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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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無限への誘い(6)

 

「むこうの宇宙船と同一軌道上、距離は18万キロメートル。ほとんど隣り合って飛んでるようなもんだよ」

 ジルフーコは管制室のコンソールで航行プログラムを切り替える。

「これで、イリナイワノフのシミュレーター筐体とシンクロした。微妙な差異は許してもらうとして、だいたい、いけるんじゃないかな」

「じゃ、やってみるよ」

「おっと、まだ駄目だ」

 筐体のレバーに手をかけたイリナイワノフを、タケルヒノが制した。

「動かすのは、僕らが出かけてからにしてくれ。あと、イリナイワノフの操作に応じて、宇宙船(ボード)全体が向きを変えるから、ビルワンジル、ヒューリューリー、ザワディ、それにダーも、みんな管制室にいてください。他の場所だと、ちょっと大変だろうから」

「留守番のほうは、まかせとけ」

 ビルワンジルは言った。

「そっちも、あまり無理するなよ」

 

 ジムドナルドがあまりうるさく言うので、改修された多目的機(マルチロール)は二回りほど大きくなり、座席はかなりゆったりしたものになった。操縦室と乗組員室、積載室(ペイロード)が分離され、それぞれ厚い隔壁で分離されている。

「よしよし、なかなかいい感じだ」

 ジムドナルドは3人がけのソファを大股広げて専有している。他にも椅子はあるので、ボゥシューもサイカーラクラも文句は言わない。

「到着は6時間後だよ」

 操縦室から出てきたタケルヒノが言った。

「いま、ジルフーコが操縦してるのですか?」

 サイカーラクラの問いに、とタケルヒノは首を振った。

「もう自動操縦だから、こっちに来るように誘ったんだけど、操縦室のほうが落ち着くってさ。あ、そうだ。サイカーラクラ。ジルフーコに飲み物でも持っていってくれる?」

 わかりました、とサイカーラクラは、ドリンクサーバに寄って、レモネードを2杯入れると、操縦室に入っていった。

「で? むこうに着いたらどうする?」

 ソファにふんぞり返ったまま、ジムドナルドがタケルヒノに尋ねる。

「まず、シールドをこじ開けないとな」

 タケルヒノは答えた。

「プラズマシールドが船殻に張られているのは確認してる。宇宙船の設計図は情報キューブから拾ったが、中がどう改造されているかはわからない」

「パラレスケル=ゼルは、ほとんど手付かずだったがな」

「第4惑星へのエネルギー伝送は無改造じゃ無理だから、いくらか手入れてると思う。でも、作業はむこうのケミコさんがやるにしても、光子体(リーニア)が指示だけで宇宙船を改造するのは、かなり骨の折れる仕事だと思う」

最初の光子体(ピスリーニア)は自分でやってたんだろ?」

「あの人は口がうまいからなあ」

 そこだけタケルヒノの口調が変わる。

「誰かやってくれる人がいれば、やってもらうんだと思うよ。誰もいなけりゃ自分でやるだろうけど」

「つくづく、イヤなオヤジだな」

 そうなんだけどね、とタケルヒノはボゥシューに同意しつつも、寂しそうだ。自分でそう思っていても、他人に指摘されると堪えるのだろう。

「で、こじ開けて中に入ったらどうするんだ?」

「そこから先は、出たとこ勝負かなあ」

「意外と大ざっぱなんだな。もう少し計画立ててるのかと思ってた」

 ボゥシューに言われて、タケルヒノはバツの悪そうな顔をした。

「中に誰かがいるかどうかで、だいぶ違うから」

「誰もいない、ってことはないんじゃないか?」

「何かあったら駆けつける、ってことにしてるかもしれない。光子体(リーニア)なら、それができるし」

「そうかなあ」

「まあ、希望的観測、ってやつだよ。そのほうが仕事が簡単なんだ」

「いたら、どうするんだ?」

 ジムドナルドは口元だけゆるめた笑いを浮かべながら、タケルヒノに聞いた。

「最初は、話し合いだろうな」

「その次は?」

「実力行使」

「前から思ってたんだけどな」ジムドナルドは言った「お前、宗教家向いてるぞ。2回めに殴る、ってのはセオリーだよ。その次に何するか知ってるか?」

「何か食べる」

「何だ、万全じゃないか」

 言って、ジムドナルドはボゥシューに向いた。

「これだけ緻密な計画なら万に1つの抜けもない、俺が保証するよ」

 ボゥシューは平たい顔で2人の会話を聞いていたが、特に肯定も否定もせず、シートに備え付けのコンソールに目を戻した。

 

「レモネード飲みますか?」

「あ、ありがとう」

 ジルフーコにレモネードを手渡すと、サイカーラクラは副操縦席に腰掛けた。ざっと航行ディスプレイの内容に目を通す。

「順調ですね」

「そうだね」

 サイカーラクラは自分の分のレモネードを口に含んだ。

「ジルフーコはひとりが好きですか?」

 5分の1ほどレモネードを飲んだ勢いで、サイカーラクラは、尋ねてみた。

「いや」ジルフーコは答えた「人がたくさんいるほうが好きだよ。にぎやかだしね」

「では、何故、操縦室にいますか? むこうの部屋のほうがたくさんいますよ」

「先頭が好きなんだ」

 ジルフーコは笑った。いつものいたずらっ子のような笑顔ではなく、何か、はにかむような笑い方だった。

「乗り物乗ってる時はね、いつもいちばん前。宇宙船だけじゃなくて、電車とか船とか、とにかく、いちばん前で景色を眺めるのが好き」

「そうですか」

 サイカーラクラは、ほっとした顔で言葉を続けた。

「では、私がここにいても邪魔ではありませんね」

 ジルフーコはサイカーラクラのほうを向いた。行儀よくコクピットに収まっているサイカーラクラは、よくできた人形のようにも見えた。

「もちろんだよ。いてくれると、うれしいよ」

「本当ですか?」

「うん」

「私もうれしいです」

 サイカーラクラはそう言ってから、ふと気がついて、前方のスクリーンを見つめた。

「景色、見えませんね」

「まあ、宇宙だしね」

 実際、ティムナーの太陽は左舷の方向だし、第一光子体(ピスリーニア)の宇宙船もまだずっと先で視認はできない。星も視野角内には暗い星ばかりでぱっとしない。

「何も見えなくても、先頭は先頭さ」

「それは、そうですね」

 何も見えなくても、楽しいことってあるのだな、サイカーラクラはそちらのほうに驚いていた。

 


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