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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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無限への誘い(8)

 

 船内中央部、主駆動部まで難なく到達し、ジルフーコとタケルヒノは、早速、作業を開始した。

 他の3人は高みの見物である、というよりは、主駆動機関の構造がいまだよくわからないので、手出しできない、というのが正しい。

 ただ黙々と作業を続ける2人だが、その傍らに、淡い光が漂いはじめた。

 はじめは霧のような、ほとんど目に見えないほどだったそれは、次第に輝きを増し、やがて、人の形をとった。

「困りますね。勝手なことをされては」

 タケルヒノもジルフーコも答えない。作業の手を止めずに、現れた光子体(リーニア)を無視し続ける。

 ジムドナルドが、すーっと飛んで、光子体(リーニア)の横についた。

「この宇宙船の持ち主に頼まれたんだ。最近、盗電する奴がいるから何とかしてくれってな」

「あなたは誰?」

「人に名前を尋ねるときは、自分が名乗ってからだろ」

 光子体(リーニア)の不明瞭な頭部が、わずかに歪んだ。笑ったのかもしれない。

「ルミザウ」

 光子体(リーニア)は言った。

「ジムドナルドだ」

 ほう、と息を吐くような音を出したルミザウは、続けて尋ねる。

「ジムドナルドと言うと、あのジムドナルド?」

「どのジムドナルドかまでは知らんが、ジムドナルドだ」

「困りましたね」

 そうは言うものの、ルミザウはそもそも表情が判然とせず、本当に困っているのかどうかすらわからない。

「良い拾い物だと思っていましたが、持ち主がいましたか」

 もちろん嘘だ。ルミザウが知らぬはずはない。胞障壁(セルベル)に宇宙船を乗り捨てたりするのは、最初の光子体(ピスリーニア)しかいないのだ。

「そうだ、俺たちはこいつをなんとかしろ(丶丶丶丶丶丶)と言われてる」

「なんとかしなくても良いのではありませんか?」

 ルミザウの口調は平坦で、抑揚というものがまるでない。あるいは感情が無いのかもしれないが、意志だけは、ぼんやりとした輪郭とは裏腹に、強いものが感じられる。

「まあ、そうなんだが」驚いたことに、ジムドナルドは、半ばルミザウの言葉を肯定した「そういうの決めるのは、俺じゃなくてタケルヒノだからな。タケルヒノが引き受けたんだから、俺たちはなんとかしなきゃ(丶丶丶丶丶丶丶丶)ならない(丶丶丶丶)

 ルミザウは坦々と作業を続ける2人に顔を向けたが、またすぐに、ジムドナルドのほうを向いた。

「ここのエネルギーを無駄にしておくのは惜しいのです。有効に使うべきだと思いますが」

「第4惑星の人間にしてみれば、そんなとこだろうが、俺たちは第4惑星とは関係ないしな」

「私も第4惑星とは関係有りませんよ」

「じゃあ、大人しくしてるが吉だな」

 ルミザウの頭部がまた歪む、小馬鹿にしたような、表情はわからないのに、ジムドナルドにはそう感じられた。

「これは実験なのですよ」

  ルミザウは言った。

「無尽蔵のエネルギーを与えたら、文化レベルは果たして上がるのかどうか。あなた、興味はありませんか?」

「俺も実験はよくやったが」

 ジムドナルドはそこで言葉をいったん切り、目を閉じた。再び目を開いたときの彼の口調は、いつにもまして挑戦的だった。

「実験の邪魔しに来るような奴に、邪魔しないで、なんて、お願いしにいったことはなかったなあ」

 では、どうしたのか、という質問を待ち構えていたのに、ルミザウの問いは別のものだった。

「宇宙皇帝をどう思われますか?」

 別に、とジムドナルドは答えた。

「会ったことないしな。噂だけで人のことをどうこういう趣味はない」

無限の(丶丶丶)エネルギーを」

 ルミザウの淡々とした口調が、無限の(丶丶丶)、の部分だけ抑揚を帯びた。

「宇宙皇帝はすべての胞宇宙(セルベル)に無尽蔵のエネルギーを供給しようとしているのです。ティムナーはその最初の栄えある胞宇宙(セルベル)に選ばれたのです」

「勲章だのなんだのをくれてやるときは、あらかじめ相手に打診しておいたほうがいいぞ。人によっちゃぁ、そういうの面倒くさがる奴がいるからな」

 ジムドナルドは、トン、と床を蹴って天井高くに飛び、ルミザウを見下ろす位置で止まった。

「たとえば俺がそうだ」

「被験体の意見など、いちいち聞いてられませんよ」

 ルミザウは、とくにジムドナルドを見上げるでもなく、そのまま話し続ける。

「それで、平等で豊かな暮らしが手に入るのだから、感謝して欲しいものです」

「あまり平等じゃなさそうだが?」

 ジムドナルドは言葉尻をあげつらった。

「赤道直下だけじゃ、逆に不公平だろ」

「それはティムナーの住民が解決すべきことですよ。別に独り占めしろなどとは言ってないわけですから、仲良く使うことができないのなら、それは、ティムナーのせい、それも含めての実験です」

「能書きはけっこうだが」ジムドナルドは断じた「そういうことは、俺たちじゃなくて、宇宙船の持ち主に言ってくれ」

「言いましたとも」

 ルミザウは、すぐさま反論した。

「なかなか聞き分けのない御仁なのです。つまり、宇宙皇帝と最初の光子体(ピスリーニア)の確執の根本はそこにあります」

 


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