ファライトライメン(10)
「第一光子体が来てるって本当ですか?」
「あ、ああ、まあ、来てるけど…」
ボゥシューは口ごもった。リーボゥディルの質問の意図がよくわからなかったのだ。
「どんな人ですか?」
「まあ、普通のおじさんだな。いまは励起子体だが」
「励起子体?」
「サイカーラクラと同じだよ。いろいろ訳ありらしい」
「へぇ…」
リーボゥディルは、ずいぶん興味があるらしい。
「ママが、会っちゃダメだ、って言うんですけど…」
リーボゥディルは、第一光子体の情報を基に推定した遺伝情報で生まれた。構成したのはリーボゥディルの母親だ。
「うさん臭い親父だからなぁ」ボゥシューのこれは本音である「オマエのママが会わせたくないのもわかるよ」
「そうですか」
リーボゥディルは不満げだ。
どうせ、会うな、と言っても、言うことなど聞かないだろうし、あまり興味を抱かせると逆効果だろう。ボゥシューはまるで興味の無いフリをした。
「第一光子体が、どこにいるか知ってます?」
リーボゥディルはヒューリューリーに尋ねた。もう光子体じゃないのに、第一光子体というのも変だとは思ったが、指し当たって、他に言いようが無い。
「おお、タケルヒノの叔父上でござるな」と、ヒューリューリー「さっき農 場でお見かけ申した」
「叔父さん? 第一光子体は地球人だったんですか?」
「違うでござる。血縁はござらぬ模様」
「義理の叔父さんですか?」
「いや、ミウラヒノ殿が勝手に叔父だと言ってるらしいでござる」
「…よくわかりません」
「拙者もわからぬでござる」
ヒューリューリーが変なのは、いまに始まったことではないので、リーボゥディルは気にも止めなかったが、第一光子体、ミウラヒノも、かなりおかしな人らしい。伝説級の人であるから、そんなものなのかもしれないが…
そういえば、と、リーボゥディルはあらためて思った。この宇宙船で変じゃない人っていなかったな。
シールドがあるので壁を突っ切るわけにはいかない。ドアを抜けて、リーボゥディルは、農 場に入る。
いつもビルワンジルがいるあたりかな、と、飛んでいくと、やけにゴツイ光子体がいる。
ゴーガイヤだ。
ビルワンジルとイリナイワノフもいる。
何か談笑しているようだが、もう1人、見たことの無い人物がいた。
青い頭をしている。
こんにちは、と、リーボゥディルは挨拶した。
「やあ、こんにちは、君のご両親には、いつも世話に…」
そこまで言って、青髪頭は、はっとした顔つきになった。
「…あ、いや、ゴメン、別の子と勘違いしたみたいだ。…えっ、と、君の名は」
「リーボゥディルです」
「はじめまして、リーボゥディル、わたしは、ミウラヒノ」
「第一光子体だった人ですよね。いまは励起子体」
「よく知ってるね」
「ボゥシューに聞きました。ボクの先生です」
なるほど、ボゥシューの、と、ミウラヒノは納得したようだ。
「この人、コワい人だヨ」
ゴーガイヤが言う。
「わたしは、怖くなんかないよ。ゴーガイヤ、変なこと言わないでくれ」
ミウラヒノは、あわてて否定した。しかし、ゴーガイヤは、続けて言う。
「この人、宇宙皇帝の友だち。宇宙皇帝コワい。この人もおっかなイ」
「えっ、宇宙皇帝の?」
「昔の話しだよ」
驚くリーボゥディルに、ミウラヒノは必死になって打ち消した。
「本当にずっと、昔の話しだ」
ミウラヒノは繰り返した。
「もう、会わなくなって、何万年かな。確かに昔は友だちだった」
「何で喧嘩したんですか?」
「喧嘩、は、したことがないかもしれんな。むしろ喧嘩でもすれば、まだ付き合いもあったかもしれない」
リーボゥディルはとても驚いた。友だちをやめるのに、喧嘩以外の理由を思いつけなかったのだ。
「仲悪いんですよね? その、アナタと宇宙皇帝、って」
光子体の間では、常識となっていることだが、あえてリーボゥディルは尋ねてみた。
「うーん、どうなんだろう?」
ミウラヒノは考え込んで、なかなか返事をしてくれない。リーボゥディルは、よくわからない理由で、どきどきしながら答えを待っていた。
「デルボラのことを悪く思ったことは、実は、一度もないんだ」
ミウラヒノの言葉に、リーボゥディルはさらに驚いたが、回りを見回すと、ビルワンジルもイリナイワノフも肯きながら、黙ってミウラヒノの言うことを聞いている。ゴーガイヤは、よくわからない。
ミウラヒノは、なおも言葉を続けた。
「本当に、何故、こんなことになってしまったんだろう? わたしが悪いのは確かなんだが、思い返してみても、少なくともわたしにとっては、デルボラが悪かったことなんて、無かったような気がするよ」




