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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ライザケアル(12)

ライザケアル(12)

 

「ご苦労様、いつも面倒をかけて申し訳ない」

 一段落ついたタケルヒノは、ボゥシューをビュッフェに誘った。

「あ、まあ、それほど面倒なことじゃないし、その…」

 ボゥシューは、いざ、テーブルに座ってタケルヒノと相対すると、ラーベロイカのことをどう言ったらいいのか、迷って言葉が出なくなってしまった。

 尻切れトンボで押し黙ってしまったボゥシューに、タケルヒノのほうが切り出した。

「それで、ラーベロイカのことなんだけど」

 タケルヒノから逆に切り出されて。ボゥシューは、肩が軽くなったような気がしたが、それはおくびにも出さずに、短く返した。

「見たのか?」

「まあね」タケルヒノは診療データをのぞき見たことに対して悪びれる様子はない「とくに隠してる素振りもなかったからね」

 ボゥシューもそれを責める気はさらさらなかった。

「隠したら、もっと早くバレるしな」

 しばし、テーブルをはさんで、静寂がおとずれた。

 なるべく軽く話題を流そう、と両人が考えているのはよくわかるが、だからと言って、歯車が噛み合うとか、そういうわけにはいかないところが難しい。

「で、どう思う?」

 しかたがないので、ボゥシューが水を向けてみた。

「僕みたいな性質は、たぶん遺伝とかしないと思うからなあ」

 ま、そうだろうな、とボゥシューは相槌を打った。

「でも、そんなの相手も覚悟のうえだろうし、言ったって聞かないんだろうな」

 そうだな、とボゥシューは2度めの相槌を打つ。

「ただなあ、ただでさえ僕の子供なんて、面倒くさい人生を歩まされそうなのに、そんな重しまでかぶせるのはごめんだなあ」

 へえ、いちおう考えてるんだ、とボゥシューは思った。

「子供欲しくないのか?」

 なんとなく流れで、ボゥシューは聞いてみた。

「そりゃ、欲しいけどさ」

 タケルヒノは答えた。

「とりあえず、目の前の面倒事を片付けなきゃ、とてもじゃないが無理だろう」

「面倒事な、確かにそうだ」

 ここから数分、タケルヒノの愚痴が続いたが、ボゥシューは適当に流していた。タケルヒノの愚痴は、あまり長いと堪えるが、数分程度なら、ボゥシューにとって、そんなに苦にはならない。タケルヒノは同じことを何度も繰り返したりしないので、愚痴はそのたびに違う話しになる。よくもまあ、こんなに不平不満の種があるもんだ、と逆に感心するほどだ。

「ピノキオ、って知ってる?」

「え? 何だって?」

 タケルヒノの悪い癖のひとつで、話が唐突に切り替わる。わけがわからないので、ボゥシューは、思わず聞き返した。

「ピノキオ、木でできた人形なんだけど、洋梨を食べるんだ」

「知ってるけど、梨以外も食べてた気がするぞ」

「梨の皮も食べる」

「そうだな」

「梨のへたも食べる」

「…そうだ」

「それで、いろいろあって女神に苦い薬を飲むように言われるんだが、当然、ピノキオは、そんなの飲まないって言う。女神は口直しのお菓子をあげるから、と言うんだが、ピノキオは女神を騙して、先にお菓子を食べてしまう。そして逃げようとするんだけど、死んでしまうよ、とか女神に脅されて、とうとう、薬を飲まされるんだよ、苦いやつね」

「何が言いたい?」

 タケルヒノはおどけるように目をまんまるにした。おかしな話しだが、こういう顔のタケルヒノは意外と真剣なときが多い。

「たぶん、お菓子を食べないで、その前に薬を飲んだら、ピノキオはそこで人間になれたんだ、と僕は思う」

「そうなのか?」

「そうだ、そしてその後のサーカスもクジラのお腹もなしで、ゼペットじいさんと幸せに暮らす」

「人間になる薬だったのか?」

「違う。そんなものはない」

「なるほど」

「だから、苦い薬が出てきたら、僕はすぐに飲むことにしてるんだよ」

 どうやら、それがタケルヒノの結論らしい。どうだ、と言わんばかりの笑顔を、タケルヒノはボゥシューに向けた。

「そういうわけで、子供はそのあと」

 

「新しい宇宙船は、いまの宇宙船(ボード)によく似ていますね」

 コンソールに新しい宇宙船の設計図を出して眺めるサイカーラクラに、ジルフーコが言った。

「似ているっていうか、同じものだよ。火星を離れて以降、改修した分も含めて同じにした」

 不思議そうな顔のサイカーラクラ。

「でも、宇宙船(ボード)にはダーに不要な設備も多いですよ。みんなつけちゃったんですか?」

「みんな、つけちゃいました」

 ジルフーコは言う。サイカーラクラの真似だが、あいかわらず、上手くない。

「どうして?」

「そのほうが楽だというのが、まずひとつ、不要だからって外したら、その部分の強度計算やら何やら、全部、やりなおしだからね。あとひとつは、何が必要になるかはわからない、ということ、あれこれ考えるより、同じもの造ったほうが早い」

「そうですか、同じにしたほうが、結局は楽なんですね。ダーは何て言ってました?」

「ダーの言い方はちょっと違ったかな、わたしはこの宇宙船(ボード)が好きなので、すっかり同じにしてください、と言われたよ」

「ああ、それならわかります」

 サイカーラクラは、そう言うと、困りますね、という顔でジルフーコを見つめた。

「最初から、そう言ってくれれば良かったのです。ジルフーコの言い方はいつも難しいから困ります」

 そうかなあ、ジルフーコは笑いながら、頭をかいた。

 

「わあ、すごいですね」

 農園(ファームゾーン)に入って、ラーベロイカは驚嘆の声を上げた。

「むこうが、じゃがいもで、あっちがトマトとインゲン。手前はほうれん草の種を蒔いたばかりだから、気をつけて」

 ビルワンジルが指差しながら説明する。

「穀物はどこですか?」

「穀物類はやってないなあ」

 ラーベロイカの問いにビルワンジルが答える。

「穀物と肉はオーダーシステムで合成してる。そのほうがエネルギー喰わないから、野菜は趣味だな。贅沢品だよ」

「私も、物心ついてから、ずっと軌道ステーションにいたので、そのへんの事情はわかります。じゃあ、みなさん、ここで思い思いに野菜を育てているのね」

「いや、実際に育ててるのはオレがほとんどで、あとはダーとタケルヒノぐらいだよ。タケルヒノはもっと来たいみたいだが、忙しくてほとんど来れない」

「え? そうなんですか?」

「あたしはさあ、ランニングコースには、いれてるんだけど」

 イリナイワノフは言い訳しながら、ちょっぴり、すまなそうだ。

「休憩して、ビルワンジルが働いてるのを見たりはするんだけど、野菜とか、育てるの、あんま得意じゃないんで」

「もったいないですね、こんな広いのに」

「うん、なんかさあ、嫌いじゃないんだけど、あたしが触るとみんな枯れちゃうんで…、その、ビルワンジル、いろいろ教えてくれるんだけど…」

 あ、と思い当たることがあったので、ラーベロイカはあわてて話題をかえた。

「ダーも、ってお話しでしたが、あぜ道とか、あの車輪で大丈夫なんですか?」

「ここに来るときは、専用ボディに着替えてくるからな。荒地仕様だよ」

「へえ、スゴイですね。本格的なんだ。」

「ま、最近は、ほとんどオレばっかりだけどな。ダーも料理のほうが忙しいから、あまり顔を出さない。ダーの入り用なのをオレが採ってくる感じだ」

「ジルフーコとかジムドナルド、って、あんまりこういうの興味なさそうですものね」

「いや、ジムドナルドは来るぞ」

「え? ほんと?」

 驚いたのはラーベロイカではなく、イリナイワノフだ。

「あたし、けっこう、ここ来るけど、ジムドナルド見たことないよ」

「そりゃ、そうだろ、アイツ来るの、夜中、っていうか、照明が消えてからだから」

「何で来てるってわかるの?」

「トマトのへたとか落ちてるんだよ。ザワディはここのもの食わないし、歯型見ても人間のだから、食うとしたらアイツぐらいしか思いつかん。じゃがいもの茎なんて、生で食ったって不味いと思うんだが、何で食うんだろ?」

 そう言って首をひねるビルワンジルに、イリナイワノフも、ラーベロイカも、何も言うことができなかった。

 


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