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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ライザケアル(8)

 

「え、べつに1人で大丈夫ですよ」

 ラーベロイカは社交辞令ではなく、本気で断ったのだが、ボゥシューは意に介さない。

「イリナイワノフが、うるさいんだ。ちゃんとジムドナルドから守れ、って言われてる」

 建前上、ラーベロイカは特使で、ジムドナルドは乗組員(クルー)の全権代行だと言っている。ラーベロイカ自身、あまり意味のないことだとは思っているが、とりあえず、話しかけるきっかけにはなる。

 できれば、2人だけで。

 ラーベロイカの、はかない希望ではある。

 まあ、2人だけ、は、いくらなんでも無理だろうが、隣にボゥシューがいるのはキツイ。

「どうしてイリナイワノフじゃなくて、ボゥシューが付き添いなんですか」

「ワタシもよくわからんが」

 ボゥシューは他人事みたいに言う。

「ワタシがいれば、ジムドナルドはいたずらしない(丶丶丶丶丶丶丶)んだそうだ。イリナイワノフが言ってた」

――そりゃぁ、そうでしょうけど

 なにごともあきらめが肝心、ラーベロイカは、そう思って無理やり自分を納得させた。

 とにかく今は、前に進もう。

 

 今日は、ジムドナルドは起きていた。

 ソファの上でぽんぽん跳ねている。

 かわいいな、とラーベロイカは思った。

「よう、お嬢ちゃん、ご機嫌かい?」

「お話しがあるのですが」

 まあ、座りなよ、とジムドナルドは椅子を2脚勧め、片方にラーベロイカが、もう片方にボゥシューが座った。

 ジムドナルドは自分の椅子も持ってきて、2人に向き合う位置に腰掛ける。

「さあ、何でもどうぞ」

 にこやかに笑いながら、両手を広げて、ジムドナルドが言う。

「まず最初に、特使と言っても、私の言うことは、全ライザケアルを代表するものではないことをご理解ください」

 前口上だ。ラーベロイカも自分で言いながら、白々しいと思う。

「うん、いいよ」ジムドナルドは答えた「こっちのほうは、俺がいいと言ったらタケルヒノも必ず同意するから、そのまま確約されたと思ってもらっていい」

 ラーベロイカは驚いて、隣りにいるボゥシューに目を向けた。ボゥシューは平然としていて、とくに反論する様子はない。

 口もきけずに見つめるばかりのラーベロイカに、ボゥシューが促すように口を開いた。

「そいつは嘘つきだけど、いま言ったのは本当だから、安心していい。逆に言ったら、そいつはタケルヒノが約束できないようなことは、けっして妥協しないから、そのつもりで」

 こう言われては仕方がない。けおされつつも、ラーベロイカは話し始めた。

「私たちの望みは、胞障壁(セルレス)を超えて、他の胞宇宙(セルベル)と交流することです」

「できるよ」ジムドナルドは答えた「光子体(リーニア)になればいい。実際、君たちはそうしている」

光子体(リーニア)にならないで、です」

「無理だな」

 ジムドナルドは即座に言った。

「無理、でしょうか?」

「それが君たち(丶丶丶)の望みなら無理だ。だが、()の望みなら可能性はあるかもしれない」

 ラーベロイカは嘆息をついた。それは聞くまでもなくわかっていたことだ。

「建前抜きで言えば」

 押し黙ってしまったラーベロイカの代わりに、ジムドナルドが話しだした。

光子体(リーニア)にならずに、生身のままで胞障壁(セルレス)を超えるのは、光子体(リーニア)になるより、はるかに難しい。1メートルの塀が超えられないので、代わりに、100メートルのビルを超えようというのと同じことだ」

「でも、彼らには、そんなことはわかりません」

「だから、それは、彼らの問題で、君の問題じゃない」

 まあ、そのとおりだ。

 彼ら―大多数のライザケアル人、に対して、ラーベロイカは本来、責任などないはずなのだ。ただ、責任あるふりをすることで、ここまでやって来れた。何のことはない、彼らを、胞障壁(セルレス)を超えてきた宇宙船に潜り込むための口実にしていただけだ。

 ラーベロイカは話題を変えてみた。

「ライザケアルの光子体(リーニア)生存率が低いのは何故だと思います?」

「諸説ある、っていうだけじゃダメかい?」

「あなたの考えが聞きたい」

「デルボラだろ」ジムドナルドはあっさり答えた「宇宙皇帝の光子体(リーニア)への干渉は、すべてコントロールされているとは言い難いものがある。好きでやってるわけじゃない、って言うのが向こうの言い分だろうがな」

「でも、それは、ファライトライメンも同じはず…」

「違うな」

 ラーベロイカの反論は、ジムドナルドに遮られた。

「ファライトライメンは、そうと知って対処しようとした。ライザケアルは、うすうす感づいているが、見てみぬふりをしている。違いは大きい」

「私たちに、宇宙皇帝と戦え、と言うの?」

「いや、そんな必要はないだろ」

「じゃあ、どうしろと?」

光子体(リーニア)にならずに、生身のまま、胞障壁(セルレス)を超えればいい」

「あなた、さっき、それ無理だって、言ったじゃない」

「そりゃ、言ったさ」

 ラーベロイカがいくら叫んでも、その程度で動じるジムドナルドではない。

「無理を通さなきゃ、何だって、現状のままだ。現状が八方塞がりで、どうしようもないんなら、とりあえず、無理してみるより、しょうがないだろ」

 

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