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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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枷付きの未来(1)

 

 次元変換駆動装置の制御系の改修に、一段落つけたタケルヒノは、多目的機(マルチロール)の乗員室で、簡単な説明会を開くことにした。もともと、そんなことをする義理はないのだが、説明なしに帰すと、もっと面倒なことになりそうだと思ったのだ。

 操縦室から乗組員室に入るとスラゥタディルがいた。

 ぎょっとしたタケルヒノが、口を開けるより早く、ボゥシューが割って入った。

「リーボゥディルと一緒に来たんだ。リーボゥディルは宇宙船(ボード)に行かせた。ダーに見てもらってる」

 反論したいのはやまやまだが、そんなことをしても事態が好転することはありえないと感じ、タケルヒノは愛想笑いでごまかした。

  スラゥタディルはレウインデを気にしているようで、ちらちらとそちらを伺っているが、表面上は平静を取りつくろっている。

「これから説明しますが」

 タケルヒノは言った。

「質問はあとでまとめて受けるので、とりあえず最後まで説明させてください」

 不満気な表情のフラインディル。言っても無理だとは思ったが、タケルヒノは言うだけは言った。

「侵入の際に破壊した部分とシールドは復旧しました。あとは日常的なメンテナンスプログラムに手を加えたので、作業ロボット(ケミコさん)が引き継ぎます。もう僕らがやったような無茶でもしない限り、宇宙船の中には入れません」

「あ、いいよいいよ、あんなの」と、レウインデはまるで自分の持ち物のように言う「もともと乗り捨てられてた漂流船だし、気にする必要ないって」

 フラインディルが思わず口を開きそうになったが、スラゥタディルが睨みつけて黙らせた。

「周期発振していたパルスレーザーは停止しました。他はともかく、第4惑星の電離層とオゾン層への影響が厳しすぎるので」

「すまない、ひとつだけ教えてくれ」

どうにも我慢できなくなったフラインディルが質問した。

「パルスレーザーだけ止めたということは、主駆動系は動かしたまなのか?」

「そうですよ」

「なぜ?」

「急に第4惑星へのエネルギー供給を止めたら、住んでる人が困るじゃないですか」

 いきなりレウインデが、けたたましく笑い出した。鬼の形相でフラインディルが睨みつけるが、そんなものレウインデにとっては平気のへいだ。

「ああ、可笑しいったら」

 レウインデは笑い続けて、息も絶え絶えだが、しゃべるのをやめる気はないらしい。

「いやぁ、ラクトゥーナルのあんな顔見られただけでも来たかいがあったよ。それにしてもタケルヒノ、あなたは本当に面倒見がいいねぇ。それで、エネルギー伝送方式はどうやって切り替えたの?」

「偵察衛星と一緒に、次元変換伝送子機の投下用衛星を軌道に投入しています。子機でざっと2万機は投下したかな。生産しながら投下するから、最終的には、第4惑星の住人10人に1個ぐらいの割合になります。今度は赤道直下だけでなく、まんべんなくバラ撒いているから、地域格差はなくなります。幸い、ラジオがもう実用化されているので、使い方は、偵察衛星からラジオ放送で流してます」

「地球で、情報キューブ、バラ撒いたのと同じか」

 ジムドナルドの言葉に、タケルヒノは肯いた。

「あの時は、時間もなかったし、いろんなことに不慣れだったからね。その点は今回のほうがスムーズだったな」

「しかし、その…」

 フラインディルは、まだ煮え切らないようだ。

「こんな膨大なエネルギーを与えてしまって、彼らは…、大丈夫なのか?」

「膨大じゃありませんよ。20パーセントです」

 室内にいる、タケルヒノ以外の全員が、わけがわからず、きょとん、とした。

 タケルヒノは説明を続ける。

「いまは暫定期間ですが、徐々に出力を絞って、第4惑星の総エネルギー使用量の20パーセントまでに制限します。残り80パーセントは化石エネルギーなり、太陽光その他の自然エネルギーなり、自前でやってもらうということです」

「でも、それで、彼ら、納得するかしら?」

 スラゥタディルは言ったが、タケルヒノはその点はあまり重要視していないようだった。

「うーん、まあ、納得しないんなら、衛星軌道上の偵察衛星や投下衛星をハックして、第5惑星の外側の惑星軌道にいる宇宙船の軌道を割り出して、シールドをこじ開け、乗り込んで、伝送プログラムを変えてもらえば良いだけの話です。そこまで自分たちでできれば、ここの設備を自由に使える権利ぐらいはあると思いますよ」

 まあ、そうね、と言ったスラゥタディルだが、彼女自身が納得したかどうかはわからない。

「ま、なんにせよ。いろいろ楽しかったよ」

 レウインデは言った。

「皇帝陛下への、土産話もたっぷりだし、あの爺が、喜ぶかどうかまではわからないけど。じゃ、また来るね」

「おい、ちょっと待て」

 泡沫光となって拡散しようとしたレウインデを、ジムドナルドが呼び止めた。

「こっちにも聞きたいことがあるんだ。帰る前に答えてけ」

 光の消泡が止まる。

「いいけど、何が聞きたいんだい?」

「お前のトコの光子体(リーニア)な、そろいもそろって阿呆なのは、何か理由(わけ)でもあるのか?」 

 ああ、と、レウインデは深く嘆息した。

「まあねぇ、ふつうに見たらそう思うよねえ」

 もちろん、ジムドナルドはレウインデも含めて言ったつもりだったのだが、そんなことは思いつきもしない、レウインデだ。

「たぶん、皇帝陛下が悪いんだと思うんだよねぇ」

 言いながら、レウインデは、フラインディルとスラゥタディル、ラクトゥーナルとアグリアータをチラ見した。

「皇帝陛下、ってさ。まあ、光子体(リーニア)には影響あるんだ。胞障壁(セルレス)を隔てて、別の胞宇宙(セルベル)にいる光子体(リーニア)を消しちゃったこともあるくらいだから。どんな光子体(リーニア)でも消せるわけじゃないのは、最初の光子体(ピスリーニア)がピンピンしてるんだから、皆、わかりそうなモンだけど。わからない奴にはわからないんだろうねぇ」

 レウインデは、さも可笑しそうに、くく、と笑った。

「そうすると、まあ、皇帝陛下の傍にいようなんて物好きは、2通りしかいなくなる。自分が消されようがどうしようが、あまり興味ない奴と、皇帝陛下を利用して、他の光子体(リーニア)を消そうとする奴だ」

 ここまで言って、レウインデは、もう一度、くく、と笑い、もういいかな? と尋ねた。

「あんたが自分の成り行きに興味ないのはわかったが」

 レウインデの弁を聞いて、ジムドナルドが言った。

「宇宙皇帝の傍にいるのは何でだ?」

「友だち少なそうだからねぇ、あの人」

 レウインデは滔々と語った。

「私も友だちあんまりいないから、何か可哀想でね」

 皮肉を表現できる、ぎりぎりの煌めきを残して。

 レウインデは去ってしまった。

「似た者同士か? 宇宙皇帝には、会ったことないけどな」

 消えたレウインデの残照に語りかけるジムドナルドに、あなたもでしょ、と口に出しそうになったアグリアータは、あわてて言葉を飲み込んだ。

 


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