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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ファライトライメン(16)

 

 無重量区画、管 制 室オペレーティングルーム

 宇宙服を着込んで、皆が集まる。もう儀式のような感じだが、誰もが自然とそう振舞う。

 ミウラヒノだけが、どうにも落ち着かない。

 傍らにサイカーラクラがやってきた。

「大丈夫ですか? お父さん」

「ああ、大丈夫だ。もう慣れてるから」

 ミウラヒノは言ったが、励起子体(パウフラニア)では初めての胞障壁(セルレス)だ。光子体(リーニア)の時とは、ずいぶん勝手が違う。

「わたしはいいから、好きな場所にいていいよ」

 サイカーラクラは素直なので、はい、と操縦席のほうに行ってしまった。しくじった、と思ったものの、いまさら、側に居てくれとも言いにくい。

「やせ我慢すんなよな、おっさん」

 まるで見透かしたように声をかけてきたジムドナルドに、ぎょっ、とする。

 ああ、と、ミウラヒノは、心の底からわき起こる可笑しさに、こらえきれずに声を上げそうになった。

 いままでなら、

 こうした場面では、常にミウラヒノが同伴者に気を配っていたのだ。

 いまは逆だ。

 宇宙船(ボード)に来てから、ずっと、感じていた心地よさの正体だった。

――わたしは、もう、第一光子体(ピスリーニア)ではない。

 それが、本当のミウラヒノの望みだったかどうかは、定かではない。

 しかし、彼の肩から滑り落ちた、義務という名の重い鎧には、もはや何の郷愁を抱くこともなかった。

 

 全面の壁スクリーンは、異常な輝度で発光していた。

 模様も、色も、何もない。

 ただ、目もくらむばかりの強い光の奔流があるだけ。

「この胞障壁(セルレス)は、また、凄いな」

 ジムドナルドの呟きをひろって、ミウラヒノが問いかける。

胞障壁(セルレス)に違いがあるのか?」

「違いがある、って言うか、全部違うだろ」

 あらゆる方向からの光で、ほりの深いジムドナルドの顔から、すべての影が消えている。

「超えるのに夢中で、周りが良く見えてなかった」

「そこが、よくわからないんだが」

 と、ジムドナルドが言う。

「この光景が目を引かない、とか、そんなことあるのか?」

 ミウラヒノは答えなかった。あるいは、答えられなかったのかもしれない。

「まあ、こんなの序の口だけどな」

「何だって?」

「序の口だよ、見ろ」

 ジムドナルドは操縦席を指差した。

「まだ、ジルフーコが操縦してる」

「だから、序の口か?」

「そうだ、あそこにタケルヒノが座ってからが、本当の胞障壁(セルレス)だ」

 

「怖い、ね」

 周囲を包む、ぶ厚い光に、つぶされそうに、イリナイワノフが、呟く。

「ああ、怖い、な」

「嘘」

 ビルワンジルが応じた言葉を、イリナイワノフが即座に消した。

「ああ、嘘だよ」

 ビルワンジルは、とくに誤魔化すことをしなかった。

「ビルワンジルは、怖い、と思ったことあるの?」

「ある…、ハズだ」

「ハズ?」

「…あまり良く覚えてない」

「そう」

 圧倒的な光が、何もかもを消していく。

――ああ

 恐怖が恐怖で押し流されるのを、イリナイワノフは、この時、初めて知った。

 

「調子はどうだ?」

「まあまあでしょう」

 ボゥシューに問いかけられて、ヒューリューリーは頭部の操作盤を開いて応じる。

「もう、拙者、とか言うのはやめたのか?」

「ファライトライメンを離れましたからね」

「ファライトライメン限定なのか?」

「そのとおりです」

 壁スクリーンを通して、外を見ているのならば、この明るさは有り得ない。

 周囲で飽和する光の輝度は、すでにスクリーンの最大輝度を超えていることを、ボゥシューは知っている。

 あり得べからぬ強度の光が、あらゆる隙間を埋めつくしている。

「何か見えるか? ヒューリューリー」

「何もかもが、見えますよ」

 そう答えたのは、ヒューリューリーではないハズだ。

 始まった。

 そう感じたのも、ボゥシュー、ではない。

 何もかもが違う胞障壁(セルレス)は、

 そしてまた、いつもとまったく同じ胞障壁(セルレス)

 

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