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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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デルボラ(2)

 

  デルボラ=ゼルに近づくと、タケルヒノは多目的機(マルチロール)の管制を相手側に渡した。

「だいじょうぶなのか?」

 笑いながら、ジムドナルドが尋ねる。

「さあ?」とタケルヒノは、とぼけて見せた「このほうが、こっちは楽だしね。あまり色々考えるとキリがないし」

 操縦席を離れ、後部座席のジムドナルドの隣りに腰掛けたタケルヒノに、すす、とヒューリューリーが近寄ってきた。

「デルボラ、って、どんな人ですか?」

「どんな人って言われてもねぇ」ヘルメットの中でタケルヒノが困った顔をしている「銀色の髪の人ですけど…」

 はっ、としたミウラヒノが振り向いたが、タケルヒノは気づかないふりで、ヒューリューリーに向かって話し続ける。

「もう、重中性子体(レビフォノア)だから、髪の色はわからないでしょうけどね。わりと生真面目な人なんじゃないかと、僕は思うんですよ」

 ヒューリューリーは、今度は慎重に操作盤を叩いた。

「サイユルの遺伝子に手を加えたのは、彼だと思いますか?」

「さあ、どうでしょう?」

 タケルヒノは言った。

「もうすぐ、会えるから、直接聞いたほうが良いと思いますよ。そのほうが彼も喜ぶでしょう」

 

 デルボラ=ゼルの壁面に、長方形に誘導灯がともる。

 誘導灯に近い部分は辛うじて細部の造作が確認できる程度だが、灯りの切れる領界から先は、闇へと溶ける。はるか遠方に見える中性子星の淡い明滅では、デルボラ=ゼルの影すら浮かび上がらせることはできず、その全容を把握するのは、とても難しい。

 誘導灯に囲まれた部分が開き、内部から光が漏れだした。

「あんなの詳細設計図にはなかったなあ」

 今度もまた、ジムドナルドが笑う。

「もともと、デルボラ=ゼルには必要ないものだしね」聞かれたわけでもないのに、タケルヒノが答える「普段は光子体(リーニア)しか来ないんだから、急に造ったんだろ」

「ずいぶん、デルボラの肩持つじゃないか、信用してんのか?」

「信用してたら、全員で来てるよ」

 それを聞いて、ジムドナルドは、もう一度、笑った。

 

 多目的機(マルチロール)が、引き込まれるように、デルボラ=ゼルに侵入すると、後部でゲートがゆっくりと閉じられた。

 ドックとの相対速度が完全にゼロになったところで、タケルヒノが上部ハッチを開けて、外に出た。他の4人も続く。

 ドックから続く通路は一本道で、そこだけ照明がついている。タケルヒノは迷わずスラスターを駆動して、道なりに進んでいく。

 しばらく行くと、前後左右と上下に、通路が分かれている。

 どの通路も、煌々と、明るすぎるほどの照明に、奥をのぞけば、つきあたりの曲がり角まではっきり見える。

 タケルヒノは他の4人を待った。

 すぐに、皆、集まって、状況を確認する。

「さて、どうするかな」

 6叉路を見て、ミウラヒノが言った時、

 不意に視界がぼやけだした。

 いや違う。

 白い煙のようなものが立ち込めて、辺り一帯を埋め尽くす。

 ビルワンジルは、何かの力で、自分が引っ張られるのを感じた。

 スラスターを効かして抗おうとするが、うまくいかない。

 ビルワンジルは背に負った槍の1本に手をかける。

「流されてるみたいですね」

「ああ、こっちもだ」

 タケルヒノとジムドナルドの声がヘルメット内にこだまする。

 さて、

 この声が、本物だという確証も無いわけだが…、

「オレもだよ」

 ビルワンジルは言ってみた。

 周りはあいかわらず、モヤのような煙のような、白濁したままで通路の壁すらも見えない。

「何も見えないな」

 ミウラヒノの声だった。

 ややあって、

「そうさば、みえない、うちにく」

 と、ヒューリューリーの(こえ)が聞こえた。

「落ち着いたら、合流しましょう」

 タケルヒノの声に、わかった、と3人同時の返事があって、

 それから遅れて、

「わかた」

 と、ヒューリューリーの声。

 そこから、急に、引き付ける力が強まって…

 

 気がつくと、ビルワンジルの周囲のモヤは消えていた。

 照明も消えた。

 どれぐらい闇の中を流されたろうか。

 ビルワンジルの体を引っ張る力が弱まり、

 逆方向に制動がかかった。

 真っ暗な空間の中。

 やがて、周囲に、

 輝点が、ぽつ、ぽつ、ぽつ、と揺らめいた。

 照明が完全に点くと、そこは球型の部屋。

 中央にいるビルワンジルに、前方から近づく影があった。

 ゆっくりと近づいてくる人影は、タキシードを着ていた。

 間違いなく、地球で見たことのあるタキシードで、全球から回り込む光に、艶やかな質感が映える。

 人影は、直立のまま、手も足も微動だにせぬまま、空間を飛翔する。

 風というか、大気もないのに、青白く光る、長い髪がたなびいている。

 光っているのは、髪だけではない。

 顔も、両の手も、服からはみ出ている部分は、すべて、仄白く輝いていた。

 何か得体のしれない力で押し出されるように、ゆっくり近づく彼は(丶丶)

 ビルワンジルの前で、ぴたり、と止まる。

「あんたが、デルボラかい?」

 ビルワンジルの問いに、はい、そうです、と、はにかむように彼は肯いた。

「ようこそ、ビルワンジル、君に会えて、とてもうれしいです」

 

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