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ワンダー7  作者: 二月三月
光子体を追え

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無限への誘い(3)

 

「第4惑星に飛ばした偵察衛星はどうなってる?」

「普通に動いてるけど、見る?」

 タケルヒノに聞かれたジルフーコは、衛星画像と収集データを壁スクリーンに出した。5秒間隔で定点を変えながら、映像はめまぐるしく切り替わる。横を流れるデータもスクロールが早すぎて目で追うことができない。

「さすがに、これだとよくわからないな。解析の方は?」

「それは、サイカーラクラがやってる。たぶん、実験室にいるよ」

「どこだって?」

 聞き返すタケルヒノに、ジルフーコは、もう一度繰り返した。

「ボゥシューの実験室だよ。解析はどこでもできるしね。最近、サイカーラクラは、あそこに入り浸りだから、たぶん、いると思うよ」

 

「サイカーラクラ、いる?」

 実験室の入り口から、タケルヒノが部屋をのぞきこむ。

「なんでしょう?」

 ボゥシューの傍らで、コンソールとにらめっこしていたサイカーラクラが顔を上げた。

「第4惑星に送った偵察衛星のデータを解析してくれてると聞いたので…」

「いま、やってる最中ですが」サイカーラクラはコンソールに視線を戻した「何が知りたいですか?」

「第4惑星に向けられたエネルギーの使い道」

「電力です」

 サイカーラクラの操るコンソールに表示された、第4惑星のモデルはゆっくり回転している。赤道上に輝点が十数個表示され、自転によって中央に来るたびに一個ずつ赤く明滅する。

「宇宙船からのパルスレーザーを集光して、電力に変えています。第4惑星の集光施設から見て、ちょうど真上に宇宙船が位置するときに、パルスレーザーが発射される仕組みです。宇宙船側はレーザーの照射方向を相対的に固定しているので、原理上、集光施設は第4惑星の赤道上にしか設置できません」

「それだと、地域的に、エネルギー供給にムラがでるけど、どうしてるの?」

「どうもしていませんね」

「どういうこと?」

 第4惑星のモデルの地表に、曲がりくねった線が引かれていく。

「これが、国境線です。第4惑星は数十の国に分かれていますが、赤道上に領土を持つ国は、そのうちの5分の1程度です。集光施設、第4惑星からすれば、発電施設ですね。発電所を持つ国と、そうでない国とでは、技術格差が拡大しています。赤道直下の国々は、生産から消費に至るまで全てのエネルギーを電気で賄っていますが、他の国々は、石油、石炭などの化石エネルギーがほとんどです」

「そんな格差が生じていて、戦争にならないのか?」

 横で聞いていたボゥシューが、口をはさんだ。

「第4惑星の全体的な技術レベルが低めなので、まだ戦争できるような状況にありません」

「技術レベルが低いから戦争にならない? よくわからないな」

「赤道直下の国は自動車もすべて電気自動車です。航空機や機械化戦闘車両は実用化されていますが、すべて内燃機関動力です。電気駆動では電池がもちません。戦力の大きいほうが、継続的な戦闘に対して、航続距離のある自走兵器を敵陣内に進入させることが困難なため、国境付近の小競り合いはあっても、征服戦争は起こしづらいのです」

「発電所の無いほうが攻めてきたら?」

「それは、圧倒的に侵攻側が不利です。防御に対しては、域内電力を無尽蔵に使用できます。こういう場合は、真っ先にインフラ破壊が有効ですが、第4惑星は、電力供給のインフラだけがオーバーテクノロジーという歪な技術基板のため、集光装置や発電、配電施設を破壊することが事実上不可能です」

「持つ者と持たざる者か、当事者は大変そうだな」

「電力インフラの整備は国単位ではないようだけど、どうなっているの?」

 タケルヒノの問いに、サイカーラクラはコンソールを操作して答えを見つけ出す。

「会社形態になっていますね。多国籍企業という格好でしょうが、第4惑星には、まだ企業体そのものを国家と切り離すという考え方が出来ていません。ですから、この会社が、第4惑星唯一の多国籍企業ということになります。むりやり作ったんでしょうね」

「ありがとう、だいたいわかったよ」

 礼を言って立ち去ろうとするタケルヒノを、サイカーラクラが呼び止めた。

「お願いがあるのです」

「何だい?」

「私も第一光子体(ピスリーニア)の宇宙船に連れて行って欲しいのです」

 タケルヒノは、え、と口に出したきり、言葉を失ってしまった。

「ダメでしょうか?」

 椅子に腰掛けたまま、上目遣いに尋ねてくるサイカーラクラに、口ごもりながらも、なんとかタケルヒノは返事した。

「いや、ダメってことはないけど、どうして、急に?」

「私は励起子体(パウフラニア)です」

 サイカーラクラは淡々と話す。

「対重中性子体(レビフォノア)仕様の情報体(リーンファノア)です。だからと言って、重中性子体(レビフォノア)と戦わなければいけない、とか、そういうことでもないわけですが、世の中何があるかわかりませんし、少しずつ慣れたほうが良いと思うのです」

「今回は、重中性子体(レビフォノア)なんか出てこないよ」

「はじめは光子体(リーニア)ぐらいから、慣らしていくのが良いのではないかと」

 サイカーラクラの言い方は控え目だが、強い意志が感じられた。どうせ断っても勝手に付いてくるだろうし、それぐらいなら、許可しておとなしくしてもらったほうが楽だ。

「あまり無理しないでね」

「それは大丈夫、練習ですから」

「何だ、サイカーラクラも行くのか」

 ボゥシューが気軽に話しに乗っかってきた。

「じゃあ、ワタシも行こう」

 ぎょっとした顔で、タケルヒノがボゥシューを見つめる。

「行っちゃ、マズいのか?」

 タケルヒノが口を開く前に、ボゥシューが先攻した。

「いや、別に…、でも、何で?」

「理由なんかない」ボゥシューは言った「なんとなく、行きたくなっただけだ」

 これは、何を言っても無駄だな。そう思ったタケルヒノは、せめてもの希望を口に出した。

「くれぐれも無茶しないように」

「それは大丈夫、ワタシは無茶なんかしたことない」

「ボゥシューも一緒ですね。嬉しい」

 サイカーラクラが目を輝かして言う。

「そうだ、新しい宇宙服をジルフーコに作ってもらおう。ワタシが設計すると機能的に抜けが多いから、デザインだけ自分でやるのがいいな。もちろんサイカーラクラの分も」

「おそろいですね。嬉しい。イリナイワノフの分も作りましょう」

「ああ、そうだな。でも、イリナイワノフは動きとか、形状にこだわりがあるらしいから、揃えられるのは色ぐらいかな」

「色はべつべつのほうがいいかも、むしろ、私たちがイリナイワノフの意見に合わせたほうが…」

「そうだな、部屋に帰って相談しよう」

「そうしましょう」

 呆然と突っ立ったままのタケルヒノを残し、ボゥシューとサイカーラクラは実験室を出ていった。

 しばらく、タケルヒノはそのままだったが、やがて、クスリ、と笑うと、しょうがないなあ、と呟きながら、ミーティングルームのほうへ歩き出した。

 


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