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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ライザケアル(16)

 

 夕食後、タケルヒノを訪ねたラーベロイカだったが、ミーティングルームには、タケルヒノだけがいるわけではなく、他のみんなも同様にくつろいでいた。まずったかな、と一瞬、思わないでもなかったが、特に他人に聞かれても悪いことはないわけで、このままいこう、とラーベロイカは思った。

 どうぞ、とタケルヒノは、先ほどと同じように椅子を勧めた。

 ラーベロイカは、こんどはきちんと腰掛けた

「ご用件は何でしょう?」

 タケルヒノの問いに、ラーベロイカは即座に答えた。

「私をファライトライメンに連れて行っていただきたいのです」

「それはできません」

 タケルヒノは笑みをたやさずに、これまた即答した。

 何故ですか、とラーベロイカは問い返したが、彼女の表情にはとりたてて感情の起伏のようなものは現れなかった。タケルヒノがそう答えるのは予想していたから、その返事自体はラーベロイカにとってもどうでもよかった。大事なのは理由のほうだ。

「ファライトライメンは僕らの旅の終着点です」

 タケルヒノは言った。

「まあ、着いたらそれで終わり、という訳ではなくて、どうせロクでもない目に合わされるんでしょうけど。少なくとも、あなたには関係ないことですしね」

「忙しくて余計なことをしている余裕はない、と?」

「僕らの理由としてはそうです。でも、あなたの理由でも、ファライトライメンは、あまりよろしくない」

「私の理由?」

 ラーベロイカは、訳がわからず、聞き返した。

「あなた、ファライトライメンで、何をします?」

 返す刀のタケルヒノの問いかけに、ラーベロイカは何も言えずに固まった。でも、目だけは、ずっと逸らさずに、耐えた。

「無理に答えなくていいです。あなたを責めているわけではないので」

 そう言ったタケルヒノは、じっとラーベロイカを見つめた。

 タケルヒノだけではなかった。

 いま、ミーティングルームにいる全員が、否、宇宙船(ボード)にいる全員の視線を感じた。

 何故なら、みんな、ここにいるから。

 ラーベロイカは、今が、選択のときで、次の自分の言葉で、自分のこれからがすべて決まるのだと悟った。

 でも、今は、その本当の今ではない。

 ラーベロイカはタケルヒノの言葉を待った。

「正直に答えて欲しい」

 タケルヒノは言った。

「あなたが、本当にしたいことは何ですか?」

 ラーベロイカの唇は、何度か開きかけては閉じ、そのたびに細かく震えていたが、いったん声が出ると、朗々と部屋の中いっぱいに広がる。

「私の望みは」

 その声に、ラーベロイカ自身がとてつもない違和感をおぼえた。誰か別人が言ってるみたいだ。でも、もう、止まらない。

「私の望みは、胞障壁(セルレス)を超えて、他の胞宇宙(セルベル)と交流することです」

 拍手がわき起こった。

 部屋にいる、みんなが、拍手している。

 ラーベロイカは、まわりの拍手よりも、自分が言った言葉に驚いた。

 それは、あの日、ジムドナルドに言ったことと、ほとんど同じで、そして、まったく違うことだったからだ。

「私…、私は…」

 ラーベロイカは、うろたえて、ほとんど自分を見失う寸前だった。

「おめでとう、ラーベロイカ」

 いつの間に、傍らに来ていたダーが言った。

「あなたの望みは叶えられました。わたしと一緒に行きましょう」

 

「余計なお世話かもしれないけどね」

 普段、めったにラーベロイカに話しかけてこないジルフーコだったが、何故かその時、ラーベロイカは、ごく自然に彼の言葉を受け入れた。

「次元変換伝送の通信チャネルを開けたから。部屋のコンソールを使って普通に話せるよ」

「あ、あの…」

 ラーベロイカは、ジルフーコの言う意味がよくわからなかったので、聞き返した。

「どういうことですか?」

 うーん、とジルフーコは、困った顔をする。

「ボクじゃなくて、サイカーラクラにでも言ってもらったほうが良かったかな…、まあ、いいや。あの…、普通の通信だと、キミの母星に、こっちから何か言っても返事がくるまで2~3時間かかるでしょ。そういうの無しで、面と向かって話してるみたいに、そう、ラグなしで話せるから。ライザケアルの通信プロトコルに合わせたんで、普通に話せるよ。万一、つながらかったら、ボクに言って、直すから」

「あの…、ですから、それって…」

「家族と話したくない?」

「あ、あぁ…」

 ジルフーコは、例の、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「ボクには、家族、みたいなのはいなかったんで、よくわからないけど。やっぱり、話しといたほうが良いんじゃない?」

「ありがとう…、ございます…」

 深々と礼をしたラーベロイカに、ジルフーコは照れくさそうに言った。

「礼ならジムドナルドに言って」

 ジルフーコはつけたした。

「別に、借りがあるとかじゃないんだけど、頼まれると、なんとなく、断りづらいんだよね」

 

 何故か、寝苦しい夜だった。

 喉の渇きに我慢しきれず、ビルワンジルは部屋を出て、ミネラルウォーター目当てにビュッフェに向かった。

 淡い夜間灯をたよりに、ミーティングルームを抜けて近道しようと思ったのだが。

 見ると、いつものソファにジムドナルドがいない。

 珍しいこともあるもんだな、と思ったが。

 ビュッフェのウォーターサーバから注いだ水を飲みほすと、すっきりして、ビルワンジルは、それきり空のソファのことは忘れてしまった。

 


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