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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ファライトライメン(4)

 

「おじさん、って、サイカーラクラのお父さんなの?」

 おっかなびっくり、という感じで、イリナイワノフが尋ねてきた。

情報核(リーンファニム)を共用してたことがあってね」

 ミウラヒノが答える。

「お父さん、と言えば、お父さんかな。カンガルーみたいに、わたしの中にサイカーラクラが入ってたんだ」

「カンガルーはお母さんだよ?」

 不審げな顔つきで、イリナイワノフが指摘する。

「例えが悪かったかな。皇帝ペンギンとか、あんな感じかな」

「ああ、ペンギンは、お父さんがタマゴあたためるね」

「そう、そんな感じ」

 ここでイリナイワノフは不思議そうな顔で、ミウラヒノを見つめる。

「ダーと結婚してたの?」

「え?」

「ダーは、サイカーラクラのお母さんだよ?」

 さて、

 ミウラヒノはかなり困ったが、しばらく考えてから、説明を捻り出した。

「リーボゥディル、は、知ってるかな?」

「知ってる。光子体(リーニア)の男の子」

「そう、彼のお父さんとお母さんは、リーボゥディルが生まれたときには、まだ結婚してなかったから」

「あ、そうだね、なんかそういうの聞いたことある、ボゥシューから」

 イリナイワノフは、まだ、腑に落ちないようだ。

「でも、そういうの、あまり言っちゃいけないんだよね。とくに、リーボゥディルには」

「そうだね」

 イリナイワノフは、まじまじと、ミウラヒノを見つめる。

「じゃあ、おじさんは、これからダーと結婚するの?」

「いや、それはないんじゃないかなあ」

 さしものミウラヒノも、イリナイワノフにかかっては、たじたじである。

「だいたい、わたしは、ダーに嫌われてるみたいだしね」

 ここで、イリナイワノフは、はっ、と何かに思い当たったらしい。

「あ、ごめんなさい、この話しはもういいや」

 イリナイワノフは急に慌てだした。

「そういう家庭の事情を聞くつもりじゃなかった。あの…、あたしが聞きたかったのは、サイカーラクラが小さかった頃の話しで…」

「サイカーラクラの小さいころ?」

「そう、可愛かった?」

 息せき切って尋ねるイリナイワノフに、ミウラヒノは驚いたが、微笑むと、話しだした。

「優しい子だったよ。いまと変わらない。小さいころは、わたしの中にいたから、姿はよくわからなかったけど。励起子体(パウフラニア)になってからは、見かけはあまりかわらないと思う」

「そっかあ、いきなり、いまのサイカーラクラなのか、ちっちゃいサイカーラクラはいなかったんだ」

 それがイリナイワノフなりの解釈らしい。それを後押しするわけでもないのだろうが、ミウラヒノが言った。

情報体(リーンファノア)だからね」

情報体(リーンファノア)って、不思議だね」

 君のほうがもっと不思議だよ、とミウラヒノは言いそうになったが、やめた。

 どこが? と聞かれたら。正直、うまく説明できる自信がなかったから。

 

「タケルヒノの初恋の女の子が、ボゥシューだったって、ホント?」

 ジルフーコが、突然、尋ねてきたので、ミウラヒノは少し面食らった。

「まあ、そういうことになるのかな。サイカーラクラの感じたことからすると」

「だから、サイカーラクラは、最初、あんなにボゥシューとタケルヒノに執着してたんだね」

「そうかもしれない」ミウラヒノはサイカーラクラとの思い出を掘り起こしてみた「サイカーラクラは、ボゥシューを羨ましがるというより、単純に、ただ、驚いたというような感じだった。そして、励起子体(パウフラニア)になって、君たちと旅をすることをとても嬉しがっていたよ」

「本当に?」

「本当だ。ただ、励起子体(パウフラニア)になったときに、かなりの部分の記憶が埋没したらしい。旅の目的も、君たちのことも、サイカーラクラ自身のことも、そして、わたしのことも、忘れたみたいだった。だから、ここに来て、わたしのことを思い出したのには、本当に驚いたよ」

「アナタも励起子体(パウフラニア)になったときに、記憶欠損はあった?」

「どうだろな、もともと忘れっぽいほうなんで、あまり自信はない。ただ、アグリアータやラクトゥーナルと話した感じでは、それほど致命的な記憶欠損はないんじゃないか? 普通のボケ老人程度だと思うよ」

「あまり、アテにはできないみたいだね」

 ジルフーコは笑った。しかし、すぐに真顔に戻ると、重ねて質問した。

「サイカーラクラとアナタの違いは? アナタは2度めだから、少し手順を改良した?」

「それはない」ミウラヒノは即座に否定した「わたしはサイカーラクラと全く同じ方法で励起子体(パウフラニア)になった。サイカーラクラの記憶が曖昧な理由は、あの子の記憶容量が膨大なせいだ。全複写しているはずなのだが、関連性のつながりが混沌としているのだと思う」

「連続体密度の無限では、無理があるということ?」

「言ってしまえば、そういうことになる。その件では、ダーにもずいぶん怒られた」

「誰だって怒るよ」ジルフーコは言った「サイカーラクラは優しいから、怒らないだけだ」

 ミウラヒノは何とも返事はしなかった。

「忘れたままなら構わないけど、何かのひょうしに思い出すほうがやっかいかもしれないね。記憶そのものは移植されてるようだし」

「現にわたしのことを思い出した」

「威張るトコじゃないよ。ソレ」

 ジルフーコはメガネのフレームに手を当てた。何かを探しているのかもしれない。そうでないのかもしれない。

「ボクの受精卵作りに関与したかい?」

「それはない」

 ミウラヒノは即座に否定した。まるで待ち構えていたかのようだった。

「わたしとサイカーラクラが地球に着いたのは、君が生まれた後だ。いくら、わたしでも、時を遡っての干渉はできない。つまり、わたしと、サイカーラクラが、君の生誕に干渉した事実はない」

「まるで、他の誰かさんが、干渉したような口ぶりだね」

 ジルフーコは笑った。いつものいたずら小僧の笑い、だが、その眼差しは冴え切っていた。

「わたしは偶然を信じない」

 ミウラヒノはジルフーコの視線を真っ向から浴びつつ、答えた。

「そのできごとが、重要であればあるほど、それが偶然で左右されることなど有り得ない」

「誰の干渉だい?」

宇宙(ベル)

「ずいぶん、大きく出たね」

「第2類量子コンピュータは、宇宙そのものに極めて近い。そのようにわたしが造った。その部分群であるサイカーラクラを哀れに思ったら、宇宙(ベル)が、第2類量子コンピュータではなく、宇宙(ベル)自身が、なんとかしようと思うだろ?」

「確かに、そうかもしれないね」

「サイカーラクラには、君たちが必要だった。無論、君も含めてだ」

「ずっと…、ボクが生まれた理由を考えてた」

 ジルフーコは笑いとも平然ともとれる、曖昧な表情で話しだす。

「両親が望んだのじゃないことは、はっきりしてた。ボクが生まれる前に死んでたし、そもそも2人は互いに相手のことを知らなかった。他にもいろいろ考えてみたけど、あまり、納得のいく答えは思いつかなかった。でも、もし、ボクが、サイカーラクラのために生まれたのだとしたら…」

 ジルフーコはミウラヒノに視線を向けた。その瞳には、さっきまでの挑むような意思の光は消えていた。

「いままでの中では、いちばん魅力的な答えだな。たとえ嘘でも、信じてみたい気がするよ」

 


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