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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ライザケアル(9)

 

「ジムドナルド、って、やっぱり、ちょっと変ですよね」

 検疫室(スプリットルーム)でベッドに横たわりながら、ラーベロイカが言う。

 もう、ラーベロイカの検疫はすんでいるのだが、医療用の測定機器がこの部屋に集中していることもあって、ボゥシューはここで診療を行っている。

「そうかなあ」

 ボゥシューはリモートDNAアナライザーの出力を確認しながら答える。

「うちの乗組員(クルー)の中じゃ、人がましいほうだぞ。タケルヒノだのジルフーコだと、そもそも人間の思考をしてるのかどうかすら怪しいからな」

「コンピュータみたいとか?」

「それなら、わかりやすい。ダーみたいに論理的なら話しは早いからな」

「ダーって、第2類量子コンピュータの?」

 ラーベロイカはこの間の話から第2類量子コンピュータのことについて調べたのだが、かつて、ダー胞宇宙(セルベル)にあったこと、(ニム)乗組員(クルー)に同行していることしか、わからなかった。

「ダーは、話しがわかりやすいし、優しいから、さすが、コンピュータって感じだな」

「タケルヒノは違うの?」

 ボゥシューはスキャンを止めて、しばし考える。

「個別の話しをしていても、すぐ宇宙全体の話しになってしまうんだ。タケルヒノに言わせると、部分部分を統合しても全体にはならないから、部分を論ずるには全体を考えないといけないらしい。ごもっともな話だが、普通、そんなことできるわけないからな」

「あの、意味がよくわからないんですけど…」

「個々の行動を決めるのに、宇宙全体のことを考慮してるらしい。本人じゃないから、本当のことはよくわからんが」

「どうやったら、そんなことができるの?」

「魚が泳ぐように、鳥が飛ぶように」

 ボゥシューは、いつかタケルヒノがダーに説明するのに使った喩えを引用した。

「ほとんど無意識でやってるらしいから、隣にいると大変だよ」

――もしかすると、私、とんでもないところに来てしまったのじゃ、ないかしら

 後悔したわけではない、宇宙が難解過ぎることに、とまどっているわけでもない。

 それでも、ラーベロイカは、そんな話(丶丶丶丶)をもののついでのように話すボゥシューに、驚かずにはいられなかった。

 

「ダーですか?」

 サイカーラクラは、ダーのことを聞かれると何かうれしそうだ。

「ええ、私のお母さんです」

「あの、それ、前にも聞いたんですが」

 ラーベロイカは、サイカーラクラのことが嫌いではなかったが、話していると、ときどき、とてつもない徒労感に襲われる。

「いったい、どういうことなんですか?」

「私は、励起子体(パウフラニア)ですが」

 サイカーラクラは言う。

「初期構成時にダーの真部分集合(サブセット)を使ったので、私はダーの娘なのです」

「ダーが、あなたを造ったのですか?」

 いいえ、とサイカーラクラは否定する。

「私を造ったのは、第一光子体(ピスリーニア)らしいです。もっとも、私はそのころの記憶が抜け落ちているので、あまりよくわからないのですが…」

「ダーは、何故、あなたたちと同行しているのですか?」

「ダーが超えられるタイプの胞障壁(セルレス)を探すためです。それは、見つかりました。私たちは、今、ダーの新しい宇宙船を建造中です」

「どういうこと?」ラーベロイカは激しく動揺した「第2類量子コンピュータ計画は失敗だと聞いていたのに」

「ダーは、胞宇宙(セルベル)ダーの胞障壁(セルレス)を超えられなかっただけです。タイプさえ合えば、ダーは単独で胞障壁(セルレス)を超えられます」

「それなら、第2類量子コンピュータをもっとたくさん造れば…」

 ラーベロイカは興奮して詰め寄った。

光子体(リーニア)にならなくても、胞障壁(セルレス)を超えて、他の胞障壁(セルベル)に行ける?」

「さあ? それは、どうでしょう」

「え?」

「第2類コンピュータ同士なら、相補的に自分の超えられないタイプの胞障壁(セルレス)を助けあって超えれば、やがて近接胞宇宙(セルパッハベル)全域の踏破も可能でしょうが、生身の知性体が第2類量子コンピュータに随行して、胞障壁(セルレス)を超えるのは、かなり難しいと思いますよ」

「何が問題なの?」

胞障壁(セルレス)踏破には2つの問題があります」

「2つ?」

「はい、1つめは、数学障壁である胞障壁(セルレス)を解いて道を見つけ出すことが非常に困難なこと、そして、もう1つは…」

「ほとんどの知性体、情報体は、胞障壁(セルレス)内で自分自身を維持するのが極めて困難だ」

 振り返ると、そこにジムドナルドがいた。

「それが、最初の光子体(ピスリーニア)と俺たち以外、直接、胞障壁(セルレス)を超えられない、もうひとつの理由だ。実際、毎度のことながら、アレはけっこうキツイ。光子体(リーニア)の中で胞障壁(セルレス)内で自分を見失うことがないのは、最初の光子体(ピスリーニア)だけだし、実体があっても、ライザケアルで選別プログラムをクリアできないようなヤツは、おそらく全滅だ」

 ジムドナルドは自分のソファに身を投げ出して寝転ぶ。

「あと、もうひとつ。いま、いちばん胞障壁(セルレス)を超えたいのは、宇宙皇帝だ。それさえできれば無敵だからな、アイツ。だから、アイツを何とかしないうちは、胞宇宙(セルベル)間の自由な行き来なんて、絵に書いた餅だよ」

 


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