表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/251

ライザケアル(5)

 

「ごきげんいかがですか? ラーベロイカ」

 素顔のままで検疫室(スプリットルーム)に入ってきたサイカーラクラを見て、ラーベロイカが驚きの声を上げる。

「大丈夫ですか? 防護服なしで。ボゥシューに怒られますよ」

「私は励起子体(パウフラニア)なので」

 サイカーラクラが答える。

「体内細菌や寄生ウイルスの心配がないので、ボゥシューの検疫プログラムから外れています。ケミコさん(丶丶丶丶丶)と同じようなものだと思ってもらえばいいです」

ケミコさん(丶丶丶丶丶)?」

「お手伝いのロボットです。私たちはケミコさん(丶丶丶丶丶)と呼んでいます。ケミコさんの名前の由来は…、ええっと…、何でしたっけ…」

 るる、と小さな走行音を鳴らしながら、ケミコさんが天板にオレンジジュースを乗せてやってきた。

「この子がケミコさんです。この子だけではなくて、たくさんいますよ。みんなケミコさんです」

「そういうことなら」ラーベロイカは防護服のヘルメットを脱いだ「あー、すっきりした」

 ラーベロイカの紫に透ける髪が揺れる。

「ジュースいかがです?」

 サイカーラクラは、ケミコさんの持ってきたジュースを勧めた。

「お口に合わないようでしたら、他のを持ってきます」

 勧められるままに、ラーベロイカは、ひとくちジュースを口に含んだ。

「おいしい」

 そのまま、半分ほど飲み干してしまった。

「よかった。おかわりもありますよ。他のものが欲しかったら、遠慮なく言ってください」

「あなたのように、他の人と防護服なしで話せるようになるのは、いつ?」

「ライザケアル第3惑星の自転周期の3・22倍です。ボゥシューが言ってました」

「あと、3日かぁ」

「その間も小宇宙船(ダート)は航行していますから、10日ほどで、私たちの母艦につきますよ」

 え? と、ラーベロイカは目をまんまるにした。

「いいんですか? 私、母艦まで行っても?」

「行きたくありませんか?」

「いえ、違うんです」ラーベロイカは、あわてて首をぶんぶん振った「私、あなた方の母艦に連れてってもらえるように、これからお願いするつもりだったんです。どうやって、お願いしよう、そればかり考えてて…」

「それは、良かったです」

 サイカーラクラは微笑んだ。そして脈絡もなくラーベロイカに向かって言う。

「あなた、美人ですね」

 え? と、さっきにも増して、ラーベロイカは大きく目を見開いた。

「いきなり、何を…、あなたこそ、とても綺麗…」

とまどうラーベロイカの瞳をのぞき込むように、サイカーラクラは顔を近づけた。

「私、そういうのは、実はあまりよくわからないのですが、それでも、あなたがボゥシューやイリナイワノフと同じように美しいのはわかります」

「だって、サイカーラクラ、あなた、すごい美人ですよ。それとも私のこと、馬鹿にしてる?」

 徐々に怒りすら帯びつつある、ラーベロイカの口調に、サイカーラクラはふたたび微笑んだ。

「たとえ、あなたの言うように、私が美人なのだとしても、それは私にとって何の益にもならないのです。でも、ラーベロイカ、あなたは違う」

 唖然とするラーベロイカを残し、また来ます、と言って、サイカーラクラは部屋を出た。

 

「や、ラーベロイカ。ボゥシューのお許し出たよ。ヘルメット取っていいって」

 そう言って駆け込んできた、イリナイワノフの金髪(ブロンド)が揺れる。ライザケアルでは希少な金髪(ブロンド)が、ふわりとなびく様に、ラーベロイカは少なからぬ嫉妬をおぼえつつ、自分のヘルメットを脱いだ。

「ありがとう、じゃあ、もうこの部屋を出ていいのね?」

 うーん、と唸って、イリナイワノフは困った顔になった。

「それがねぇ、部屋はまだ出ちゃダメなんだって」

「どうしてですか?」

「あんまり、よくわかんないんだよね。お昼食べたら、ボゥシューが来るから、そしたら、説明するから、それまで待ってて、だって」

「はあ」

 落胆した様子のラーベロイカに、イリナイワノフは持参のサンドイッチを勧める。

「ね、元気出して、お昼一緒に食べない?」

「ありがとう」

 イリナイワノフは自分でもサンドイッチにパクつくと、飲み込んでしゃべりだした。

「ボゥシュー、ってさ、頭良すぎて、ときどき何考えてんだか、わかんないことあるんだよね」

「そうなんですか」

 ラーベロイカも、おずおずとサンドイッチに手をのばす。

「何考えてるのかわからない、って言ったら、サイカーラクラも、よくわからないけどね」

「あ、そういうトコ、ありますね」

「サイカーラクラに、何か言われたの?」

「私のコト、美人だって」

 イリナイワノフは、まじまじと、ラーベロイカを見つめた。

「美人じゃん、別におかしくないよ」

 ラーベロイカは、説明しようと試みたのだが、あのとき受けた感じを言い表すことはできなかった。

 ラーベロイカは笑ってごまかした。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ