表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダー7  作者: 二月三月
運命の7人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/251

4:3(4)

 

「あのね、サイカーラクラ」

「…」

「サイカーラクラ?」

 返事がないので、タケルヒノはサイカーラクラのフェースガードの前に手をかざした。いちおう、カメラで取り込んでジョブ画面と半透明で重ねている、というふれこみなのだが、かざした手を動かしても、とくに反応はない。やむおえず、タケルヒノはサイカーラクラの肩をポンと叩いた。

 びくぅ、と体を硬直させたサイカーラクラはフェースガードを開く、タケルヒノを認めた彼女は、驚きに目をまんまるにしたまま、瞬時にシャッターを閉めた。

「あ、あ、すみません、読むのに没頭してたので」

「いや、こちらこそ申し訳ない」また顔隠されちゃったな、タケルヒノは少ししょんぼりした。

「何かご用でしょうか?」

「うん、地球に降りる人数だけど、四人にしたよ」

「それは…」サイカーラクラの言葉はそこで止まってしまった。良かったですね、とは言いづらいし、大変ですね、というのもはばかられるような気がする。

「それで、実は、サイカーラクラにお願いがあるんだ」

「彼らと関係あります?」

「うん、まあ」タケルヒノは言いにくそうだ「いまはまだ無理で、地球の衛星軌道に入ってからになるんだけど」

「監視しますか?」サイカーラクラはさらっと言った。

「そうしたほうが良いと思う」

「わかりました」

 サイカーラクラはまったく事務的に了承した。

 

「いまから使い方教えるから」

 ジルフーコは板ガムを半分に切ったような小片をジムドナルドに手渡した。

「まず注意するのは、ラバースーツ、そう、いま着てるやつね、必ずラバースーツを着た状態で使用すること。そうしないと皮膚が裂ける」

「裂けるって、どこの皮膚が?」

「筋肉がついてるトコの皮膚全部だよ、急激にパンプアップするから、ラバースーツで押さえ込むんだ。それで、外側のシール剤をはがして、舌の後ろ、そう、そこに入れて、下顎との間に挟みこむ。あとは、人によるけど、ジムドナルドの場合は10~15分ってとこかな」

「そのぐらいしたら効いてくる、ってヤツ?」

「いや、効き目はすぐだよ、使えるリミットがそれぐらいかな、と、限界超えたら動けなくなるから、鍛えてればもうちょい長く使えると思うけど、それぐらいがいいとこじゃない?」

「効果はどんなもん?」

「100メートル7秒で走れるよ。3メートルぐらいの塀なら、道具なしで、乗り越えられるんじゃないかな」

「地味だなー」

「ビルワンジルなら、効果も、時間も倍くらいだろう、地味なのは普段の精進が足りないせいだと思って。あとひとつ忠告だけど、これ使ったら、一心不乱に逃げることだけ考えたほうがいい。普通の人間相手の喧嘩なら、まず負けないとは思うけど、すぐに動けなくなるから、つかまったら袋叩きだ」

「試しに使ってみていい?」

「かまわないけど。地球に降りられなくなるんじゃないかなぁ。使用後、しばらくすると物凄い筋肉痛で、三日くらいは七転八倒だよ」

「どうもありがとう」ジムドナルドはそう言って、ジルフーコに強く握手した「他のみんなにも渡してくれるか?」

 そのつもりだよ、とジルフーコは答えた。

 

「こっちが、キャットフード系で、こっちは合成ポリペプチド、で、いつも食べてるスパムを少しマシにしたやつと、それから…」

 ボゥシューは小分けした袋を十種類ほどビルワンジルに手渡した。

「うわ、すごいな、ありがとう」

 両手いっぱいに、ビルワンジルは袋をかかえて前が見えないほどだ。

「あんまり、ありがとうでもない」ボゥシューは不満げだ「相手は、かなりの美食家なんだろう?」

「実は、そうだ。普通なら、新鮮な生肉しか食べない」

「そうじゃないかと思って、とっておきを用意したんだけど…」めずらしくボゥシューのテンションが低い「間に合わなかった」

「間に合わなかった? 他にもあるのか?」

「オーダーシステム、フルに使ってもあと二週間かかる。やるだけやって、あとはタケルヒノにまかせるけど、どうやっても、降下には間に合わない」

「無理言ってすまなかった」ビルワンジルはすまなそうにボゥシューに言った「これだけあるんだから、どれかは口にあうかもしれない。ボゥシュー、本当にありがとう」

 

「本当にエルブルス山でいいの?」

「うん、そこでいい」

 タケルヒノは何度も降下地点の確認をし、そのたびにイリナイワノフは同じ場所を希望した。

着陸艇(ランダー)はパラシュート開かなくても、降下できるようには設計してる。でも、安全のため水上着陸の方がいいと思うんだけど」

「でも、そこからエルブルス山までいく時間がもったいないんだよ」

 タケルヒノの説得にも、イリナイワノフ、耳を貸す気はないらしい

衝撃吸収体(ショックアブソーバ)はついてるけど、かなりキツイよ」

「だいじょうぶ、あたし、すごく頑丈だから」

 とうとう、タケルヒノがおれた。

「エルブルス山は標高5642メートル、くれぐれも防寒対策と低酸素対策はしっかりね」

「うん、ありがとう、タケルヒノ」

 イリナイワノフは、とびっきりの笑顔で答えた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ