無限への誘い(4)
「ボゥシューとサイカーラクラも行くって?」
タケルヒノがミーティングルームに入った途端、ジムドナルドが声をかけた。
「あ、ああ、なんか、そうみたいだね」
「そうみたい、って、お前が許可出したんだろ?」
タケルヒノはジムドナルドには答えず、横を通りかかったダーを見つめる。
「私は何もしていませんよ」
ダーは言うのだが、本当に何もしていなければ、そんなこと言うはずもない。
「いえ、そうではなくて、留守中、よろしくお願いします、と言いたかっただけで…」
「残るのはイリナイワノフだけ?」
「そうなりますが、彼女には別の件で待機してもらわなければいけないので、実質、あなた一人にお任せ、ということになりますが…」
「なんと、私をお忘れですか」
いきなりヒューリューリーが体を回しだした。
「ザワディもいます。むしろ本艦の守りは万全と言えるでしょう」
「それについては、そうだけど…」
何か言いたげなタケルヒノを先回りして、ダーが言う。
「ヒューリューリーもザワディも、棚の上のものを取ってもらうには不向きですね。誰か残していってくださる?」
タケルヒノは、あきらめ顔でビルワンジルの側まで歩いて行った。
「残ってもらって、ダーのサポートをお願いできるかな?」
「オレは、かまわんが」
ビルワンジルは、バイバイ、と手を振るジムドナルドとジルフーコに、片目ををつぶって見せた。
「そっちは、大丈夫なのか?」
うーん、と唸ったタケルヒノだったが、それも一瞬で、掌を上に大きく両腕を開いた。
「なんとかはなる。なんとかなるさ。いままでだって、なんとかなってきたんだ」
ビルワンジルに答えるというより、自分に言い聞かせるように、タケルヒノは言った。
「あの、おちゃらけ夫婦は来るのか?」
ジムドナルドがタケルヒノの背中に質問を浴びせた。
「来るな、とは言ってあるが」
タケルヒノは振り向きもせずに言う。
「2人とも他人の言うこと聞くようなタイプじゃないからなあ」
「息子は?」
「遺伝でも環境でも、危ないところに、わざわざ、首を突っ込むように育った可能性が、非常に高い。本来なら親がみるべきだろうが、あの親じゃ、こころもとないんだが…、まあ、ボゥシューもいるし、なんとかなるだろう」
「ゴーガイヤは?」
「さすがに彼は、僕の管轄じゃないんじゃないか?」
「勢いで聞いてみただけだ。気にすんな」
ジムドナルドは大声で笑った。
「え? 2人とも行くの?」
「そうだ」
ボゥシューが、あっけらかんと、イリナイワノフに言った。
「イリナイワノフは、こちらでお仕事あるんでしたっけ。一緒には行けませんが、3人で宇宙服をお揃いで新調しようかと思うのですよ。どうでしょう?」
サイカーラクラの、気を使ってるんだか、使ってないんだか、よくわからない言い回しに、イリナイワノフは困惑している。
「いや、宇宙服はどうでもいいんだけどさ。じゃあ、あたし、ひとりだけなの?」
「ダーが、いますよ」
「そりゃ、ダーはいるけどさ」
「ヒューリューリーもいるぞ」
「いるね。確かに」
「ザワディ、いますよ」
「…」
ボゥシューとサイカーラクラは、互いに顔を見合わせ、同時に言った。
「ビルワンジルが代わりに残る」
「ビルワンジルが、私たちの代わりですから、大丈夫です」
「ちょ、なにそれ、ビルワンジル?」イリナイワノフの反応はあからさまだった「何でビルワンジルなの、ちょ、よくわかんないんですけど、なにそれ」
イリナイワノフの顔が、真っ赤になって、意味もなく、わたわたしだす。
「ダーが、棚の上のものを取ってもらいたい、とかで。ビルワンジルが背が高いので、ビルワンジルになりました」
「背がたかい、とか、どーでもいいじゃん。それよか、ビルワンジルと2人っきりとか、ありえない」
「ダーがいるだろ」
「ヒューヒューさんもいます。それにザワディも」
あー、あー、あー、と叫んで、イリナイワノフは、頭をぶんぶん振った。金の柔らかな髪が、うそみたいに、ふわりと舞う。
「あー、なんだか、わからないから、ランニング行ってくる」
言うより早く、部屋を飛び出たイリナイワノフの背中を視線で追いながら、サイカーラクラが言った。
「見込みあり、で、いいんでしょうか?」
よくわからん、と、ボゥシューが首を傾けた。




