表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/251

ファライトライメン(9)

 

 ジムの中央でビルワンジルとイリナイワノフが向き合っていた。

 船内だが、ビルワンジルは宇宙服を着ている。ジルフーコが新しくデザインし直したもので、無重力ならともかく、擬似重力区画では、装着しているだけでもかなりの重労働だ。

 イリナイワノフは艦内着のラバースーツにヘッドギアの軽装備。

 ビルワンジルは槍、イリナイワノフは警棒だから、武器だけなら、ビルワンジルが有利だが、そういうものでもないだろう。

「いつでもいいぞ」

 ビルワンジルが言うのを合図に、イリナイワノフが真横に走りだす。

 ビルワンジルは、左脚を軸に、小刻みに体を動かして、イリナイワノフを捕捉しようとするが、装備の重量差もあって、とても追いきれるものではない。

 ビルワンジルの右側面から、イリナイワノフが一足飛びに踏み込む。

 払った槍をかいくぐって、懐に入ったところ、ビルワンジルは槍の穂先を返して、石突で警棒の先端を押さえた。

 前転して、左に抜けたイリナイワノフは、振り向きざまに警棒を左手に持ち替えて、脇腹を狙う。

 体をいっぱいに伸ばした、威力のある突きだった、

 が、

 少々、深すぎた。

 上半身をそらして躱したビルワンジルは、槍を落として、その手で、イリナイワノフの左手首をつかむ。

 イリナイワノフが手を振りほどくより早く、

 ビルワンジルが投げをうった。

 投げ飛ばされたイリナイワノフが、受け身を取って立ち上がったときには、

 ビルワンジルは槍を拾い直して、すでに構えをとっていた。

 再び、警棒を右手に構え、イリナイワノフが、トン、と床を蹴った、その時。

「いやあ、お見事、お見事」

 声の方を向くと、ミウラヒノが、ジムの入り口で拍手している。

 手を叩きながら、にこやかな笑顔で、ミウラヒノは、ビルワンジルとイリナイワノフに近づいてきた。

 ビルワンジルは宇宙服のヘルメットを脱いだ。

「何か用か?」

「用というほどの、こともないんだが」

 ミウラヒノは寂しげに笑い、上目遣いに、ビルワンジルとイリナイワノフに視線を投げる。

「みんなが、わたしをいじめるんだ」

 ビルワンジルとイリナイワノフは顔を見合わせた。言葉通りに受け取る必要はないだろうが、それにしても…。

「みんな、って、誰?」

 イリナイワノフが尋ねた。

「タケルヒノとジムドナルドとボゥシュー」

 ああ、と、再び顔を見合わせる2人。ビルワンジルが口を開いた。

「それじゃ、オレたちには、どうしようもないなあ」

 お気の毒、と口に出さないまでも、そんなような表情のイリナイワノフ。

「ま、気にしないでくれ」寂しげな顔に拍車のかかるミウラヒノだが、その表情も良いとこ半分だろう「ただの愚痴だから」

 ミウラヒノに同情したわけでもないだろうが、腕組みしたビルワンジルが、ぼそりと呟いた。

「あとはジルフーコぐらいか」

「え?」

「ジルフーコだよ」

 ビルワンジルは繰り返す。そして、ジムの天井に向かって叫んだ。

「おーい、ジルフーコ、暇か?」

 ややあって、天井から、のんびりした声が降りてくる。

「暇ってほどじゃないけど、何か用?」

「サイカーラクラの親父さんが、何か、話しがあるらしいんだ」

 天井から、くすっ、と笑いが漏れた。サイカーラクラの親父さん、が効いたらしい。

「いいよ、このままで、よく聞こえるから、何でもどうぞ」

 天井からの声に、意外にも、真顔に返ったミウラヒノが返事した。

「できれば、場所を変えてくれないか。2人で話したい」

「いいけど」そう言う、天井の声は笑いを含んでいる「どうして?」

「そばにサイカーラクラがいるんだろう?」

 ミウラヒノが言った。

「できれば、あの子には、聞かれたくないんだ」

「わかったよ」

 ジムから通じるドアのひとつが開いた。

「そこから出て、右隣すぐの部屋に入って待ってて、すぐに行くから」

 ありがとう、ミウラヒノはそう言って、ビルワンジルとイリナイワノフに一礼すると、いま、ジルフーコの開けたドアに向かって歩き出した。

 

「やあ、お待たせ」

 部屋に入ったジルフーコは、ミウラヒノの前にある椅子に腰掛ける。

「いちおう、この部屋、シールドかけてあるから、サイカーラクラにも聞こえないと思うよ。まあ、本気だされたら、シールドなんか意味ないけどね」

「誰の本気だい?」

「他の誰でもだよ」ジルフーコはメガネのフレームをいじる「宇宙船(ボード)については、ボクがいちばん詳しい、ってことになってるけど、言うほど差はないんだ」

「それは、他のことでもそうなのかな」

 そう尋ねるミウラヒノの口調は、意味ありげだった。

「たとえば、胞障壁(セルレス)踏破とか?」

「ボクらは、胞障壁(セルレス)を超えるときは、みんな管制室に集まるんだけど」

 ジルフーコは淡々と答える。

「安全のためだけじゃない、とボクは思ってるよ」

「君は、胞障壁(セルレス)を超えられる?」

「いまのままじゃ無理だけど、やりようによっては、できないこともないかな?」

 ジルフーコのメガネは、思ったよりずっとジルフーコの本心を隠す。ああ、サイカーラクラに似ているのだな、とミウラヒノは思った。

 ミウラヒノは話題を変えた。

「デルボラが他の胞宇宙(セルベル)に出てくる可能性があると言ったらしいが?」

「あるよ」

 ジルフーコは平然と答えた。

「いちばんありそうなのは、光子体(リーニア)に転換して他の胞宇宙(セルベル)に移動して仕事をすまし、またデルボラに戻って、重中性子体(レビフォノア)に再転換する。いろいろ問題あるけどね」

「問題とは?」

「情報体転換は、たとえ情報体同士での転換でも、情報(リーンファン)の欠落の危険がある。無限大の情報転換だから転換率に意味がないので、なんとも言えないが、もとの個体を維持できるかどうかは、極めて疑問だ」

 ジルフーコはミウラヒノを見つめ、笑った「で、どうだった?」

「何とも言えない」ミウラヒノは素直に答えた「アグリアータやラクトゥーナルでは、わからない程度らしい。逆にサイカーラクラが、わたしを認識できる程度には原体(ピスレイン)情報は残っている、といったところだ。本当のところは、ダーにでも会ってみないとわからないだろうな」

 なるほどね、とジルフーコは肯いて、話しを進めた。

「そして、他の問題、宇宙皇帝(デルボラ)は、重中性子体(レビフォノア)であれば、最強と言えるかもしれないが、光子体(リーニア)になったら、そういうわけにはいかない。敵も多いらしいしね」

「そっちのほうが、デルボラにとっては問題だろう。なによりヤツは慎重だから、そんな危険を犯すとは思えない」

 ミウラヒノは嘆息すると、ジルフーコに向かって言った。

「やっぱり、君も、サイカーラクラは連れていったほうが良いと思うのか?」

「まあ、そうだね」ジルフーコは答えた「いくらアナタが励起子体(パウフラニア)になったといっても、ちょっと、サイカーラクラの代わりにはならないんじゃないかと思うんだ。重中性子体(レビフォノア)相手に、サイカーラクラを欠いて挑むのは、どう考えても戦力不足だよ」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ