ファライトライメン(5)
「やあ、精が出るね」
収穫中のビルワンジルのとなりに、ミウラヒノがしゃがみこんだ。ニンジンを引っこ抜くと、てきとうに土を払っただけで、かぶりついた。
「どんな味だい?」
ビルワンジルの問いに、ミウラヒノが口をもぐもぐさせながら答える。
「光子体だった期間が長かったからなあ」
ミウラヒノは笑った。
「食べ物なんか食べたのは、もう、何万年ぶりくらいじゃないのかな。美味いんだか、不味いんだか、よくわからんよ」
「ダーがいたときは、もっぱらダーが料理番してくれてたんだがな」ビルワンジルが呟く「いなくなったから、みんなで持ち回りだ。サイカーラクラが少し頑張ってくれてるが、使う野菜の量は、だいぶ減ったな」
「ダーは料理が上手かったのか?」
「ああ、上手かったよ」
ビルワンジルは、やっと、顔を上げて、ミウラヒノを見た。
「そうか、アンタ、その頃、光子体だったから、ダーの料理、食べたことないのか」
「いつ行っても、小言ばっかりだったからなあ」
ミウラヒノは苦笑いだ。
「手料理でも出して貰えたら、少しは関係も違ってたかな?」
「ま、無理じゃないかな」
「例えばの話しだろ? 君は冷たいな」
「こんなトコで油売ってないで」ビルワンジルは、カゴにニンジンをつめ、立ち上がった「早く、サイカーラクラに会いに行ったほうがいいぞ」
「それは…、わたしも、そう思ってる」
「思ってるだけじゃダメだろ」
「でも、わたしのことを思い出してしまったみたいだからなあ」
ミウラヒノは青い髪の毛を、わしゃわしゃかき回した。
「忘れてくれたままなら良かったんだが、顔をあわせにくい」
「何かやったのか?」
「まあ、有り体に言って、とてもヒドイことをした」
「…」
「…」
ビルワンジルは、カゴを取ると肩に担いだ。
「サイカーラクラは、優しいから」
「それは、わたしも知ってる」
数歩進んだビルワンジルは、不意に振り返って、ミウラヒノに声をかけた。
「あのな、まあ、好みの問題ではあるんだが、ニンジンは、緑色の葉っぱじゃくて、赤いところを食べたほうがいいぞ」
「何だって?」
「赤いところを食べるんだ」聞き返したミウラヒノに、ビルワンジルが繰り返す「ニンジンの葉っぱ食べるヤツなんて、宇宙船の中じゃ、アンタを除けば、ジムドナルドぐらいしかいない」
「これは、タケルヒノの叔父上、拙者、ヒューリューリーと申す者でござる」
ヒューリューリーは、今、何の映画に夢中か、非常にわかりやすい。
「やあ、サイユルの人だね」
ミウラヒノは、そう言ってから、しゃがみ込んで、ヒューリューリーの下半分に目線をあわせた。
「そして、君が、ザワディだ。2人とも、元気で何よりだ。君たちには、特別に会いたかった」
ザワディは、たてがみを、ぶるん、と振るった。それは、いつの間にか雄々しく立派になっていて、成人の雄ライオンのたてがみにふさわしく、金色に輝いていた。
「我ら2人に、特別会いたかったのは、何故でござる」
ヒューリューリーはザワディの上で半身を振るう。
「他のみんなとは地球で会ってた」ミウラヒノは答えた「もっとも、タケルヒノ以外のみんなは気づいて無かったと思う」
「まあ、我ら、余計者でござるからな」
「それは、違う」
普段のにやけ顔とは、まったく違う、真剣な目で、ミウラヒノは2人を見つめた。
「この計画のもともとの目的は、サイカーラクラを治すことだった。あの子はわたしのせいで、とてもヒドイ状態だった。わたしは、一緒にいたらあの子を本当に壊してしまうことがわかって、あの子のもとを離れた。サイカーラクラを癒やすには、あの子と友だちになってくれる人たちが必要だった」
ミウラヒノは、ヒューリューリーとザワディを交互に見つめた。
「6人は、私とサイカーラクラで選んだ。君たち2人は、サイカーラクラだけで選んだ」
「拙者、サイカーラクラのおかげで、この宇宙船に残れたのでござるよ。そして胞障壁も超えられたのでござる」
「うん、その話しは聞いたよ。ラクトゥーナルに聞いて、君が胞障壁を超えたのを知った時は、本当に驚いた。そして、それ以上に驚いたのが、ザワディ、君だ」
ミウラヒノは近寄って、ザワディのたてがみに頬をよせた。ザワディは、くすぐったそうだったが、我慢していた。
「ザワディ、わたしの考えでは、君は、決して胞障壁を超えられないハズだった。でも、君は胞障壁を超えてきた。わたしは、いろんなことを間違えた。サイカーラクラにも謝らなければいけない」
「タケルヒノの叔父上は、これからサイカーラクラを見舞うのでござるな」
「まあ、そうなんだけどね」
ミウラヒノは深々と嘆息した。
「なかなか勇気が出ないんだよ。だから、あと1ヶ所だけ、寄り道しようと思うんだ」




