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ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

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原点回帰(2)

 

 夕食に現れたボゥシューは、ラバースーツを着込み、ヘルメットを小脇に抱えていた。それだけで家人には、今日が最後の日であることが知れた。

 皆、努めて、普段どおりに過ごそうとはしたが、それは無理な話だった。ママはやはり途中から泣いていた。

 食事が終わり、もう話す言葉もつきた頃、ボゥシューは立ち上がってヘルメットを身に着けた。

「こんどは、すこし、長くなるから」門の手前でボゥシューは言った。

 元気でね、かけられた言葉に、手をあげ答えたボゥシューは、ペンダントのボタンを押して、闇の中に駆け出した。

 

 ボゥシューは我が家が見えなくなるまで走った。

 そして、ピタリと止まった。

 どうする? もうやることはない。ボタンは押してしまったし。

 どれくらいで迎えに来るのか、聞いておけばよかったな。

 不意に黒のセダン2台が、ボゥシューの隣につける。

 ばらばらと、車から出た男たちがボゥシューを囲む。

――またか。

 しかも、前回より手際が悪い。

 ひとりが後ろから組み付いて、スタンガンを当ててきた。それもラバースーツの上から。ありえない。

 逆にスーツ表面に電流を流してやった。襲撃者は驚いてふっとぶ。

 ボウシューはヘルメットのフェースガードを閉めた、サイカーラクラ流だ。うん、まわりビビってる。

 残りの奴らがアイコンタクトをとって、一斉に飛びかかる。

 ラバースーツとヘルメットが激光を放った。ただのフラッシュだが、攻撃者はたちまち腰を抜かし、両手で顔を覆ってその場にへなへなとへたり込む。

 たかが目眩ましに、戦意を完全喪失した誘拐犯の横を通りぬけ、なんと、ボゥシューはセダンの一台に乗り込んだ。どっかと後部座席に腰を下ろす。

――せっかく、感動の余韻に浸ってたのに、だいなしにしやがって。

 ボゥシューは、運転手の座席を後ろから思いっきり蹴りあげた。

「さっさと車出せ、オマエの雇い主のとこに行くぞ」

 運転手は震えて動けない。

「車動かせよ、オマエ。金もらってるぶんくらい仕事しろ」

 ものすごいスリップ音を響かせて、車は弾かれたように飛び出した。

 

「は、はっは、手荒なまねをして、その…、すまなかったね」

 ボゥシューはソファにふんぞり返って、相手を睨みつけている。フェースガードを閉じたままなので、相手にはボゥシューの表情は読み取れない。

 相手の男は落ち着きなく、ボゥシューの前を行ったり来たりしている。

 誘拐計画が失敗したのに、お目当ての人間が目の前にいるのだから、もうすこし喜んでもよさそうなものだが、手下の話を聞いてさすがに怖気づいたのだろう。

「いや、これは、アナタにとっても良い話だと思うんだ、そう…、アナタは技術を持っているし、私は金、かなりの、そう、ものすごい額の資金援助ができる」

 年齢不詳の男、のっぺりした顔つきは、たぶん何度もシワの除去をしている。うっすらとまだらに色の変わっている皮膚は、シミぬきも失敗した証拠だ。

 研究室をよく訪れるタイプの男だった。ボゥシューはテロメアの研究もしていたから、単細胞の分裂限界制御と多細胞生物の老化防止を勘違いした輩がやってくるのだ。資金援助はけっこうだが、たぶん父さんの自由にできる金の百分の一以下だ。

「要するに」ボゥシューはあくび混じりに言った「若返りたいのか?」

「そ、そうだ」男の目が怪しく光った「できるのか?」

「できるよ」ボゥシューはウソをついた。

「ほんとか?」

「でも、やらない」これはホント。

「なんだと?」

 男は立場も忘れて激昂した。口の端に泡を飛ばして悪罵をあびせてくる。さんざんしゃべらせておいてから、ボゥシューは相手にむかって言い放った。

「これから宇宙に帰るんだ。そんなくだらないことにつきあってるヒマはない」

「宇宙だと?」男は腕をめちゃくちゃに振り回して叫んだ「何を言ってるんだ。キチガイめ」

「それはこっちのセリフだ」立ち上がったボゥシューは自分自身を指さす「宇宙服を着てる人間が、宇宙以外のどこに行くんだ? バカめ」

 男は、いまさらのようにボゥシューを見つめ、あんぐり口を開けた。

 ドアの向こうが騒がしい。罵声と叫び声と物のぶつかる音、それは部屋の前まで近づいてきて…

 部屋のドアを蹴破って、男が一人現れた、手には長い木の棒を持っている。

テンチュウッ(天誅)

 言うなり、男は棒を一閃、ボゥシューの前で呆けていた男を打ち倒した。

「大丈夫ですか? お嬢さん?」

 日本語なまりの英語だ。ボゥシューは、ぱちん、とフェースガードを開いた。

「アナタ、誰?」

「申し遅れました、エイオークニです」

 エイオークニは深々とお辞儀をした。それから、顔を上げると木の棒を持ち替え、右手を差し出した。

「ボゥシュー、です」

 ボウシューは目の前の手にそろそろと応じた。エイオークニは力強く握り返す。

「私はタケルヒノの友達です」エイオークニはとびっきりの笑顔で答えた「ボゥシュー、あなたに会えて、とてもうれしい」


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