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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ファライトライメン(8)

 

「とりあえず、直近の問題は、先送りにしたから」

 ミウラヒノがやってきて、言う。

 言っていることはその通りだし、嘘をついているわけではないが、普通に腹立たしい。

「そうですか」タケルヒノはミウラヒノの顔も見ずに言う「それで?」

「将来のことについて、腹を割って話しあおう」

「あらかじめ、言っておきますが」

 タケルヒノは、意味のない図形が踊り狂うコンソール画面を見つめながら、言った。

「あなただけ、デルボラに送り込んで、あとは全員帰れ、って話しなら、聞きませんからね」

「黙って帰したりはしない」

 ミウラヒノは、コンソールとタケルヒノの間に割り込もうと顔を近づけた。

「わたし亡き後のファライトライメンを取り仕切ってもらおうと…」

「もっと、嫌です」

「お前、ワガママだぞ」

「だから、何です?」

「いや、別に…」

 ミウラヒノは、ふてくされてソッポを向いた。

「だいたい、あなたひとりで、デルボラに行ってみたところで、どうにもならないでしょう?」

「話し合いができる」

「そもそも、宇宙皇帝(デルボラ)でなくたって、あなたの話しなんか聞く人はいませんよ」

胞障壁(セルレス)に引きずり込む」

「どうやって、胞障壁(セルレス)まで宇宙皇帝(デルボラ)連れて行くつもりなんです? あなたがもたないでしょう?」

「そうかあ? なんとかなると思うぞ。そのために励起子体(パウフラニア)になったんだし」

「出てきたら、どうする気です?」

「え? 何だって?」

胞障壁(セルレス)に引きずり込んだ宇宙皇帝(デルボラ)が、胞障壁(セルレス)から出てきたら、どうするつもりですか?」

「いやあ、出てこれないだろう」

「あなたですら、28回も胞障壁(セルレス)から出てこれたのに、ですか?」

 ミウラヒノは、少しの間、黙っていたが、負け惜しみのように、つぶやいた。

「確かに、デルボラは、わたしより慎重だからな」

「まあ、言い争ってもしかたありません」

 タケルヒノは、ようやく、ミウラヒノのほうを向いた。

「デルボラには、みんなで(丶丶丶丶)行きます(丶丶丶丶)。ついでに、あなたも連れて行ってあげても、いいですよ」

 

「おい、あの頑固者をなんとかしてくれ」

「なんだよ、おっさん、うるさいなあ」

 ソファで昼寝中のところを、ミウラヒノに起こされたジムドナルドは、露骨に嫌な顔をした。

「ああ、起こしたのは、悪かった」

 たぶん、ミウラヒノは口で言っているだけで、毛ほども悪いとは思っていない。

「タケルヒノが、君らを全員、デルボラに連れて行くと言うんだ」

「そんなのあたりまえだろ?」ジムドナルドは不機嫌な顔でソファに突っ伏した「そんなくだらないことで、いちいち騒ぐな」

「デルボラは危険だ」

 ミウラヒノは言った。

「そりゃあ、危険だが」ジムドナルドが返した「俺たちの内の誰かが、別行動取るほうが、もっと危険だ」

「そうかもしれないが、せめて、サイカーラクラと、ボゥシューは、ファライトライメンに残ったほうがいい」

「場所はこの際、関係ない」ジムドナルドは欠伸した。両手をつっぱり、体を伸ばす「デルボラが危険、と言ったところでたかがしれてる、それより、俺たちがバラバラになるほうが危険だ」

「しかし…」

「しかしもヘチマもあるか」

 ジムドナルドはミウラヒノの言い分をまったく取り合わない。

「もういっかいしか言わんぞ。俺たちは一緒にいるのがいちばん安全なんだ。俺たちも安全だし、そのほうが、タケルヒノも安全だ」

 

「説得しろ? 何を?」

 ボゥシューは、きょとん、とした顔で聞き返した。

「タケルヒノが、全員でデルボラに行くと言ってる。せめてサイカーラクラだけでも残すように説得して欲しい」

「何故、そんなことをする? 危険だぞ」

「君たちは、デルボラがどれほど危険か、まるでわかってない」

「それは、アナタも一緒だろ?」ボゥシューは言い返した「危険かどうかなんてことより、そもそもアナタだって、デルボラのこと、あんまりよく知らないじゃないか」

「そりゃあ、まあ、そうだが…」

「だったら、おとなしく、タケルヒノの言うことを聞いとけ」

 ボゥシューの言うことはもっともだ。だが、それを聞いて、おとなしく引き下がるほど、ミウラヒノは人間ができていない。

「ファライトライメンにいれば」ミウラヒノは言った「ここにいれば、少なくとも、デルボラは手出しできない」

「何故、そんなことが言える?」

「デルボラは、あの胞宇宙(セルベル)から出てこれない」

「確かに、いままで、出てきたことはない」

 ボゥシューは、幼子に嚙んで含めるような口調で言う。

「けれど、宇宙皇帝(デルボラ)が、出てこれないのか、出てこないだけなのかは、わからない。一発勝負で多少のリスクを取れば、こちらに来る方法なら、いくらでもあると、ジルフーコは言ってたぞ」

「…デルボラは慎重だ。臆病すぎるくらいだ。わたしとは違う。そんな一か八かの賭けに出たりはしない」

 ミウラヒノの声からは、すでに、いつもの根拠の無い自信、といったものは消えていた。

 そのまま、放っておいても良かったのだが、

 念のため、ボゥシューは、一言、付け加えた。

「それは、アナタがそう思ってるだけだ」

 

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