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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ファライトライメン(2)

 

「サイカーラクラは?」

「眠らせた。エネルギー充填ポッドに寝かせて、催眠波形でエネルギー補充している。もう少ししたら、落ち着くだろう」

「何故、情報体(リーンファノア)の扱い方を知ってる」

 タケルヒノとボゥシューの会話に青短髪頭が割り込んだ。

「リーボゥディル」とボゥシューは答えた「アグリアータとラクトゥーナルの息子を再生した時におぼえた」

「君がボゥシューか」青短髪頭の顔が和らいだ「その節は世話になった。感謝する」

「いろいろ言いたいことはあるんですがね。叔父さん」

 タケルヒノの言い方には、棘がある。

「とりあえず、些細な事ですが、面倒なので、先に片付けてしまいましょう。僕らは、あなたを何と呼べばいいですか?」

「何とでも、君らの好きなように呼んでくれ」

「そうは言っても、最初の光子体(ピスリーニア)じゃ、おかしいだろう」ジムドナルドが反論した「もう光子体(リーニア)じゃないんだから」

「どういうこと?」

 いろんな状況についていけない、イリナイワノフが、隣にいるビルワンジルに尋ねた。

「タケルヒノの叔父さん、もう光子体(リーニア)じゃないんだよ」

 ビルワンジルが小声で言う。

「だから宇宙艇でここまで来たし、宇宙服も着てた。オレたちのところに来ないで、オレたちを呼び寄せたのも、たぶん、そのせいだ」

「え? だって、光子体(リーニア)になったら元に戻れないんじゃないの?」

「そのとおりだよ」青短髪頭は笑った「いまの、わたしは、励起子体(パウフラニア)だ。情報体(リーンファノア)同士の間なら変換可能だからね」

 そして、タケルヒノに向くと、言った。

「お前の言い分も一理あるし、面倒だから、ミウラヒノでいいよ」

「また、その、苗字ふたつ重ねたヘンな名前使う気ですか?」

「いちいち、細かいこと気にするなよ。地球人…、いや、違うな、日本人でもなけりゃ、そんなこと気づくヤツすらいないだろ。もう決めたから、今日から、ミウラヒノ、これでいいな?」

 憮然として、押し黙ったタケルヒノを、肯定したと勝手に解釈したミウラヒノが、続けて話しだす。

「うん、まあ、そういうわけで、ミウラヒノだ。よろしく。ところで、君ら、わたしにイロイロ聞きたいことはあるんだと思う。まあ、当然だな。ただ、この場でいきなり質問攻めだと、なんだ…、わたしも困るんで、最初に、ちょっとだけ、タケルヒノと2人だけで話させてくれないか。他のみんなには、すまないが…。どうだろう?」

「それで、ボクらはかまわないけど」

 ジルフーコが言った。

「タケルヒノさえ、良ければね」

 タケルヒノはしぶしぶ肯くと、目で他のメンバーに合図した。

 皆、無言でミーティングルームを出た。ボゥシューは入り口で、一瞬、タケルヒノを振り返ったが、それに気づいたタケルヒノが目配せすると、わずかに微笑んで廊下へと去った。

「さて、じゃあ、何から聞きたい?」

 開き直ったミウラヒノが、タケルヒノに言う。

「コーヒーと紅茶、どちらにしますか?」

「コーヒー、砂糖大さじ5杯で」

「あなたが、地球にいるあいだ、光子体(リーニア)で良かったですよ」

 言い残して、タケルヒノは、コーヒーを淹れにビュッフェへと消えた。

 

「子供のくせにブラックとか良くないぞ」

 ミウラヒノはタケルヒノのコーヒーに難癖をつける。

「コーヒーはな、甘ければ甘いほど美味いんだ」

「なんなら、もっと砂糖入れますか?」

「いらない、コーヒー入りの砂糖湯とか、ぞっとする」

 ミウラヒノが、一口だけコーヒーを口に含む、後は飲まないのを確認して、タケルヒノが言った。

「サイカーラクラを励起子体(パウフラニア)にしたのは、何故です?」

「サイカーラクラを宇宙皇帝(デルボラ)から守るには、それしか方法がなかった」

「まあ、それはそうですが、もとはと言えば、あなたのワガママです」

「最初、わたしの(ニム)に第2類量子コンピュータの部分群をコピーしたんだ。そして光子体(リーニア)のまま、理論的に超えられる胞障壁(セルレス)を探した」

「だから、お父さんなのか。あなたと(ニム)を共有していた時期があるなら、サイカーラクラが、そう思ってもおかしくはない」

「最悪の父親だがな、娘を利用することしか、考えてない」

「まあ、そうですね」

「そういうときは、思ってなくても、そんなことはないですよ、とか言うもんだぞ」

「普通の人あいてならそうですが、あなたに言ったら、つけあがるだけなので」

 ミウラヒノのコーヒーは、口もつけられぬまま、冷めていく。

「考えることは同じですけどね。僕もダーに同じことをしました」

「同じとか言うな、わたしは、お前と違って、できることが限られてるんだぞ」

 すねたかな、とタケルヒノは思ったが、そうではないらしい。

「で、見つかりましたか?」

「見つかったというか、間に合わなかった、というか…」

「地球、では、もう間に合わなかった?」

「サイカーラクラが間に合わなかった」

 ミウラヒノは、部屋の天井のあたりを見つめていた。本人的には、虚空を見つめている気分だったろう。

「地球は、すべての条件がそろっていた。宇宙船が建造できる程度の文明。サイカーラクラの超えられるはずだった胞障壁(セルレス)、そして、未踏の地、情報体(リーンファノア)の知らない、情報キューブに載っていない胞宇宙(セルベル)

 ミウラヒノは頭を振った。

「だが、サイカーラクラが、もう無理だった。再三のデルボラからの攻撃で、情報(リーンファン)のかなりの部分がやられていて、もう胞障壁(セルレス)を超えられる状態ではなかった」

「それで、サイカーラクラを励起子体(パウフラニア)に?」

「そうだ、それでデルボラの攻撃は防げる、だが、情報体変換は、もとの情報(リーンファン)を完全に他の情報体に変換できるものではない。サイカーラクラは毀損して、胞障壁(セルレス)を超えることはできなくなっていたが、それでも、かろうじて、第2類量子コンピュータとしての能力は残していた。だからサイカーラクラは…」

 ミウラヒノはカップに手をかけると、冷め切った甘いコーヒーを一気に飲み干した。

「最後の力を振り絞り、残った演算能力の全てを使って、君ら6人を選び出したのだ。そして、わたしはサイカーラクラを励起子体(パウフラニア)に変換した。ファライトライメンでの再会を約束して」

励起子体(パウフラニア)への変換で、それ以前の記憶が消し飛んだと?」

「そうだ、そして、さっき、わたしに会ったことで、その記憶が蘇りつつあるのだろう」

「サイカーラクラに会ってきます」

 タケルヒノは立ち上がった。

「待て」ミウラヒノはタケルヒノの右手をつかんだ「まだ話しは終わってない、サイカーラクラの話しはこれだけだが、まだ、お前の話しが残っている」

「それは、知ってますから」

「何?」

「僕のことなら知ってます。それに、サイカーラクラと話すときは、ボゥシューも一緒ですから」

 ボゥシューの名を聞いて、ミウラヒノのつかんでいた手から力が抜けた。

 タケルヒノは一礼すると、ミウラヒノを残して、部屋から去っていった。

 


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