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ワンダー7  作者: 二月三月
超重力の罠

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ライザケアル(4)

 

「1人だって?」

 ボゥシューが聞き返す。

「そうだ」ジムドナルドが答えるも、少々、不審げだ「特使が1人なのは、当たり前だが、随行もなしだ。そのかわり、長期間の交渉を求む、と、あるな」

「長期も短期も、こっちの手間は一緒だから、人数が少ないのは嬉しいが、何か裏でもあるのか?」

「ヒューリューリーも1人だったが、あいつの時は、タケルヒノが無理に減らしたからなあ」

「長期間の交渉、って、目的は何だ?」

 知るかよ、というジムドナルドだが、その口ぶりとは違って、向こうの思惑は透けて見えるらしい。

「そもそも、交渉事なんてのは、双方に利点があって成り立つもんだからなあ。ライザケアルは、こっちからいろいろ引き出したいものはあるんだろうが、こっちはライザケアルに期待するものは何もない」

「そういうのが一方向なのは、いまに始まったことじゃないだろ」

 ボゥシューが言い、ほんの少し間をおいて、続けた。

「ワタシらも、結局は、タケルヒノに頼りっぱなしだからな」

「その分、引け目があるから、こういうのは断りにくい」

 ジムドナルドは口端を歪めて笑ったが、ふと、何かに思い当たったらしく、言った。

「むこうは、そんなこと知らないはずだが、誰かバラしたやつでもいるのか?」

 いるかも知らんが、いなくても筒抜けだろ? とはボゥシューの弁で、ジムドナルドも、それには同意せざるを得なかった。

 

「特使って、どんな人かなあ」

 イリナイワノフの疑問に答えるべく、サイカーラクラはコンソールをいじって、数対の男女イメージを投影した。

「典型的なライザケアル人(ライザケアリア)はこんな感じです。

 たぶん、イリナイワノフの質問意図とは、ズレていたのではないかと思われるのだが…。イリナイワノフは別に気にならないらしく、その内の1人を指差して、言った。

「イアンゴドノフ大佐に似てる」

「誰ですか?」

「たまに、先生(丶丶)に会いに来てたんだ」

 先生(丶丶)というのはイリナイワノフの養父のことだ。イリナイワノフより、ちょっとだけ強かったらしい。

「すると、ライザケアル人(ライザケアリア)は地球人に似ているということですね」

「うーん、でも、どっちかって言うと、大佐はこの人より熊に似てたな」

「では、地球人と熊の中間ぐらいが、ライザケアル人(ライザケアリア)ということですね」

「違う、違う。大佐のほうが熊に似てるんだよ。だから順番は、この人、大佐、熊」

「ふむ、地球人は、ライザケアル人(ライザケアリア)より熊に近いということですかね」

「そうかなあ」イリナイワノフはあまり納得出来ない顔で、別の人物を指した「この人、美人だね。こっちの人、かっこいいし」

「そうですね。でも、こういう顔の人、ライザケアルでは、少ないらしいです。先駆体(リーンファニディア)メンバーが、このタイプらしいですけど」

先駆体(リーンファニディア)メンバーって?」

「歳をとったら光子体(リーニア)になる人たちです。ライザケアルでは少数派です」

「そっかあ、大佐が多いのか」

「そうみたいですね」

「大佐、苦手なんだよな。理由もなくあたしのこと睨むし」

「熊もですか?」

「熊はそんなことしないよ」

「では、よろしいのでは?」

 その後も、イリナイワノフは、大佐かあ、とボヤいていた。

 

 ライザケアルの衛星軌道ステーションに沿う位置に、小宇宙船(ダート)の軌道を修正した。

 コンソールには、ステーションから分離した小宇宙艇(ポッド)の予想軌道が破線で描かれる。

「何だ? 映像に切り替えろって?」

 ジムドナルドが言うより先に、コンソールに小宇宙亭(ポッド)からの映像が飛び込んできた。

「こんにちは、ラーベロイカです」

「あ、さっきの美人さんだ」

 コンソールをのぞいて言うイリナイワノフに、サイカーラクラが訂正を入れた。

「似ていますが、違います。彼女のほうが、もう少し美人です」

「お願いがあるんです」

 ラーベロイカは言った。早速かよ、とジムドナルドは思ったが、顔には出さない。

「私、軌道ステーション暮らしが長いので、ライザケアル現住の細菌やウイルスはかなり少ないんです。だから、そちらで指定のあった検疫プログラムを短めにしてもらえませんか?」

「検討はしてみてもいいが」

 送信映像を切り替えて、ボゥシューが答えた。

「そっちの分は減らせても、こっちの分は減らせない。アナタが死んだら困るからな」

「それは、あまり気にしないで」

 ラーベロイカが言った。

「身内には、もうお前は死んだものだと思ってる、って言われてるから。ところで、あなたは誰?」

「ボゥシューだ。最大限短縮しても3分の2だ。それ以上は無理」

「ありがとう、ボゥシュー、早く、会いたい。あとは、どなたが来てるんですか?」

「こんなもんだな」

 ボゥシューはカメラを引いて全員の顔が映るようにした。

「ワタシのとなりが、イリナイワノフとサイカーラクラ、腕くんで立ってるのがビルワンジル、で、あそこでソファに寝てるのがジムドナルドだ」

「ジムドナルド? あの(丶丶)、ジムドナルドが来てるの?」

 ボゥシューはカメラを調整して、ジムドナルドを正面に据えた。

 余計なことすんなよ、と言いたげな顔をボゥシューに向けたのは一瞬で、ジムドナルドはソファから跳ね起きると、満面の笑顔でカメラに語りかけた。

「やあ、レディー、お会いできて光栄です。私がジムドナルド、今回は全権を持ってあなたをご招待します。以後、長いお付き合いとなるでしょうが、ライザケアルとタケルヒノの将来、共に栄えんことを互いに期して、有意義な会合といたしましょう」

 


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