど、とデルボラは言った。

「もともと、普通の人間など、いくら増えたところで、何も変わらないわけですからね」

「ティムナーについては、重要なのは、エネルギー量ではなくて、投下され続けるエネルギー伝送装置の方です。あれを分解して中身を解析できるようになるかどうか、それが、ティムナーの今後を決めるでしょう」

「そう、問題はそこです」デルボラも同意した「ルミザウには、それがわからなかった。エネルギーだけを問題にして、その基盤技術を解放することを拒んだ。ああいうのは、どうかと思うのだが…」

「いや、俺には、よくわかるぞ」ジムドナルドは、したり顔で言った「ルミザウが、何故、ああいう方法を取ったのか」

 自分に向けられた2人の顔を、満足そうに眺めながら、ジムドナルドが続けた。

「デルボラ、あんたも、タケルヒノも、あと、ジルフーコもか、次元変換駆動の仕組みをよくわかってるから、そういうことが言えるんだ。ルミザウにはそれがわからない。魔法の技術で、結果だけを受け取った。そしてそれをティムナーに持ち込んだんだ。自分でわからないことを、ティムナーの人間に理解されるのが嫌だったルミザウは、ああいう方法をとるしかなかった。それだけ。それだけのことだ」

 

 ひとしきり、ティムナーについて語り合った後、デルボラは、ハリューダンのことを切り出した。

「海が欲しかったそうですね」

「まあ、そうです」

 タケルヒノは、はにかみながら答えた。

「それが、君の夢ですか?」

「夢?」

「たとえば、海のない惑星に海を作ること」

 デルボラは、そこだけ何故か、歌うように言った。

「君が他の胞宇宙(セルベル)でしてきたことと、ハリューダンだけが、違う。だから、あれが、君の夢なのかと思いました」

「夢ってわけでは、ないです」タケルヒノは言った「夢なら他にありますし」

「あるんですか?」デルボラが身を乗り出して尋ねてきた「どんな夢です?」

「そんな大それたものじゃないんです」タケルヒノは遠慮がちだが、はっきりとした口調で答えた「いまはいろいろ忙しいですけど、落ち着いたら、素敵な女性と結婚して、家庭を持って、子供と家族と、それに気心の知れた友だちと、仲良く暮らすんです」

 デルボラは絶句し、それから、大きく嘆息した。

「途方もない夢ですねぇ」デルボラは、少し気の毒そうな目で、タケルヒノを見つめた「君のような人にとって、それは、とても難しいことですよ」

「自覚はあります」

 そう、そうですね、デルボラは、思い直したように言葉を続けた。

「とても、困難だとは思いますが、逆に言ったら、君になら、できるのかもしれません」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ