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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ライザケアル(17)

 

「たいへんお世話になりました」

「わたしもお世話になりました」

 ミーティングルームにいる皆に向かって、ラーベロイカとダーは並んで挨拶した。ラーベロイカの表情は思いのほか、晴れやかだった。ダーの表情はわからない。

 皆、口々に、こちらこそ、と返していたが、あまり長く話し込む者はいなかった。

 そういうことは、もう、すませていたから。

 代表して、というわけではないのだろうが、タケルヒノがダーに尋ねた。

「新しい宇宙船の名前は何というのですか?」

「わたしが、決めるんですか?」

「そりゃあ、あなたの宇宙船ですから」

 タケルヒノにそう言われると、ダーは間髪入れずに答えた。

「ダー、です。宇宙船の名前は、ダー」

「宇宙船もダー、ですか?」

 タケルヒノは、いつもの(丶丶丶丶)ちょっと困った顔、をした。

「いけませんか?」

「いけなくはないですが、あなたと同じ名前だと、間違えやすくて困りませんか?」

「わたしと宇宙船を間違える人はいませんよ」

 タケルヒノは困った顔をやめてしまった。代わりにひとつ、嘆息をついた。

「…確かに、いませんね」

「じゃあ、俺が2人を宇宙船(ダー)まで送っていこう」

 そう言いながら立ち上がったジムドナルドに、皆の視線が集中した。

 誰も何も言わないので、気まずくなったのか、ジムドナルドは苦笑いだ。

「俺、何か、へんなこと言ったか?」

「いや、逆だ」

 ボゥシューが言った。

「オマエがまともなことを言うから、みんな驚いたんだ。気にするな。長い年月の間には、そんなことだって、1度くらいはあるだろう」

 

 多目的機(マルチロール)の客席には、ダーとラーベロイカ。

 操縦席にはジムドナルドだ。

 宇宙船(ふね)から宇宙船(ふね)へ乗り移るだけだから時間はかからない。

 実際、運転手もお客も、多目的機(マルチロール)の中では、なにかを話すほどの時間は無かった。

 宇宙船(ダー)の外部ハッチが開口し、多目的機(マルチロール)がローンチに滑りこむ。もうここからは自動で、サイドアームが左右から包み込むように多目的機(マルチロール)を固定する。

 ジムドナルドが上部ハッチを開けた。

 ダーは固定ラッチを外し、両腕(アーム)を支えに踏ん張ると、無重量区画に、ふわりと、浮いた。

「次もよろしくね。ジムドナルド」

「ああ、またな」

 制止と運動の間くらいのゆったりした速度で、ダーは宇宙船(ダー)の中へ、まっすぐに飛んでいく。

 後を追おうと、床を蹴ったラーベロイカの、その手をジムドナルドが優しくつかんだ。

餞別(プレゼント)だ」

 ジムドナルドはラーベロイカの右手に、小さなかたまりを押し込んだ。

 手を開くと、

 長い鎖のついた、ペンダント。

「デザインは、パッとしないけどな」

 ジムドナルドは言いながら、ラーベロイカの掌の中でペンダントを裏返した。

 ペンダントの裏には、小さなボタンがついている。

「困ったことがあったら、このボタンを押せ」

 はっ、として、ラーベロイカは顔を上げた。

「お前がどこにいようと、宇宙の果てから駆けつけるよ」

 それは、有り得ないことだった。

 これから2人を胞障壁(セルレス)が分ける。

 タケルヒノとダーしか超えられない壁だ。

 でも、そんなことは、たいしたことではない。

 ラーベロイカがこのボタンを押せば、ジムドナルドはやってくるだろう。

 ラーベロイカは、ペンダントを掌に収めたまま、両手で顔を覆った。

「ありがとう…、大事にする」

「ああ、そうしてくれ、なくすなよ。予備はないからな」

 大きく肩を震わせて、ラーベロイカは泣きながら肯いた。

 ひとしきり泣いた後、右手にしっかりとペンダントを握りしめ、

 ラーベロイカは涙で濡れたままの顔で微笑んだ。

「元気でな。また、会おう」

 ジムドナルドの言葉に、ラーベロイカは、右手にペンダントを握りしめたまま手をかざし、左右に大きく振った。

 ジムドナルドも右手を振る。

 床を蹴ったラーベロイカの体が宙に浮き、そのままずっと腕を振り続けた。

 多目的機(マルチロール)の上部ハッチが静かに閉じ、ジムドナルドの姿が見えなくなって、

 ローンチの外殻ハッチが開いた。

 宇宙。

 その時、ラーベロイカは、本当の宇宙をかいまみて、

 多目的機(マルチロール)――ジムドナルドは、その宇宙の向こうに消えていった。

 


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