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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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原点回帰(3)

 

 デニム地のパンツに皮ジャケット、レイバン越しに見る、ショーウィンドウに移った自分の姿を見ながらリーゼントをなでつける。

 ジムドナルドが美形だから、それなりには見えるが、本気でこんなコーディネイトをクールだと思っているなら、かなりセンスに問題がある。

 スーパーマーケットの山積みのトマトの前でジムドナルドは足を止めた。ト、マ、ト、と書いてある値札の字を確認して、ひとつ手に取ったジムドナルドは、かぶりつくと、へんてこな顔をした。

「これはトマトか?」

 聞かれた店員は、もっとへんてこな顔をして答えた。

「トマトだよ」

「そうか」ジムドナルドはかじりかけのトマトを買い物カゴに入れた「俺の知ってるトマトと違うな。まあ、これも悪くないが、トマト、ってのはもっと小さくて緑で、すっぱいんだ」

 

 ジムドナルドは物心ついてからの大部分をマンハッタンで過ごした。親元を離れて6歳から州立大学に通うようになったのが理由だ。そしてそれは、ロックフェラーセンターを中心に、彼の実験(丶丶)が進められた、大きな原因のひとつだった。

 そのマンハッタンを、ジムドナルドは、どこに行くでもなくフラついている。目的がないわけではない。彼はゆったりと逃げていた。自身の身をさらしつつ、追跡者の包囲の網がせばまる前に、するりとかわす。

 それは、さほど困難な仕事ではなかった。

――やつら、独特の顔してるからなぁ。

 ジムドナルドに言わせると、POTAの連中は、そろいもそろって、心に穴があいている顔、なのだそうだ。

 無論、末端の信者などは、そもそもジムドナルドが何者かすら知らないわけで。ただ命じられたままに彼を捜しているだけだろう。

 ハンバーガーショップでコーラを飲んでいると、それらしいのがふたつ後ろの席にいる。

 ジムドナルドは余裕で3分の2コーラを飲み残し、トイレに行くフリをして店の外に出た。

 あの男はどうしているだろうか。数ヶ月の間、行方不明だったジムドナルドが、突然現れて、マンハッタン界隈をうろついているのだ。むこうはジムドナルドの都合など知らないだろうし、噂を確かめようと信者たちを放っても、いいようにあしらわれ、ジムドナルドの影しか見えない。

――もうすこし、遊んでみるか

 ジムドナルドは、この鬼ごっこが、ずいぶん、気に入ったようだ。

 

「うん、まあまあだな」

 仕立てあがったスーツをはおり、ジムドナルドは姿見の前でポーズをとった。

 ぴったりというわけにはいかなかった。スーツの下にラバースーツを着込んでいるので、本来のジムドナルドの体型より二まわり大きい。地球に帰ってきて、すぐに注文したスーツだ。

――ジルフーコが、うるさいんだよな。

 安全のためにもラバースーツは着ておけ、というのがジルフーコの忠告だった。ラフな格好ならラバースーツの上に重ね着しても、それなりには見える。しかし、スーツの場合はそうもいかない。

 これで、いちおうの準備は整った。アイツとも長い付き合いだし、それなりの格好でないと失礼だろう、というジムドナルドなりの気配りだった。

 店を出て、マジソン・スクエア・ガーデン方面へと向かう。本当はどこでもいい。ジムドナルドは、さりげなく周囲をさぐった。いるいる、三人、むこうも本気だな。

 ショーウインドに映して、三人の追跡者の様子をうかがう。もうジムドナルドは逃げたりしない。

 前方の角を左から曲がってきた男がいる。

 ジムドナルドは意にかけずに、まっすぐ進んだ。

 むこうもまっすぐ近寄ってくる。ジムドナルドの鼻先で両者は止まった。後ろの三人のうち二人がジムドナルドの左右につく。

 「汎生体信託統治会(POTA)のものです」正面の男が言った「我々の御導父様があなたに会いたいと…」

 「ああ、知ってる」ジムドナルドは途中で男の言葉をさえぎった「アイツとは古い付き合いなんだ。まだ、GEビルディングにいるんだろ?」

 じゃ、行こうか、と歩き出すジムドナルドに、あわてて道を譲り、四人は付き従うようにジムドナルドの後ろに並んだ。

 歩きながら、ジムドナルドは夜空を見上げた。もう俺たちの宇宙船(ふね)は見えない。

「よし、決着をつけよう」

 ジムドナルドは、そう呟いた。

 

 

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