ライザケアル(1)
「宇宙船はどこで造る?」
「第6惑星かなあ」
タケルヒノの問いに、ジルフーコはコンソールにデータを流しながら答えた。
「木星型の大型惑星だから、大気からの軽元素の収集は十分、衛星も大きいから他の元素もなんとかなりそうだ。あとはベースになる小惑星があるといいんだけど、それは近くに行って探してみないとわからないなあ」
「まあ、それは行けばなんとかなるでしょ。とりあえず、第6惑星に行こうか」
「それはそうと、フラインディルからメッセージが届いてるんだけどさ」
ジルフーコは、くく、と笑う。
「メッセージ?」
怪訝そうに、タケルヒノが問いかけの語尾を上げる。
「いつもは、勝手に入ってきて、ぶちぶち言ってるのに、何でまた」
「会って欲しい人がいるんだってさ」
「誰に会えって?」
「ま、読んでみれば」
タケルヒノはメッセージに目を通した。まわりくどい言い回しで、そちらの都合がつけば、とか、とくに断っても不利になるようなことはない、とか、お願いであって強制ではない、とかいう類似の語句が何度も繰り返されている。
タケルヒノは、うんざりした顔でジルフーコに視線を送った。
「これって、送り先すらないんだけど、僕あてなの?」
「まあ、そう思ったほうがいいと思うんだけど。なんならスラゥタディルにでも聞いてみる?」
いや、いいよ、と言って、タケルヒノはメッセージの返事を書き始めた。
返事を送ってすぐにフラインディルは現れた。
どこかに隠れて様子をうかがっていたのではないかと、疑うほどのすばやさだ。
もう一人、光子体を連れて来たいと、メッセージにあったので、小宇宙船のほうを指定したのだが、タケルヒノが小宇宙船に移動するほうが時間がかかったくらいである。
「で、こんどは何だよ?」
と、ジムドナルド。タケルヒノが着くより先に、フラインディルに問い質している。
気まずそうなフラインディルの隣に、光子体が1人。
タケルヒノは、どこかにスラゥタディルがいるのじゃないかと、あたりを見回している。
「あ…、その、彼に会って欲しい…、というか、まあ、彼も単なる使者なんで、ボクのほうから話してもいいんだけど…、ボクはライザケアルの住人じゃないし、その…、第3者的な立場として、あまり立ち入った話しは…」
もし、様子見に来ているのなら、キレたスラゥタディルが出てきているだろう。そうではないので、いないみたいだ。代わりにタケルヒノが言った。
「どちらでもいいので、早く要件を」
「ライザケアルの特使に会っていただきたいのです」
フラインディルの隣にいる光子体が、おずおずと申し出た。
「特使、って、あんたじゃないの?」
言ったのはジムドナルドだが、まあ、ジムドナルドでなくても聞きたいところだ。
「いや、私も使者ですが、私は、本当の特使とあなた方を会わせる合意をいただくための、そのための使者というか…」
「あー、ボクのほうから補足すると」
フラインディルは、ライザケアルの使者に目配せしながら、話しだした。
「ライザケアルはファライトライメンの隣の胞宇宙だし、双方の光子体の交流も盛んだ。そんなわけで、ライザケアルの技術、文化レベルも、近接胞宇宙の中ではファライトライメンに次いで上位に位置している。ただ、ライザケアルの住民全体からすれば、光子体は少数派で、だから、あなた方に対して、胞宇宙の代表として会うのは、光子体ではない、多数派の特使が必要との考えで…」
「そういう事情はわからないでもないですが」
タケルヒノは難しい顔を作って、応対した。
「光子体なら、距離に関係なく宇宙船に来ることはできますが、そうでない人が特使として、どうやって来るんですか? 確か、ライザケアルは、光子体転換技術が伝播してからは、生身の人間の宇宙旅行技術は、あまり進歩していないと聞いてますけど」
「胞宇宙内の航宙技術ならライザケアルにもあります」
使者は言ったが、すぐに声のトーンは落ちる。
「まあ、初歩的なもので、みなさんのようにはいきませんが」
「第3惑星からここまで、どれぐらいかかります」
タケルヒノはいきなり核心をついた。
「3,4年は…」
「僕ら、そんなに長くはライザケアルにはいませんよ」
タケルヒノの指摘に、ライザケアルの使者は、押し黙った。
2人並んだ光子体が、頭を垂れたまま沈黙している。
――このまま、ずっと黙ったまんまじゃ嫌だなあ。
「わかりました」
結局、タケルヒノが折れた。
「こちらで、第3惑星まで行きます。その代わり、特使の方以外とは、お話しませんので、それはそちらで調整してください」
ライザケアルの使者は、思わず安堵の表情をあらわした。
それにひきかえ、フラインディルのほうは、意外、というより不満気な顔をタケルヒノに向ける。
「大丈夫なのか? その…、引き受けたりして、ファライトライメンに行くのが遅れたりとかは…」
「その点は、ご心配なく」タケルヒノはフラインディルの弁をさえぎった「そちらの事情も知りませんけど、奥さんによろしく伝えてください」
スラゥタディルのことを言われたフラインディルは、もう抗弁をあきらめて、口を閉じた。
2人の光子体が去った後、シールドを張り直すと、ジムドナルドが言った。
「第3惑星には俺が行くぞ」
え? という顔のタケルヒノだが、反論より先にジムドナルドが言葉をかぶせる。
「こういうときに、お前が行っちゃダメなことぐらいは、わかるだろ?」
「それはそうだが、ジルフーコはダーの宇宙船を造らなきゃならないんだし、彼に行かせるわけには…」
「ジルフーコは、この件、関係ないだろ。宇宙船造らせておけばいい」
「だって君、操縦できないじゃないか」
「いつの話ししてるんだよ」
ジムドナルドは豪快に笑った。
「ずっと一緒だったんだぞ。もう宇宙船の操縦なんか覚えたよ。お前、俺のこと、少し見くびってないか?」




