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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ライザケアル(11)

 

 ダーは、ビュッフェでいちばん大きな椅子に向かい、パワーウィンチの先をひっかけると、上昇して座席に収まった。慣れたものだ。

 ラーベロイカは、ダーの向かいの席に腰掛ける。

 ほどなく、別のケミコさんが、天板にカップを乗せてやってきた

「ホットココアです」

 ダーは、作業腕(アーム)を伸ばすと、ケミコさんの天板からカップを取って、ラーベロイカの前に置いた。

「よろしかったら、どうぞ。他のものが良ければ、遠慮なく言ってくださいね」

「あ、いえ、ありがとうございます」

 ラーベロイカは、一口ココアを口に含んだ。暖かくて優しい味がした。

「どうですか? 宇宙船(ボード)のみんなと、ちゃんとお話しできてますか?」

「ええ…、たぶん」

「そう、良かった」

 ダーは言った。

「悪い子たちでは、ないんですが、ほら、ちょっと変わったところがあるでしょう。心配してたんです」

 ラーベロイカは困ってしまったが、こういうことはあまり正直に言っても良いことはないので、はあ、まあ、などと適当にごまかした。

宇宙船(ボード)の行き先は、ファライトライメンだと伺ってますが」

 ラーベロイカは手遅れになる前に、自分から話題を切り替えた。

「ダーはどちらへ行かれるのですか?」

「それは、まだわかりませんね」

 ダーは答えた。

「この胞宇宙(セルベル)に接する胞障壁(セルレス)に、わたしが超えられるものがあるのがわかっただけです。抜けた後にどこに出るかは、ちょっと良くわかりませんね」

「そういうものなのですか?」

「そういうものなのです」

 オウム返しをしたあと、数秒間停止したダーは、いきなりラーベロイカに問い質した。

「ラーベロイカ、あなた、他に聞きたいことがあるようですね?」

 ラーベロイカは、一瞬、頭に浮かんだことがあったのだが、即座にそれをを打ち消し、慎重に言葉を選びながら、話しだした。

「私が胞障壁(セルレス)を超える方法はありますか?」

「それを私に聞かれても」

 ダーはときどき笑うのだが、何をもってダーが笑ったというのかは、その場にいた者しかわからない。

「そういうことは、タケルヒノか、ジムドナルドに聞いたほうがいいですよ」

「ジムドナルドは無理だと言いました」

「ジムドナルドが?」

 間髪入れずにダーが聞き返し、それもあって、ラーベロイカは急にどぎまぎしだした。

「ジムドナルドが、そんなことを言うはずはありませんよ。思い出して、本当は、ジムドナルドがどう言ったのか」

 ああ、と、ラーベロイカは、ここ幾年か分の後悔を一気にした。

私たち(丶丶丶)には無理だと言いました。でも、()なら可能性はあるそうです」

「それを聞いて、安心しました」

 ダーは言った。

「ジムドナルドが急に馬鹿になったのかと思って、びっくりしたわ」

「ごめんなさい、ジムドナルドのことを悪く言ったつもりはなかったんです」

「そんなに、しょげないで、ラーベロイカ。でも、ジムドナルドが、そう言って、あなたがそれをちゃんと憶えているのなら、もう問題はないですね」

 ラーベロイカは、はた、と困った。

 意外と良い思いつきだと考えたのだが、ダーには通じなかった。当たり前かも、相手は第2類量子コンピュータなのだし。すると、最初に頭に浮かんだアレを言わなくてはならないのか。

――それは嫌だ

「ねえ、ラーベロイカ」

 ダーは、優しくはあるが、何者をも畏怖させる威厳を持ってラーベロイカを促した。

「言いたくなければ、言わなくていいけど、言ったほうが楽になれますよ」

 ラーベロイカは、結局、我慢できなかった。

「ボゥシューから、何か聞きました?」

「いえ、ぜんぜん。でも、ボゥシューの医療機器も実験設備もすべてコンピュータに接続されていますから、彼女が何をしているのか、もちろん、全部わかりますけど」

 ラーベロイカは長い嘆息をついた。

「他の人も気づいてると思いますか?」

「それは、なんとも」

 めずらしくダーの歯切れが悪い。

「でも、あの子たちには、わたしより頭の良い子が何人もいるので」

「理論上は、あなたって、宇宙全体を集めたのと同じくらい賢いのじゃなかったですか?」

「まぁ、そうですけど。あの子たちは、その、宇宙全体よりは少し賢いみたいなので…」

 ラーベロイカは、両手で顔を覆った。

「だめです。私、恥ずかしくて、もう、みんなと話せない」

「あー、そう? でもね」

 うろたえている風ではないのだが、こういうときのダーは意外と頼りない。

「あなたさえ、気にしなければ、みんな、あまり、そのことは知らないふりをすると思うの」

「知らないふり、って、それ、知ってるってことじゃないですか」

「でもね、ラーベロイカ」

 ダーは辛抱強く、語りかけた。

「あの子たち、そういうことには慣れてるの。サイカーラクラのことも、そして、タケルヒノのことも」

「サイカーラクラ、のこと?」

「あの子は励起子体(パウフラニア)です。みんな、この宇宙船に連れてこられて、すぐそのことに気づいたけど、誰も何も言わなかった」

「本当ですか? でも、どうして?」

「わからない、この宇宙船にはわからないことが多すぎる。でも、それよりわからないのは、タケルヒノのこと」

「タケルヒノ? タケルヒノの何がわからないの?」

「いえ、タケルヒノのことは、わかるのです」

 ダーは部分否定した。いや、この場合、部分肯定だろうか。

「納得しづらいけど、でも、事実がそうである以上、認めざるを得ない。タケルヒノのことはいい、そういう者なら、それはそれで仕方のないこと。不思議なのは、他の子たちが、タケルヒノと普通に付き合っていられることです」

「何がそんなに不思議なの?」

 一瞬の間を置いて、ダーの口調がとても柔らかなものになった。

「ねぇ、ラーベロイカ」ダーは詠うように言った「あなた、神様(丶丶)と友だちになれる?」

 話の突然の飛躍に、ラーベロイカは絶句した。押し黙って身動きもできない。

「わたしは、なれない。コンピュータだから」

 ダーは言った。

「だから、とても不思議なのです」

 


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