表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

182/251

ファライトライメン(14)

 

「サイカーラクラの調子は良さそう?」

 聞かれたジルフーコは、顔を上げてタケルヒノを見た。

「ボクより、ボゥシューに聞いたほうがいいんじゃない?」

「もちろん、ボゥシューにも聞くけどさ」タケルヒノは言う「体調のほうじゃなくて、そうだな…、彼女のカンは戻りそうかい?」

「使い物になるか、ってこと?」

「まあ、そうなるかな」

「いくら励起子体(パウフラニア)が対重中性子体(レビフォノア)情報体(リーンファノア)だって言っても、相手が宇宙皇帝じゃね。光子体(リーニア)よりは多少マシ、っていう程度だから、たとえサイカーラクラが万全でも難しいだろ」

「そこまでは、求めてない。宇宙皇帝と同じ胞宇宙(セルベル)にいても揺るがないか(丶丶丶丶丶丶)ってこと」

「ああ、それなら、問題ない。なにかあっても、ボクがなんとかするよ」

「それを聞いて安心した」

 タケルヒノはそう言ったものの、ジルフーコに向ける眼差しは厳しく、じっと顔の真ん中を見つめていた。

「メガネ変えたんだね」

 ジルフーコは笑った。

「前のメガネは、必要なくなった(丶丶丶丶丶丶丶)からね。でも、見た目が急に変わったら、みんな心配するかと思って」

 ジルフーコの笑いにタケルヒノは応えず、やや哀しげな面持ちで、言った。

「君の選択は、たぶん間違っていない、と思うけど。その、なんというか、いろいろ、すまない」

「そんな顔するなよ」

 ジルフーコは照れ隠しのように笑った。

「君のため、ってわけじゃないし、サイカーラクラのためでもない、強いていうなら、ボクのためだよ。なんとなくね。なってみたいと思ったのさ」

 

「ジルフーコのこと、知ってた?」

 実験室に来たタケルヒノは、ボゥシューにそう尋ねた。

「まあ…」とボゥシューは言葉尻をにごした「…精母細胞を保存してくれ、って頼まれたから、バックアップが必要な何かをするんだとは思った…」

 ボゥシューは、顔を上げ、タケルヒノの目に視線を合わすと、言った。

「止めておいたほうが、よかった、かな?」

 タケルヒノは、いや、と首を振った。

「以前のジルフーコなら、そうする前に、君に細胞を預けるような真似はしなかったろう。駄目になったら、それまで、っていうのが彼の信条だったから。むしろ予備を持とうとする、心境の変化があって、ほっとしてる」

「サイカーラクラのためだろう」

 ボゥシューが言って、タケルヒノも肯いた。

「そうだね。わざわざ、本人が、サイカーラクラのためじゃない、って言ってたから間違いない」

「そうか」

 ジルフーコらしいな、と思って、ボゥシューはほんの少し笑った。

「あと、僕のため、ってのもあるらしい」

 え? とボゥシューが視線を戻す。

「ジルフーコが言ったんだよ」タケルヒノは笑った「僕のためでも、サイカーラクラのためでもない、って。だから…、きっと、僕のためだ」

「ジルフーコらしいな」

 ボゥシューは、今度は、声に出して言った。

 

「ジルフーコ(うじ)、サムライ―カンツォーネ、面白かったでござろう」

 廊下ですれ違ったヒューリューリーは、ジルフーコを呼び止めた。

「ああ、面白かったよ。教えてくれてありがとう」ジルフーコは答えた「ちょっと、その、想像してたのとは違ったけどね」

「武士道は花見でかっぽれ、でござるからな」

「え? 武士道は死ぬことと見つけたり、じゃないの?」

「そうではござらぬ」

 ヒューリューリーの体が一閃し、ひょぉ、と風が鳴った。

「死んだら花見が咲かない、でござる。花見でかっぽれ、甘茶でかっぽれ、生きていてこその、武士道でござる」

「へぇ、初耳だなあ」

「初耳ではござらぬ、花見でござる。武士道とは花見でかっぽれ」

 ヒューリューリーは、花見でかっぽれ、甘茶でかっぽれ、と体を振り振り行ってしまった。

 ジルフーコは、クスリ、と笑って、ヒューリューリーを見送った。

 

 ずっと後になって。

 甘茶、って何なのか聞いてみたほうが良かったな、とジルフーコは思った。自分で調べてみても、そういう名の植物で、干してお茶にすると甘い、ということしかわからなかった。 花見は、どうやら花実らしいのはわかった。でも、探しても、花見でかっぽれ、はあっても、花実でかっぽれ、は、ない。花見でいいのかもしれなかった。

 武士道との関係は、もちろん、わからない。

 いつか、聞こう、と思っているうちに、ジルフーコも忘れてしまった。思い出したいま(丶丶)も、そのことは後悔している。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ