枷付きの未来(3)
ジムドナルドはミーティングルームのソファに寝転んでいた。
ジムドナルドお気に入りのソファ、と、皆、言うわけだが、実は、ジムドナルドはソファなんか好きなわけではなかった。
最近、自室にはシャワーと着替えぐらいでしか帰らない。
もちろん、ミーティングルーム以外でも、ふらふらしてるわけだが、単に、部屋に帰りたくないだけだった。
ケミコさんの軽い走行音が近づいてくる、ダーがミーティングルームに入ってきた。
「夜食いかがです?」
ケミコさんの天板の上に、ホットドッグとコーラが載っている。ジムドナルドはホットドッグを取った。
「ずいぶんサービスがいいな」
「もうすぐ、お別れですからね」
ダーは腕を曲げて、コーラのカップを天板からサイドテーブルに移した。
「ライザケアルに着いたら、新しい宇宙船を作ります」
「そうか」ジムドナルドはホットドッグにかぶりついた「世話になったな」
「楽しかったですよ」
ダーは言ったが、声はいつもどおり、平坦そのものだった。
「起動してから、こんなに楽しい思いをしたのは、初めてです」
「いつも思うんだが」
ジムドナルドはサイドテーブルのコーラを取って、いっきに半分飲む。
「あんた、ずいぶん人間ぽいよな」
「それは、わたしが、とても高性能なコンピュータだからですよ」
ダーは諭すようにジムドナルドに言った。
「計算の速いコンピュータや、頭のいい人間は、あなたや、わたしのようになります。ジムドナルド、わたしはあなたのことがとても心配です」
「俺じゃなくて、サイカーラクラの心配しろよ」
「それはしています。だからボゥシューにお願いしました。ジルフーコもいるし、なんとかなるでしょう」
「俺にもいろいろいるから、心配すんな」
「ヒューリューリーとザワディですか?」
「…いや、そいつらは、数に入れないでくれ」
「優しいジムドナルド」
ダーは詠うように言った。
「女の子たちのあなたに対する評判は悪くなかったけど、なびく子はいなかった。何故だかわかる?」
「優しすぎるのは、モテないからな」
「いいえ」
ダーの表情のない表情が、ジムドナルドを包む。
「あなたが、タケルヒノを好き過ぎるから」
ダーが笑うわけがないのだが、そのときのダーは、笑ったようにしか、ジムドナルドには見えなかった。
「でも、心配しないで」
ジムドナルドの心を知ってか知らずか、ダーは言葉を止めない。
「そんなことぐらい、モノともしない、素敵な子がきっと現れるから」
「そういう、予言者みたいな言い方はやめてくれ」
さすがにジムドナルドも憮然として、コーラのカップをテーブルに戻した。
「地球にいたころ、そういうやつらとよくつるんだが、何人かはホンモノだった。いまのあんたにそっくりな言い方するんだ」
「まあ、それは、既定事項だから、ほんとうは、どうでも良いのだけど」
ダーはいったん言葉を切り、口調が変わった。
「ここからが、本当のお願い。わたしの最初で最後のお願いですから、きちんと聞いてください」
えらく、あらたまって、気持ち悪いな、と、おどけながらも、ジムドナルドはソファから立ち上がり、ダーにきちんと向いた。
「ジムドナルド、あなたは、デルボラのようにはならないで」
「デルボラ?」
「デルボラは、宇宙皇帝の名前。彼しかいないから、あの胞宇宙はデルボラと呼ばれている。デルボラは、第一光子体がとても好きだった。いいえ、違う。たぶん、いまでもずっと好きなのだと思う。他の何も見えないくらいに」




