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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ライザケアル(15)

 

 適合性試験の最終チェック中、ボゥシューの顔が2度ほど険しくなった。ラーベロイカは、そのたびに、はっ、としつつも、辛抱強く結果を待った。

「かつかつだが…、なんとかなるだろう」

 ボゥシューの顔が緩んだ。

「免疫抑制剤の種類を変えよう。軽いものにする。ここにいる間だけ飲み続ければ、あとは大丈夫だ」

 ラーベロイカの緊張がとけ、ほっとして肩が落ちた。

「ありがとう、ボゥシュー、でも…」

 礼を言いつつも、ラーベロイカは、何か釈然としない表情だ。

「どうして、私に、こんなに良くしてくれるの?」

 ラーベロイカの問いに、ボゥシューは、しばし、腕組みをして考えこんでいたが、やがて、決心したらしく、立ち上がった。

 おいで(丶丶丶)、とボゥシューはラーベロイカを呼び、ラーベロイカは黙ってボゥシューの後ろに付き従った。

 実験室の奥、小さな凍結保存庫の前に立つと、ボゥシューは、扉を開けた。

 アンプルが3個、凍結保存庫の中に入っていた。ラーベロイカが中を見たのを確認すると、ボゥシューは、扉を閉めた。

「タケルヒノとビルワンジルとジムドナルドの生殖細胞だ」

「あの、それって、…」

 ボゥシューの顔と、凍結保存庫を見比べつつ、どう反応していいものかわからないラーベロイカは、とりあえず、あたりさわりのなさそうな言葉を選んだ。

「…遺伝治療用に保存してる原細胞、ですよね」

「治療用なら全員分ないとおかしいだろ。ま、サイカーラクラの分は必要ないだろうけど」

「ええっと、じゃぁ…」

 ラーベロイカはごまかそうと必死になったが、ボゥシューの意図はあからさまだ。

「ワタシは姑息で陰険だからな」

 ボゥシューは無表情で言った。

「この旅が終わって、ひとりになったとき、使おうかと思ってる」

「あの…、旅が終わって、あなただけがひとり、とか有り得ないと思いますけど」

「世の中、何が起こるかわからんからな」

 ボゥシューは、やっと、笑った。

「まあ、こんなくだらんことを考えてるから、同じようなことしようとしてるヤツには、ちょっと同情的になるんだ」

 ラーベロイカは耳まで真っ赤にして、うつむいた。

「でも、あなたは…」

 あなたは違います、と言いたかったのだが、ボゥシューはその笑みで、ラーベロイカの反論を押し止めた。

 

「ラーベロイカのこと、どう思います?」

 サイカーラクラが聞いた。

「良い子ですね」

 ダーが答えた。

「私もそう思います」

 サイカーラクラはそう言ってから、ちょっと考えているようだった。

「ラーベロイカは、もう、ライザケアルには帰らないつもりでしょうか?」

「そのように見えますね」

「でも、私たちと一緒には行けませんよ?」

「それは、当たり前です」

 あんまりダーが強く言い切るので、サイカーラクラはちょっぴり笑った。

「ラーベロイカは、どうするつもりなんでしょう?」

「それは、あの子が決めることですけれど…」

 ダーの言い方は、ある程度の未来を見透かしているような口ぶりだ。

「選択肢はそれほど多くはありませんね」

 ダーの言い方がおかしくて、サイカーラクラは、また笑ってしまった。

「ラーベロイカが少しうらやましい気がします」

「まあ、他人のことは、何だってよく見えるものですからね」

 それにしても、と、ダーは言う。

「ラーベロイカはともかく、ジムドナルドは、いったい、どうするつもりなのか、本当に心配だわ」

 

「おや、特使殿、ごきげんうるわしゅう」

 廊下ですれ違ったヒューリューリーが、ラーベロイカに話しかけてきた。

「今日は、お友達とご一緒ではないんですね」

「たまには離れないと、親友のありがたみというものを忘れてしまいますからね」

 言っていることは、まともだが、なんとなくおかしかったので、ラーベロイカは微笑んだ。

「あの…」

「なんでしょう?」

「ヒューリューリーも、ファライトライメンに行かれるのですか?」

 ヒューリューリーは体をゆっくり大きく回した。風切音が生じない速度であったため、翻訳されることもなく、廊下のスピーカーは鳴らなかった。ヒューリューリーの嘆息、に近いものかもしれない。

「お嬢さん」

 こんどは、ヒューリューリーはきちんと風切音を出した。

「行きます。と答えたら、あなたは、何故? と聞かれるでしょう。そう、私は、他の7人と違って、第一光子体(ピスリーニア)に呼ばれたわけではありませんからね。…よろしい、まとめてお答えしましょう」

 ヒューリューリーは、ことさら体を大きく回して、大声(丶丶)を出した。

「ジムドナルドが心配なのです」

 ヒューリューリーは、はっきりそう言った。

「彼は、私がいないと何もできませんからね」

 ラーベロイカは、吹き出しそうになるのを、必死にこらえた。それが、せめてものこの場の礼儀だ。

「私も、身の振り方を考えなければいけませんね」

 ラーベロイカは息を整え、心を鎮めてそう言った。

「タケルヒノとお話してみようと思います」

「それは、たいへん良い判断です」

 ヒューリューリーはすまし顔で言った。

「では、特使殿、これで失礼します。あなたの未来に幸あらんことを」

 そう言うと、ヒューリューリーは、するすると廊下を進んでいった。

 

「お話ししたいことがあります」

 話しを持ちかけられたタケルヒノは、どうぞ、とラーベロイカに椅子を勧めた。

「あの、いまじゃなくて」

 あわてて尻込みするラーベロイカ。

「その…、あとで、お時間取っていただきたくて、長くなりそうなので…」

「あ、そうですか、じゃあ、夕食後にでも」

「ありがとうございますっ」

 僕はいまでもいいんですけど、とタケルヒノが言おうとした時には、もう、ラーベロイカの姿は消えていた。





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