表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/251

ファライトライメン(15)

ファライトライメン(15)

 

「叔父さん」とタケルヒノは言った「今日は少し実務的な話しをしたいと思うんですが」

 意味のない薄ら笑いを浮かべていたミウラヒノが、いきなり身を翻して廊下へ出て行こうとする。

「こら、待て」

 当然、その行動を予期していたタケルヒノが、首根っこをひっつかんで押さえつける。ミウラヒノはもがくが、タケルヒノはそのまま力まかせにソファに投げ込んだ。

「俺のソファなんだが」

 ジムドナルドは明らかに不満げな顔をしてみせる。それにしても、ほんとに逃げやがった。なんていう親父だ。ジムドナルドは心の中で舌を巻いた。

「ああ、すまん、ちょっと貸してくれ」

 ジムドナルドにことわってから、タケルヒノは、横を向いてふて腐れているミウラヒノに言った。

「そんな顔したってダメです。言うことは聞いてもらいますからね」

「わたしは話すことなんかない」

「こっちにあるんです。ファライトライメンを囲む胞障壁(セルレス)に、何かしてますね?」

「うん」

 タケルヒノの詰問が、あまりにも、そのものズバリだったので、ミウラヒノは、思わず肯いてしまった。

「何をしてるんです?」

胞障壁(セルレス)を変調して、デルボラの干渉波を軽減している」

「止めてください」

「しかし、お前、アレは…」

「止めてください。胞障壁(セルレス)を超えるのに邪魔になります。だいたい、アレは無限大エネルギーの使用が必須なのだから、あなたの主義主張にも反してるんじゃないですか?」

「あんなもの、あってもなくても、お前が胞障壁(セルレス)超えるのに支障はないだろ。現に、ここにこうして居るんだから」

「僕以外には、極めて邪魔です」

 ミウラヒノは、がっくりとソファに身をゆだねると嘆息した。

 それから、立ち上がって、いちばん近いコンソールに着くと、操作を始める。

 最後に、たん、と軽やかにコンソールを叩いたミウラヒノは、椅子をくるりと回して、タケルヒノのほうを向いた。

「あとは何だ?」

「ラクトゥーナルがあなたをずっと追跡している。やめるように言ってください」

「言ったって、聞きゃしないだろ」

「それでもいいです。あとはラクトゥーナルの判断だから。言ってください」

 ぐるん、と、椅子を返して、ミウラヒノはコンソールに向き直った。

「やあ、ラクトゥーナル」

 ミウラヒノはコンソールに語りかけた。

「いままで、ありがとう。ちょっと出かけてくる。あとは頼む」

 ミウラヒノはコンソールの電源を切った。

「これでいいか?」

 振り向いて問うミウラヒノに、タケルヒノは言った。

「6時間後にデルボラに向けて出発します。もし、希望があれば、多少の順延は可能です」

「何もないよ」

 ミウラヒノが答えた。

「みんなで、デルボラに行こう」

 

「いいのか? おっさん。胞障壁(セルレス)の変調止めたりして」

 ソファに座りなおしたジムドナルドが尋ねた。

「別にかまわんさ、わたし以外で、胞障壁(セルレス)を変調してるのを知ってるのは、デルボラぐらいだ」

「それがライザケアルの光子体(リーニア)生存率が低い理由、というより、ファライトライメンが底上げしてるだけだが」ジムドナルドは妙に優しげな口調で問いかけた「何故、内緒にする?」

「デルボラの干渉波は、別にわざとやってるわけじゃない」ミウラヒノは、ソファ、ジムドナルドの隣りに腰掛けた「重中性子体(レビフォノア)が活動すれば自然と出てくるものだ。重中性子体(レビフォノア)光子体(リーニア)は共存できない。それが知れれば、デルボラに対する光子体(リーニア)の風評はますます悪くなる」

「別にすべての光子体(リーニア)が、重中性子体(レビフォノア)に負けちまうわけじゃないだろ。現に少し前まで、あんたも光子体(リーニア)だった」

「そう、そして、今は違う」

 ミウラヒノは笑った。乾いた笑いだった。

「もちろん、これはもっと内緒の話しだ。わたしは、公式には第一光子体(ピスリーニア)のままだ」

「ただ不死身になれるというだけで、光子体(リーニア)になったようなヤツには、なかなか辛いところだな」

知の集う所(ファライト)ライメンは、確かに、光子体(リーニア)が存在しなければ、これほどの発展は望めなかった」

 ミウラヒノは言った。

 ただ、ジムドナルドに言わせれば、それは誇張に過ぎる。ファライトライメンが必要だったものは、光子体(リーニア)全部ではない。

 最初の光子体(ピスリーニア)だけが必要だったのだ。あとはオマケみたいなものだ。

「ファライトライメン以外で、胞障壁(セルレス)変調したら、さすがにバレるか」

 ジムドナルドが、とぼけた口調で言った。

「まあな」ミウラヒノは苦笑した「ファライトライメン内では、禁止はしたが、次元転換による無限大のエネルギーも、そこここで使われてる。バレないと思ってるようだが、そんな甘いものでもない。使い方を誤れば大惨事だが、小銭を稼ぐ程度で、満足しているようだから、放っておいてる」

「胴元がイカサマしてんだから、しかたないだろ?」

「だからこそ、胞障壁(セルレス)変調しても誤魔化せる、ってことだ。でも、もう必要ない」

 ミウラヒノは立ち上がった。

「デルボラに会いに行くから、もう、いいのか?」

 ジムドナルドはソファに座ったまま、ミウラヒノに聞いた。

「そうだよ」

 ミウラヒノは答えた。

「わたしは光子体(リーニア)を甘やかしすぎる、とデルボラはいつも言っていた。もちろん、デルボラの立場としては、その通りだな」

「あんたの立場は?」

「デルボラと大差ないよ」

 ミウラヒノは振り向きもせずに答え、そしてそのまま、廊下へと出て行った。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ